第11話  小梅 vs 沙紀 直接対決!

文字数 1,363文字

ラムネ星でも、指折りの超豪華レストランの個室。小梅と沙紀が1対1で向き合って

いる。

ここは、小梅のような普通のクローン・キャストには、一生、縁のない所。

今日は、沙紀から呼び出されたのだ。

小梅さん、ありがとう。放送のおかげで、私、超有名人。

美人役で売れてたけど、役と関係ないとこでまで、大受け。

感謝してるわ。

名前は、知られてナンボだからね。

同期に喜んでもらえて、嬉しいわ。
あら、私たち、同期なの?

一緒に昔話作った覚えがないわね。

もしかして、あなた、動物変身が専門?

まあ、そんな所ね。


変身のし過ぎで、オツムが動物並になって、あんなおバカな放送しちゃった?

証言者は、誰も、私の名前を出してない。最後に、あなただけが、私を名指してるのよ。

私が言えば、十分でしょ。

だって、浩太君が浦島役だった時に、あなたが乙姫役だったこと、その時のキャストなら、みんな、知ってるから。

浩太君と、もう一人、誰だっけ?美人役もできそうな、割とイケてる子?
あの子の名前を忘れてんなら、そのままでいい。
あの2人が、私の名前を出すのを、ビビった?
ビビっちゃいなかったけど、仲間の悪事を名ざしで訴えたいとは、思ってなかった。あたしも、イヤだった。


ただ、あたしは、これ以上あんたの被害者を増やしたくないって

気持ちの方が強かったから、あんたの名前を出した。

これで、私は、しばらく自粛かな?
「私は自粛」って、どういう意味?

あんたの他にも、仲間から

ワイロをとって、「機構」の幹部に流してる奴がいるってこと?

沙紀が身を乗り出して、凍りつくような目で、小梅を見る。
私の相手役を決めるのは、キャスティング部長。『屁こき嫁』と『桃太郎』が同じ時期に同じ場所で進むように仕組めたのは、プロジェクト管理官だけ。


私は、でっかい悪の

仕組みのほんの一部。

じゃあ、あなたを邪魔しても、他の誰かが、同じ事を続けるってこと?
その通り。

そして、動物脳のあなたは、もっと大事な事に気付いていない。


「日本昔話成立支援機構」の幹部まで巻き

込んだ、この仕組みが、私と仲間の代だけで、作れたと思う?

まさか!昔から、ずーっと、あったの?
ビンゴ!


私たちは、先輩世代から、この仕組みを引き継いだ。私たちも、

後輩に引き継ぐ。美人役ができて、動物脳になっていない、有望な若手にね。

どうして、そんな汚い事を、続けるの?
「どうして」ですって?


人間も、連中から作られた、私たちクローン人間も、欲深で、汚い動物だからよ。

正義とかいうお題目を唱えても、そんなもの、絶対に実現できない、腐った、どーしょーもない、生き物だからよ。

あんた、楽しい?
えっ?
人間とクローン人間が腐った生き物で、時代がどんだけ変わっても、「いつの世も悪が勝つのよ~」ってうそぶいてて、楽しいのかって、訊いてんのよ。
楽しいわよ。


人間どもが、50年分しかくれなかった命を、奴らとつるんで楽しんで、何が、悪いの?

あんた、趣味が悪いよ。最悪だよ。
小梅が立ち上がる。

テーブルには、小梅が手をつけなかった料理の山。

せっかく出してやった料理

くらい食べていったら?

あなたなんか、もう、二度とお目にかかれないご馳走よ。

作ってくれた人には、本当に申し訳ないんだけど、胸が

悪くなって、食欲ないわ。

じゃ、サヨナラ。

あなた、このままタダで済むと思わない方が、いいわよ。
思ってないわよ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色