第28話 教育部長、茜と語り合う
文字数 1,578文字
クローン・キャスト茜は、小梅に話したのと同じ内容を、教育部長シノ・フラウに語った。
フラウは、たまに確認のために問いかける以外は言葉をさしはさまず、うなずきながら、じっと耳を傾けていた。
よく、話してくださいました。本当に辛かったでしょう。
実は、ここに来る前に機構の産業医スリナリ先生に、クローン・キャストの過去10年間の勤務記録を見せてもらいました。茜さんは、他の誰よりも、働かされ過ぎていました。
それは、私にも原因があります。小梅さんは機構に入ってすぐ、「今いる所で咲く」ことの大切さを悟った。でも、私は悟れませんでした。「高嶺の花」になりたかった。その野心に沙紀がつけこんできたのです。
でも、あなたは、悪への誘いを断った。その報復に、過密なスケジュールで働かされた。
私が意地になり過ぎたのだとも、思っています。音をあげたら沙紀さんとその後ろにいる悪党どもに負けてしまうと思って、頑張り過ぎました。機構の外のお医者さんに休養が必要という診断書をもらって産業医に提出すれば、休めないことはなかった。実際に、そのようにして休暇を取った同僚もいました。
自分を責めることはありません。私があなたでも歯を食いしばって我慢したと思う。
他人にはきちんと休むことを勧めているけど、私自身は意地っ張りだから。自分をヒロイン視する一種の「自己愛」かもしれないけど……
そうかもしれませんね。部長も私も、実は「ヒロイン願望」が強かったりして……?
小梅さんは、得体の知れない悪に身体を張って立ち向かっていても、ナルシスティックなところがないんです。不思議です。そして、素敵だと思います。
多分、小梅さんは、頭でなくて身体で考える人間なのだと思う。自分の身体感覚が受け付けないモノやコトには、考える前に立ち向かっていくのではないかしら?
でも、それだけに心配でもある。
起こる危険がありましたが、未然に防ぎました。
沙紀さんが暗黒宇宙で行方不明になったことは、小梅さんから聞いたでしょ?
はい。沙紀さんの背後にいる悪党どもは、本当に酷い事をすると思いました。キャスティング部長とプロジェクト管理部長が裏で動いていたに違いありません。それと、時空転移装置の運行部長もグルでしょう。
実は、同じ事が小梅さんにも起こる危険があったのです。キャスティング部長とプロジェクト管理部長が、小梅さんを主役に『へこき嫁』を成立させるスケジュールを組んでいました。私は危険を感じて、小梅さんを『日本怪談成立支援機構』の応援に送り出しました。
『怪談支援機構』は安全な仕事だと言っていたのに実際は命がけの仕事で、私は帰ってきた小梅さんからずいぶん怒られました。
小梅さんに、部長の本当の狙いは伝えなかったのですか?
アオイさんを『怪談成立支援機構』に送り出した時、産業医のスリナリ先生と組んでキャスティング部長を就労管理不良で告発する準備をしていたのです。微妙な時期だったので、小梅さんには「人材交流」だとウソをつきました。
いいえ。小梅さんを疑っているわけではないのですよ。ただ、あの子には、あまり秘密を背負わせたくない気がするのです。
あは、確かに、小梅さんは「秘密の似合わない女性」って感じがしますね。
私にはお話になって、いいのですか?
茜さんは、「秘密が似合う女性」とお見受けしました。
確かに……好きで秘密を抱えてきたわけではないですけど。
でも、小梅さんと部長に打ち明けて、長年の胸の詰まりが取れました。
こういう機会を与えてくださって、ありがとうございます。
御礼を言うのは、私のほうです。信頼できる仲間が増えました。
茜さん、小梅さん、スリナリ先生の3人がいてくれれば、百人力です。
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