第30話 運行管理部長室の決闘

文字数 1,416文字

小雪と浩太は運行管理部長室にやってくる。


ドアをノックすると、目の前でドアが開き、黒いサングラスをかけた怪しい男が顔を出した。

見かけない奴だな。 あんた、何者だ。
サングラスの男は、小梅の質問に答えず、小梅と浩太を頭からつま先まで見渡す。
(浩太に向かって)2415だな。


(小梅に向かって)そして、お前は、2018だ。なぜ、お前がついてきた?

部屋の奥から別の声がする。
いいから、二人とも、お通ししろ。
サングラスの男がどくと、部屋の奥、重々しいデスクの向こうから運行管理部長が小梅達を見ていた。


小梅と浩太は、中に入り、運行管理部長のデスクの前に立つ。

2415に声をかけたら2108まで来るとは、嬉しい驚きだな。
「驚き」だなんて、ウソをつくな。


廊下の監視カメラをモニターして、あたしが一緒に来るのは、知ってたはずだ。

私は、廊下の様子に関心を払っていられるほど、暇ではない。


君達のような下っ端と違って、私のような幹部は超多忙なのだ。

自分に都合が悪いクローン・キャストを暗黒宇宙に飛ばすのに忙しいわけだ。
何をバカなことを言っている。


お前達クローン・キャストを安全に地球に送り届ける運行システムを維持管理するのに忙しいのだ。

あたし達が沙紀を告発した直後に、あいつは暗黒宇宙に消えた。


あれは、事故だ。


事故はあってはならない。だが、現在の技術では、100パーセント防ぐことはできない。

事故なんかじゃない。


あんたが仕組んで、沙紀先輩を暗黒宇宙に飛ばしたんだ。

あんたは、沙紀が受け取ったワイロの一部をかすめ取ってた。


沙紀がワイロを取ってることがバレたんで、沙紀が邪魔になった。


だから、沙紀を暗黒宇宙に飛ばして、「トカゲの尻尾切り」をしたんだ。

テメェら、誰に向かって話してると思ってる。


部長にくだらねぇい言いがかりをつけるんじゃねぇ!


おやおや、「日本昔話成立支援機構」の運行管理部長ともあろう方が、ずいぶん、下品な奴を身の回りにおいてるもんだね。


テメェこそ、口の減らねぇ下品なクローンだ。
ほぉ~、そう来るかい。 じゃぁ、前置きはこの辺で終わりだ。


これから狼に変身して、部長の首にくらいついて本当の狙いを吐かせてやる。

そこの下品な黒メガネ、ボクはネズミになってお前のスネをかじってやる!


浩太、変身、行きます!

(心の中で)あれ、なんか、表現がおかしくないか? まっ、この際、細かいことはいいか。
地球に向かってお仕置きだ。オオカミにGO!
あれ、変身できない!
えっ、これ、どうなってるの? 身体が言うことを聞かない!
ははは、バカ者どもが。


「機構」の幹部個室の中では、クローン・キャストは変身できない。変身防止の結界が張ってあるのだ。


斉田、こいつらを縛り上げて、時空転移装置にぶちこめ。

ボス、二人を一度に暗黒宇宙に飛ばしたら、目立ち過ぎないですか?
新型の時空転移装置は、緊急時は2人を同時に運べる設計になっている。


モルモットを2匹載せて飛ばしたからって、誰も不思議がらない。

わかりやした。
サングラスの男が、小梅と浩太に近づく。
くそぉ~、お前なんかにやられてたまるか。
浩太がパンチを繰り出すが、簡単によけられてしまう。反対に殴り返されて浩太は気絶する。
来るな! 屁こき嫁のオナラで吹き飛ばすぞ!

残念だな。


結界の中では、変身だけでなく、クローン・キャストの特殊能力はすべて封印される。

ええ~っ!


そんなぁ~

サングラスの男のパンチが小梅のみぞおちに食い込み、小梅は気を失った。
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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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