地誌学概論

文字数 8,541文字

 本稿では『地誌学概論(朝倉書店2020を通読し、特に日本グローバル地誌インドテーマ重視地誌中近東ヨーロッパ広域動態地誌アメリカ合州国網羅累積地誌的アプローチに関する項目を要約し、地球世界の諸地域に対する理解の深化を目指します。

グローバリゼーションと日本地誌(菊地俊夫)

グローバリゼーションとは何か 日本地誌の枠組み

 「グローバリゼーションは、人・財(モノ)・資本(金)・サービス・情報の国際的な移動が活発になり、世界における経済的な結び付きが強まる」(37頁)現象であり、その要因は制度的・文化的障壁の撤廃、交通社会資本・情報通信技術の発達である。グローバル化の具体例として、農工業貿易や海外旅行などが挙げられる。

グローバリゼーションと人の移動

 海外渡航自由化(1964)により、日本国民の海外旅行は増加を続けている。これに対し、海外からの訪日外国人観光客は微増程度であったが、観光立国や東京五輪を見越した政策を契機に、2000年代から大きく増加する。特に、入国査証が緩和された中華・東南アジアからの観光客増加や、格安航空会社の広域普及、そして日本文化(漫画・アニメなどサブカルチャーを含む)への関心の高まりによって、2013(平成二十五)年以降は急増している。彼らはインターネットSNSで観光情報を送受信し、出身地域は中華(台湾・香港も)大韓民国・東南アジアが多い。

グローバリゼーションとモノの移動

 東京における野菜市場のグローバル化を示す商品として、南瓜(カボチャ)が挙げられる。1970(昭和四十五)年の我が国では、日本列島の豊かな気候を利用し、季節と共に産地を香川宮崎茨城北海道へと北上させて、東京市場への長期的な供給を可能にしていたが、冬季には収穫できなかった。しかしその後、東京は人口集中が進み、冬季の需要も拡大。そのため2010(平成二十二)年には、供給量の増大と共に、日本が冬でも南瓜を供給できるニュージーランドメキシコからの輸入が増加。予冷貯蔵、航空輸送費の低廉化。安く輸入できる生鮮野菜の供給と、消費者の需要が一致し、食料品をグローバル化させた。

グローバリゼーションと情報の移動

 情報のグローバル化として、携帯電話によるインターネットの急速な普及が注目される。情報通信技術の発達は、電子商取引と呼ばれるオンライン販売や、情報の集積・発信拠点の形成を促した。情報通信技術の拠点になっている都市を調査する指標として、特許出願件数を挙げる事ができる。2003(平成十五)~2005(平成十七)年の出願件数は、東京・サンフランシスコ・ニューヨーク・ソウル…の順になっており、東京の件数は、シリコンバレーを擁するカリフォルニア州サンフランシスコ周辺より多く、都市別では世界一である。こうした意味で東京は、グローバル化における超巨大世界都市に成長しているが、国際性・匿名性や一極集中の課題も指摘されている。

グローバリゼーションと文化景観の変化

 グローバリゼーションは、地域の文化景観に「無秩序化・多様化」と「標準化・画一化」という二つの方向性で影響を与えている。「無秩序化・多様化」は、多様な文化的要素が無秩序に流入し、従来の場所アイデンティティーを急速に弱体化させるが、混沌の中から新たな景観が再構築され、個性的な地域活性化が可能になる。これに対して「標準化・画一化」は、俗に「マクドナルド化」現象と呼ばれるように、経済性・効率性・均一性・機能性を重視した結果、どの地域でも同じような商品が提供され、景観の個性を埋没させてしまう恐れがある。

 我が国の文化景観においては、同一地域で「無秩序化・多様化」と「標準化・画一化」が同時に生じている場合が多く、それは「ゲートウェイ」と呼ばれる駅前の景観において顕著である。例えば原宿の「竹下通り」は、若者ファッションの商店街として個性的な文化景観を形成しているが、ファストフード店舗には和洋の食文化が混沌と建ち並び、その中でハンバーガー店の多さは、グローバル化による均一化の影響を示している。

 原宿駅前の店舗看板には、日本語(漢字・平仮名・片仮名)英語フランス語(アルファベット)など多様な言語・文字が用いられ、表参道の街路景観も同様であるが、その中で英語が多く見られ、グローバル化が国際共通言語を標準とする、欧米都市的な景観への画一化を進めている。地域の個性と結び付かない、文化景観の多様化・無秩序化である。こうした駆け引きは、新たな文化景観の創出においても同様であり、例えば「同潤会アパート」の跡地に建築された「表参道ヒルズ」2005のデザインは、同潤会の様式を継承し、図案にも漢字を用いるなど、グローバル化においても場所の個性を引き出している。

 西新宿(淀橋)東京都庁では、アニメの舞台になった地域(いわゆる「聖地」)の観光パンフレットが多言語で配布されるなど、我が国のサブカルチャーも公認されつつあるようだ。2019(令和元年)年、筆者による調査。

グローバリゼーションと日本の農産物(川久保篤志)

 自由貿易に伴い、我が国も農産物を輸入しているが、1990年代後半以降、日本の農業は次の3点で変化した。

輸入量と自給率の動向の相関 輸入量が停滞・減少しても、食糧自給率は回復しない。機械化が困難な野菜・果物・乳製品に顕著な傾向であり、国内生産を担う農業労働力の確保が急務。改正入管難民法(2018)による、労働力のグローバル化も予想される。


輸入相手国の多様化 従来は米加豪からの穀物(小麦・トウモロコシ)輸入が大半であったが、輸入障壁の緩和、消費嗜好の多様化に伴い、果物・野菜・肉類・乳製品の輸入が増加し、南半球の途上国など多くの輸入相手国が貿易するようになっている。輸入米の内訳も変化し、中豪の短粒ジャポニカ米が減少し、タイ・米国の長粒インディカ米が急増し、輸入米は家庭より外国料理店のブランド米として定着している。


輸出振興の動き 貿易交渉の進展による障壁の緩和、アジア諸国の経済成長、日本食材への好印象を背景に、農産物・加工食品の輸出額が急増したが、半分以上は加工食品である。世界的に主流なインディカ米・オレンジに対し、我が国のジャポニカ米・ミカンは特異な品種であり、これを積極的に販促できるかが勝負。

インド 発展途上国の近代化に着目した地誌(友澤和夫)

経済自由化と産業の発展 経済自由化と経済成長の諸相

 インドは、社会主義的な混合経済体制を採用した第三世界だったが、世界第二の人口13億人を擁し、途上国の側面を残しながらも、経済大国の列強に入りつつある。その制度的転機は、混合経済から自由主義に転換した「新経済政策」(1991)であった。インド経済史の特徴として、明瞭な工業化段階が存在せず、工業(第二次産業)よりサービス業(第三次産業)が成長を牽引している。また、インド連邦を構成する州の生産指標を比較すると、南高北低・西高東低の地域間格差が存在し、ヒンディー語圏の北東部は長く低開発状態が続いている。

農業と農村の変化 農業の発展「緑の革命」から「ピンク革命」へ

 現代インド農業は、緑・白・桃という3色の「革命」を経験した。季節風など自然環境に農業を左右されるインドは、長く食糧不足に悩まされたが、裕福な地主層らが小麦・米などの栽培に高収量品種を導入した「緑の革命」により、増産と自給を達成(1978)。また、宗教的菜食主義者が多いインド人は、伝統的に牛乳から蛋白質を得るため、酪農も発達し、世界最大の牛乳生産「白い革命」を達成。広い土地を必要としない酪農は、緑の革命で充分な恩恵を得られなかった農民にも機会を与えたが、歴史的に牛の飼養が盛んな西部の生産が多い。更に、ヒンドゥー教徒は牛肉を、ムスリムは豚肉を食べないので、インドの肉類消費は鶏肉が中心であり、その急成長は「ピンク革命」などと呼ばれる。伝統的な在来種の養鶏を続けている地域もあるが、生産性の高い改良種を外国から導入した州の成長が著しい。

都市の成長と郊外 郊外都市の発達

 中華を抜く速度で人口増加が続くインドでは、依然として農村人口の比率が多いものの、都市圏と呼ばれる大都市が形成され、デリームンバイなどは人口集中が著しい。首都デリーは、隣接する郊外の新都市を含む「デリー大都市圏」の視野で開発されたが、それを上回る都市の急成長な膨張に対応するため、より広域な「デリー首都圏地域」が設定された。デリー首都圏地域は「デリー」「デリー大都市圏」「それ以外の地域」の3区域で構成される。その範囲も拡張され、巨大な面積・人口の州県を含む。デリーから放射状国道で結ばれる近接都市は、大都市圏タウンとして首都圏地域の開発拠点になっており、特にデリー南西のグルグラムは著しく成長している。大都市圏タウンの外側には、地域格差是正を目指す優先都市が設定され、主として工業団地を開発。

経済のグローバル化とインド

 大都市圏に経済成長の極を形成し、最終的には国土全域に豊かさを波及させる目標と、現実の経済格差という課題は、インド以外の途上国にも共通して見られる。一方で、インドは外資・輸出への依存が高くないという特徴があり、自動車市場でも、情報通信技術などの輸出部門でも国内企業が活躍しており、しかも農業大国の側面を併せ持っている。インドのグローバル化には、情報通信技術と工業、外資企業と国内企業の均衡に基づく発展という独自性がある。

中近東 国家の秩序が崩壊しつつある地域の地誌(内藤正典)

なぜ「中東」と呼ぶのか 中近東地誌の枠組み

 日本語の「中東」という地域呼称は、英仏の訳語であり、両国の植民地政策に由来している。かつて英仏は、その東方にあるオスマン朝トルコ帝国の領土を「近東」と呼び、それより以東のイラン・アフガニスタンを「中東」と呼んだ。第一次大戦でオスマン帝国が崩壊し、その領土だったバルカン半島は第二次大戦後、共産主義政権が浸透したので、近東の呼称はあまり使われなくなった。しかし中東は、アラブ・イスラム世界を意味する用語として残った。中近東の領域は時代に応じて変化し、明確な定義は無いが、西アジア・北アフリカの辺りを指す事が多い。中近東はヨーロッパ側から見た政治的呼称であるが、英仏米の中東政策が、現代の地域紛争と連関している事もあり、現地の人々も「中東」を意味するアラビア語・トルコ語を用いている。なお、中近東より更に東には、かつての英領インド帝国(英印)・フランス領インドシナ連邦(仏印)があり、東アジアの中華・朝鮮・日本は「極東」である。

中近東を構成する文化的要素

 中近東を構成する言語文化は、アラブ(アラビア語)・イラン(ペルシャ語)・トルコ(チュルク)という三つの要素に分類すると理解し易い。一言に中近東と称しても、アラビア語(セム系)・ペルシャ語(インド・ヨーロッパ系)・トルコ(アルタイ系)は語系が異なるので、文法が似ていない。ペルシャ語はイラン、トルコ語はトルコ共和国の領土に凡そ対応するが、英仏の分割統治が現在の国境線に反映されているので、殊にアラブは多数の国家に分かれている。アラビア語は歴史的にイスラム教と結び付いているので、イラン・トルコなど広くイスラム地域の言葉に影響を及ぼしている(ユダヤ人のヘブライ語も、アラビア語と同じセム系に属す)ペルシャ語は、文法が欧州と似ているが、表記はアラビア文字を採用しているクルド人も言語的にはペルシャに近い)トルコ語は、主語・動詞の文法が日本語と似ており、旧オスマン帝国ではアラビア文字、現トルコ共和国ではアルファベットを使うアゼルバイジャン・トルキスタンもトルコ諸語)。中近東地域の範囲は、概ねアラビア語文化圏に対応する。

中近東の諸国家とイスラーム

 中近東はユダヤ・キリスト・イスラム教の発祥地であり、現在はイスラムが多数を占めるが、現実のイスラム世界には多様性がある。まず、イスラムは神の下の平等を説き、聖職者を置かない原則だが、イラン・イラクのシーア派は、スンナ派より教団共同体の上下階級が強固である。また、政教聖俗分離が困難と言われるが、実際の国家体制は「イスラム教国」と「世俗主義」及び両者の折衷に分けられる。サウジアラビアイランは、シャリーアが憲法の役割を果たすイスラム教国である(が、両国は宗派が異なるので対立している)。他方、第一次大戦後に成立したトルコは、政教分離など近代西欧の制度を積極的に取り入れて国家を建設したので、体制としてはイスラム教国ではなく世俗主義に分類される(が、イスラム主義を唱える官民の運動も根強い)。エジプト・シリア・ヨルダンなど多くの国は、イスラムと西欧の制度を折衷させている。

多文化共生の地

 ユダヤ・キリスト・イスラムの三大一神教は、対立抗争して来た印象が強い。歴史的には、十字軍や近代植民地主義のように、キリスト教ヨーロッパが中近東イスラム圏に敵対した時代もあったし、現代ではムスリム(を称する組織)が欧米にテロを仕掛け、パレスチナ問題のような厳しい対峙も生じている。しかし、本来のイスラムにはユダヤ・キリスト教を「啓典の民」と認める教義があり、実際に永く共存して来た事実を見逃してはならない。シルクロード交易などで栄えた中近東の都市は、異文化に比較的寛容である。サラセン帝国(ウマイヤ朝シリア)の首都だったオアシス都市ダマスクスは、三千年以上の歴史を持つ世界最古級の都市であり、時代と共にユダヤ・キリスト・イスラム教徒が順に定住した。かつて英国が、アラブ民族主義とシオニズムを支援しながらフランスとの分割統治を試み、ダマスクスの「アラブ王国」がフランス軍に陥落させられる事件もあったが、長期的には千年以上の共生が実現していた。トルコのイスタンブールも、コンスタンティノープル総主教座やユダヤ教徒と共生している。

ヨーロッパ EUによる地域統合に着目した地誌(加賀美雅弘)

EUの多様性と格差 ヨーロッパ地誌の枠組み

 1991~1993年のマーストリヒト条約(ネーデルラント)により、西欧のヨーロッパ共同体から拡大したヨーロッパ連合は、国境・通貨・議会などの連携において、最も緊密性の高い国家連合であるが、統合の一方で多様性も存在する。まず、英語が国際語として浸透しつつあるものの、欧州連合は文化多様性を尊重し、依然として23の公用語が記載に用いられている。また、交通・通信・資本が集中する大都市と、そうでない地域との間に深刻な格差があり、それが労働・観光・環境問題などに関わっている。2004・2007年には東欧の旧共産党国家が加盟し、格差拡大を抱えながら、平坦でない統合を加速させている。ヨーロッパの多様性・格差・統合は古くして新しいテーマであり、欧米の地理学・歴史学で研究されている。

自然環境・農業と地域的多様性

 欧州農業は、三つに大別される地域の気候に応じて、多様な食文化を育んで来た。

 農業規模・生産費用の差異を原因とする格差に対応するため、欧州連合は共通農業政策に補助金を投入し、特に東欧を支援している。また、地域特産の伝統的銘柄には原産地呼称保護制度1992が適用される。こうした政策に対し、加盟国以外からは過剰保護との批判もある。

多文化社会と地域統合

 欧州には、冷戦由来の東西格差に加え、国民国家と呼ばれる強い民族意識があり、地域住民の相互理解・協力関係が課題である。経済・観光・交通・環境など、近隣各国が共通する問題に連携して取り組み、文化・価値観の共有を支援する事業として、越境地域構想が進められている。スイスは欧州連合に加盟していないが、独仏と接するバーゼル地区の越境地域協力構想は、欧州有数の産業地域を実現している。また、ドイツ・ネーデルラントオランダ・ベルギーは広域大都市圏に参加し、国境を完全に自由化した。但し、こうした越境地域構想が成功しているのは西欧先進国であり、東欧の経済・民族問題は依然として不安定である。

 東欧の民族問題は、しばしば国境地域で見られるが、広域スケールにおいては、ロマニー(ジプシー)などと呼ばれる少数民族(インド アーリア系)の存在が挙げられる。ロマ族は欧州ほぼ全国に居住し、ロシアを除いても1000万人以上と推定され、特にヨーロッパ東南部に多い。彼らは教育・識字・就業などの社会的地位が低く、農村では女性の立場が弱い生活様式も見られる。また、税金によるロマ族への公的扶助には批判もあり、英国の連合離脱を招いた移民・難民問題と共に、欧州統合の課題になっている。

アメリカ合州国 多様性と統一性に着目した地誌(矢ケ崎典隆)

自然環境と文化景観 ヨーロッパ文化圏の拡大

 アメリカ大陸には先住民の文化が築かれていたが、ヨーロッパによる探検・開拓が進むと、北米は英仏スペインの植民地に3分割された。イングランドは、毛皮交易商人を先導に大西洋岸を開拓し、18世紀に合州国として独立する十三植民地を形成した。

国土の拡大と文化景観

 独立した米国は、19世紀にフランス領ルイジアナなど広大な領土を獲得し、連邦政府が公有地として所有した。その土地を払い下げる際に、タウンシップ制と呼ばれる方形測量が採用され、正方形のタウンシップ・セクションを4等分した売却単位が一般化した。独立自営農民を増産するために土地を販売したほか、ホームステッド法1862に基づく居住開墾や、州政府による学校設立、そして鉄道敷設会社には無償賦与された。タウンシップ方式測量の結果、道路や農場が4角形に展開する規則的・永続的・統一的な景観が造られた。

移民と多民族社会 移民を受け入れる社会と経済

 国土面積の増加に伴う労働力不足は、移民を積極的に受け入れるアメリカ独自の経済システムを加速させた。19世紀中頃までは、北西ヨーロッパ出身の「旧移民」が大部分を占めていたが、アイルランド移民の増加に対する反感も生じた。19世紀後半には、南欧・東欧からの移民が急増し、大西洋岸や五大湖の工業都市を発展させたが、移民排斥の動きが高まり、清・日本も規制された。戦後、移民法から人種・国籍差別を解消する改正が繰り返され、1970年代には、規制解除されたアジアラテンアメリカからの移民が急増し、欧州を抑えて多数派を占めるようになっている。

産業と地域のダイナミズム 食料生産と農業地帯

 米国の農業は、家族農場単位のコーンベルト方式を基本としているが、第二次大戦後、家族農場からアグリビジネス農業への転換が進み、市場競争が激化する中で、農場数減少と規模拡大が著しい。アグリビジネス企業は農業関連の垂直的・水平的統合を進め、契約栽培によって家族農場を影響下に置き、多国籍化する会社も多い。米国発の多国籍企業は、中米にバナナ供給地を建設したり、ミネソタ州ミネアポリスの穀物商社から世界市場に発展したり、食品加工会社から穀物取引に進出したりして、祖国と世界の食糧基地を担い、貿易に影響を及ぼす。

科学技術の発達と工業地域の変化

 農業発展の後、豊かな資源に基づく工業化が、20世紀の大国化を支えた。工業発展の中心は北東部・大西洋岸北部から五大湖に至るスノーベルトであり、アパラチア山脈の石炭、ミネソタ州メサビ山地の鉄鉱石を五大湖で水運し、ペンシルバニア州ピッツバーグの鉄鋼業、ミシガン州デトロイトの自動車工業が繁栄した。しかし1960年代以降、第二次産業から第三次産業への構造変化、サンベルト・シリコンバレーの台頭、そして日欧との競争激化の中で、合理化が遅れていたスノーベルトは衰退し、rustベルトと言われた。一方、南部のサンベルトは温暖でエネルギー消費が少ないので、1970年代の石油危機で注目され、州政府による企業誘致もあり、ハイテク電子機器産業を中心に発展した。重工業の衰退とハイテク情報産業の発展であり、カリフォルニア州ロサンゼルスでも同様の現象が見られる。

アメリカ的生活様式の確立

 米国民は移動を好む傾向が強く、時代と共に鉄道・自動車・高速道路網・空港が次々と整備され、地域交流を盛んにしている。電話からインターネットに至る情報通信技術も、距離による地域差の克服を目指している。商業では、通信販売フランチャイズ(マクドナルド・ケンタッキー・デニーズ・ハーゲンダッツ等)が普及し、どこに住んでいても同じ商品を購入できるサービスが展開された。現在も課題を抱える米国だが、こうした交通・通信・流通の発達は、人種・民族・地域の壁を越えた生活様式を創っており、英語・国旗国歌・建国理念と共に、多様性を包摂する統一性が期待されている。

◆ 矢ケ﨑典隆・加賀美雅弘・牛垣雄矢編著『地理学基礎シリーズ3 地誌学概論 第2版』(朝倉書店2020/02/01)

2020/08/08

星槎大学 共生科学部

共生科学専攻

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登場人物紹介

 地球研究会は、國學院高等学校地学部を母体とし、その部長を務めた卒業生らによって、2007(平成十九)年に「地球研究機構・國學院大学地球研究会」として創立された。

國學院大学においては、博物館見学や展示会、年2回(前期・後期)の会報誌制作など積極的な活動に尽力すると共に、従来の学生自治会を改革するべく、志を同じくする東方研究会政治研究会と連合して「自由学生会議」を結成していた。


 主たる参加者が國學院大学を卒業・離籍した後も、法政大学星槎大学など様々な舞台を踏破しながら、探究を継続している。

ここ「NOVEL DAYS」では、同人サークル「スライダーの会」が、地球研究会の投稿アカウントを兼任している。

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