第50話 地球人のキャスティング部長と対決
文字数 1,857文字
突然、太くていがらっぽい男の声がした。いつの間にか長身の男がドアを入ったところに立っていた。
小梅も沙紀も話に集中していて、男が部屋に入ってきたことに気づかなかったのだ。
あんた、誰? 人の部屋に勝手に入ってきて、失礼じゃない。
「人の部屋」だと? 笑わせるんじゃない。ここは、クローン・キャストという道具の置き場だ。
あんた、地球人か? あんたにとっては道具かもしれないが、あたしにとって、あたしは「人間」だ。
小梅、その男に何を言ってもムダよ。そいつは、私たちクローン人間の言葉を聴く耳なんか、持っていない。
沙紀、お前は俺の愛人だ。人間だとまでは言わないが、クローンの連中とは違う。
ええ、私は、人間でもクローンでもなく、あなたの都合の良いオモチャですものね。
沙紀、お前は、ラムネ星でそこの三流クローンに余計な話をしたせいで、ここに送られたのを忘れたのか?「日本昔話成立支援機構」の基礎訓練で「口は災いのもと」という日本のことわざを教わっただろうが。
(心の中で)こいつ、いま、あたしのことを「三流」って言わなかったか?
お前は、誰のおかげで、この「なんでもあり・リゾート」で我が物顔でふるまってこられたと思ってるんだ。デリヘルに回してやってもよかったんだぞ。
部長だって、私を性奴隷にして、イイ思いをしてきたじゃないですか。
(心の中で)こいつら、ワケのわからん話をしとる。「デリヘル」ってなんだ? 「性奴隷」って、なんだ?
私がイイ思いをしてきただと? 思い上がるな! 私には、いくらでも寄ってくる地球人の女がいる。物珍しさから、人間になり損ねた壊れ物クローンの相手をしてやっただけだ。
沙紀が両の拳を握りしめて全身を震わせた。
小梅は、沙紀の前に進み出て、キャスティング部長と向き合った。小梅は、長身の部長を見上げながら、にらみつけた。
ふんっ! 休眠遺伝子のスイッチを入れていないお前に、今の話の意味がわかったはずがない。
休眠遺伝子のスイッチを入れなくても、あんたが沙紀を壊れた機械よばわりしたことは、わかった。沙紀は、機械じゃないし、壊れ物なんかじゃない。あたしと同じ人間だ。
貴様も思いあがった奴だな。人間に奉仕する機械のくせして、自分のことを「人間」だと抜かすのか?
お前らは、二台とも、とんでもない不良品だ。宇宙に廃棄処分してやる。おい、こいつらを廃棄物ポッドに連れていけ。
今日は、生ゴミ処理の日です。こいつらを宇宙に吐き出すには、ちょうどいいでしょう。
小梅は、男たちに尻を向ける。『屁こき嫁』用に身体に叩き込んだ特大級のオナラを一発。二人の男は、部屋の壁にたたきつけられて、意識を失う。
オナラの直撃を免れたキャスティング部長がポケットから拳銃を取り出す。
犬に変身した浩太がキャスティング部長の銃を持つ手に噛みついた。
部長が浩太の歯から腕を振りほどき、浩太を蹴とばす。床に横倒しになった浩太に銃を向ける。
小梅が部長に向けて特大級のオナラをかます。
部長の身体が飛ばされ、壁に叩きつけられた。
小梅が、床に倒れたまま変身を解いた浩太に駆け寄る。
小梅先輩、ボクは大丈夫です。でも、あんな奴に蹴とばされてこけるなんて、ホント、ごめんなさい。
なに、謝ってんのよ。あんたのおかげで、あたし達は命拾いしたんだ。
浩太、あいつから拳銃を取ってきな。
沙紀、時空転移装置のローンチング・ポッドに案内しな。
ここからラムネ星には戻れないように結界が張ってあるわ。
誰が、ラムネ星に戻るって言った?
地球に行くのよ。「昔、昔、あるところの日本」へ。
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