第31話  汚染された脳で暗黒宇宙へGO

文字数 1,463文字

黒メガネの男が手下を呼んで気絶ている小梅と浩太を時空転移装置のローンチング・ポッドに運ばせる。男達の手で、小梅と浩太は最新型時空転移装置の乗員席に座らされる。


黒メガネが転移装置の行き先を暗黒宇宙にセットし、装置を発進させた。


まず浩太が、少し遅れて、小梅も意識を取り戻した。

あれ、これって、新型時空転移装置の中?


全然揺れてない。まだ、ローンチング・ポッドの中だ。

浩太、あんた、何ボケっとしてるんだ。逃げ出すよ!

小梅先輩、時空プロット画面を見てください。

もう、動いてますよ。しかも、目標座標は、ボクらの見慣れた「むかし、むかし、どこかの日本」と違います。

あら、ホントだ。あたし達、目標ポイントに向かって移動中じゃない。

全然、揺れないね。さすが、最新型だ。


いやいや、感心してる場合じゃない。


おい、浩太、なんで、飛ばされるのを止めなかった!

止めるも、なにも……


あの黒メガネに殴られて気を失って、気が付いたら、もう、飛ばされた後でした。

男のクセして、情けない奴だ。
ゲゲッ!

小梅先輩、いま、なんて言いました?

「男のクセして情けない」って……


あっ! ああぁっ!

小梅先輩、地球と往復しすぎて、脳内汚染されましたね。


ラムネ星人の脳には性差別をする回路はありません。ラムネ星人から作られたクローン・キャストのボク達にも、当然、そんな妙ちきりんな回路はないんです。

でも、地球との往復を繰り返してるうちに、地球人の性差別感情に刺激されて性差別回路ができちゃうクローン・キャストが現れ始めた。
そぉです。脳内汚染されるんです。脳内汚染されたクローン・キャストがどうなるか、わかってますよね?
脳回路の修復手術を受ける。
それでも、直らなかったら?
………
小梅先輩、黙ってないで、ご自分の口からおっしゃってください。
活動を停止されて、廃棄処分される……
そぉ~です。今や、小梅先輩の命は、ボクの手の中にあります。


小梅先輩がお給料の20%をボクにくれたら、先輩が「性差別脳」だってことを黙ってます。

浩太、あんたこそ、沙紀とアユに洗脳されて、ワイロ脳になってるぞ!


そぉだ、思い出した。ラムネ星には、元々「ワイロ」なんてものは、なかったんだ。地球人と一緒に「日本昔話成立支援機構」を作った時、地球人に要求されて初めて、ラムネ星人は「ワイロ」ってものを知った。

そうだったんすか?
「そうだったんすか?」じゃないわよ。

「性差別脳」になったあたしがクローン・キャスト失格だと言うなら、「ワイロ脳」になったあんたも失格だ。


あんたが「ワイロ脳」だってことを黙ってて欲しかったら、あたしから取り上げたた20パーセントを、あたしに払いな。

小梅先輩、それ、ボクを恐喝してるつもりっすか?
そうだ。「目には涙、歯には海苔」だ。

(心の中で)諺が間違ってることには目をつぶるとして、


先輩、それ、恐喝じゃなくて、ただの「行って来い」っすよ。

理屈なんか、ど~でもいいんだよ。

あたしも、あんたの弱みを握ってる。そのことを忘れんな。そういうことよ。

あれ、ボク、悲しくなってきました。

小梅先輩、美鈴、ボクの三人は固い絆で結ばれていたはずなのに、お互いの弱みを握って脅し合うなんて……ショックです。

はぁ! どの口が言う? 最初にあたしを脅したのは、あんただろう!


見ろ、もうすぐ暗黒宇宙だ。あたし達は、永遠の闇に葬られる前の貴重な時間をこれまでの友情を台無しにする会話に使っちまったんだぞ。


どぉしてくれる!

暗黒宇宙では、永遠に生きられると聞いたことがあります。


先輩、やり直す時間は、いくらでもあります。

…………
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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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