第24話 小梅、教育部長に食ってかかる

文字数 1,630文字

「日本怪談成立支援機構」のガタピシの時空転移装置も、鉄山に斬り殺されかけた後では、心安らぐ空間だった。「怪談成立支援機構」に到着した小梅は、「機構」のキャスティング部長から大いに感謝され、土産の菓子まで持たされて「日本昔話成立支援機構」本部に帰り着いた。
小梅は、さっそく、教育部長室を訪ねる。
部長、小梅です。

入ります!

小梅さん、お帰りなさい。

大活躍だったわね。お疲れ様。


さっき、「怪談成立支援機構」のキャスティング部長から連絡をもらった。

小梅さんのおかげで助かりましたって、大喜びしていたわ。


部長、私にウソをつきましたね。


2つの「支援機構」の人材交流だとおっしゃってたけど、うちからの一方的な応援でしたよ。

あら、人材交流と言っても、同時に派遣し合う必要はないでしょう。


今回は、「怪談成立支援機構」さんの方は、キャストを交流に出す余裕がないとおっしゃるので、先送りしただけで、余裕が出来たら、向こうからも来るわ。


その時は、小梅さんが、面倒を見てあげてね。

部長は安全な仕事とおっしゃったけど、全然、安全じゃありませんでした!


刀で斬られてドバドバ出血して、「怪談成立支援機構」のサポーターが持っていた造血剤を飲まなかったら、出血多量で死ぬところでした!

でも、サポーターが造血剤を持っていたのでしょう。


それなら、安全だったということじゃない?

幽霊になってからも、また、斬られそうになったんです!


サポーターは、予備の造血剤を持っていませんでした。

あそこで、もう一度斬られていたら、出血多量で死んでいたところです。

あら、それは、恐ろしい。


でも、言いにくいことを言わせてもらうと、小梅さんの幽霊の演技が下手で、相手を怖がらせることが出来なかったから、また斬られそうになったんじゃないの?


「怪談成立支援機構」のクローン・キャストなら幽霊の演技で相手を震え上がらせることができるから、サポーターは予備の造血剤を持っていなかったのだと思うわ。

部長、あたしは、幽霊なんか演じるのは、初めてだったんです。


初心者に対しては、それなりの配慮ってものがあって、いいんじゃないですか!

そう言われれば、そうね。


次回の人材交流からは、気をつけてもらうように、「怪談成立支援機構」に伝えておきます。

(心の中で)次回なんか、ないくせして!あっ、それとも、また、こちらから一方的に応援を出すかもしれないってことかしら。


(声に出して)部長、本当に次回があるとしても、あたしは、絶対に、行きませんよ。未経験のキャストを優先してください。

そうなの?


それは、残念だわ。


最初の何回かは、お互いにエース級を派遣し合いましょうって、約束してあるんだけど。

部長、その手には、二度と乗りませんよ。

あたしをエースだとか言っておだてて、危険な仕事に送り出して、部長は、ズルイです。

考えてみたら、動物変身専門のあたしが「昔話成立支援機構」のエースなわけがありません。

乙姫とか、かぐや姫をやってるキャストに行ってもらってください。

あら、あなたが「鬼、動物、その他大勢、みんながいて初めて『昔話』が成り立つ」って言ったのよ。そのあなたが「動物専門役はエースではない」と言うのは、矛盾しているわ。
理屈に弱い小梅は、部長にやり込められそうになって、イラつく。
理屈なんか、どうでもいい。


ともかく、私は、二度と、永遠に、怪談成立の手伝いには行きたくないんです。


以上、ピリオド!

はいはい、わかりました。

次回の人材交流には、他のキャストを派遣します。

わかっていただければ、いいんです。では、失礼します。


(心の中で)人材交流なんて、ないくせして。このタヌキばばあ。

教育部長室を出ていこうとする小梅に、教育部長が声をかける。
小梅さん、あなたが人材交流に行っている間に、こっちでは、ちょっとした騒ぎがあったのよ。


キャスティング部長が、業務の振り方が偏り過ぎていると産業医から告発されて、監査にかけられることになったの。

えっ?
足を止め、振り返る小梅。
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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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