第4 小梅、浩太がワイロを払うのを止める

文字数 1,404文字

浩太がワイロを払ってでも、浦島太郎 役で成功したいと必死になる背景に、クローン・キャスト間の身分制があります。

この身分制を下記tweetで表形式で説明しています。是非、ご覧ください。

https://twitter.com/6nhjhmwFce4Zm5O/status/1253458926965686272

美鈴が小梅を訪ねてきた翌日の夜、ひと気の絶えた、大道具倉庫の中。

浩太とアユがヒソヒソ話をしている。

お金は、持ってきた?
半分の5万クララが、やっとです。もう少し、待ってもらえませんか。

あんたが『浦島太郎』を演じるのは、あさってだ。もう、待てないね。

なんだったら、あたしが貸してやろうか?

あんた、あたしのタイプだから、利息は、月30パーセントにまけてやるよ。

月30パーセントの利息だなんて、そんな、無茶苦茶な・・・
あんた、『浦島太郎』で、失敗してもいいの?

『桃太郎』、『一寸法師』、『聞き耳頭巾』と、重要な昔話を3つも続けて成立させて、勢いに乗ってる所だろう。

そ、それは……

『浦島太郎』を成立させたら、大スターの仲間入り。でも、しくじったら、また、しがない脇役生活に逆戻りだよ。『舌きりスズメ』のその他スズメに戻って、接待のご馳走の盗み食いでもするかい?

アユは、浩太が ①スター・キャストのスタンバイ、②その他大勢の人間役、③動物役 の3つとも務められる「なんでも屋Ⅰ」に属していることを踏まえてプレッシャーをかけています。

次のtweetをご参照ください。

https://twitter.com/6nhjhmwFce4Zm5O/status/1253458926965686272/photo/1

ボクは、ここで失敗するわけにはいかない! ここで成功してビッグになって、ボクを馬鹿にしてた連中を見返してやるんだ!
だったら、あたしから金を借りるしかないだろう。
暗がりから、突然、小梅が姿を現す。
アユちゃん、ちょっと見ない間に、ずいぶん、ワルになったね。

でも、あんたには、こんな大それたことを思いつく度胸は、ない。

いったい、誰の手先になってるんだい?

お久しぶりです、小梅先輩。こんな所で、何をしてらっしゃるのですか?
小梅、手にしたスマホをかざしてみせる。
今の場面を録画させてもらった。あたしは、職員食堂の娯楽委員なんだよ。あたしが、この録画を職員食堂のスクリーンで流したら、どういう騒ぎになるだろうね?
そんな事をしたら、先輩だって、タダではすみませんよ。
そうだろうねぇ……お互いにダメージを受けるってわけだ。

でも、あんたが、この坊やからワイロを取り立てるのを止めれば、あんた達も、あたしも、傷つかない。それを考えたら、10万クララの儲けを失うくらい、安いもんだと思うよ。

チッ、余計な邪魔が入った。

浩太、あんたが『浦島太郎』でしくじってスターへの道が閉ざされたら、このおせっかいなオバチャンのせいだから、オバチャンを恨むんだね。

おっと、待った。

今度の『浦島太郎』が不成立になって、それが、浩太のせいにされたら、あたしは、この映像を流すからね。

あんたのボスに言っときな。今度の『浦島太郎』は、必ず、成立させろって。そして、二度と、浩太に手を出すなって。

小梅先輩、今日のところは、先輩の顔を立てておきますが、このまま、タダですむとは、思わない方がいいですよ。
あんたたちが、どんな汚い手を使ってくるか、楽しみにしてるよ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色