第54話 「昔、昔、あるところ」に飛べない!

文字数 1,271文字

小梅、浩太、沙紀、与五郎の4人は、誰にも見つからずに、無事に時空転移装置ローンチング・ポッドに行きついた。


しかし、困ったことに、管制室に管制員が二人いる。

あの2人が邪魔ね。ここまで来たのだから、銃声を立てても構わない。拳銃で撃ち殺しましょう。
それは、酷すぎるんと、ちゃいますか?
じゃあ、あの二人を、どうやってどかすの? 
わてが透明化して近づき、ひょっと姿を現して脅かします。
う~ん、それだけじゃ、ちょっとインパクトが弱いかなぁ~


浩太、あんた、スズメに変身できるか?

できます。
与五郎さんが姿を現してあいつらを驚かした直後に、スズメに変身した浩太とあたしが、二人をつっつく。そうしたら、パニックを起こして逃げ出すと思う。
それでダメだったら、私がこれで始末するわよ。
沙紀が、浩太から取り上げた拳銃をかざして見せる。
沙紀、あんたこそ、脳みそが腐ってるよ。
作戦は成功。管制員二人はパニックを起こして、管制室から逃げ出した。


変身を解いたアオイと浩太が管制装置を確認する。

あれ、「昔、昔、あるところ」設定がついてない……
それは変だぞ。ローンチング・ポッドにあるのは「昔、昔、あるところ」に飛ぶための「昔話支援機構」の時空転移装置だ。ひょっとして、行き先は管制室からでなく、時空転移装置の中で手動設定するんじゃないか?
私が、転移装置に入って見てくる。
沙紀が一人で時空転移装置に乗り込む。
小梅先輩、あのまま沙紀さんが一人で逃げ出すと思いませんか?
地球人が作る映画やテレビドラマによくある展開よね。でも、沙紀はクローン・キャストだから、大丈夫よ。
沙紀先輩は地球人に汚染されて、今では地球人以上にワルですよ。
沙紀が時空転移装置から出てきた。
ダメだわ。手動でも「昔、昔、あるところに」設定ができないように、改造されている。
ほら、沙紀は、私たちを置いて逃げたりしなかったじゃない。
それは、「昔、昔、あるところに」設定ができなかったからです。
浩太、あんたこそ、地球人に汚染されて、不必要に疑い深くなってるよ。
おや、この管制装置は……
与五郎が管制装置をじろじろ眺める。
過去の特定の時間と場所に飛べるように、なってまっせ。
地球人が過去に観光旅行に行くためかしら。
そんな事、あり得ない。過去に観光旅行して歴史を改変してしまったら、大変じゃない。
沙紀が管制室に飛び込んでくる。
あら、本当に過去の特定の時間と場所に行けるようになってる‥…
あたし達だって、過去に飛んで、色々やってるじゃん。地球人が過去に飛んで何かしても、問題ないんじゃない?
小梅先輩、それ、違いますから。ボクらは、過去に起こらなきゃならない事が本当に起こるように支援してるんすよ。過去を改変してるのとは違います。
そうなの? あたしには、どこが違うのか、わかんないけど……
浩太、説明してもムダ。昔から、小梅の頭はとりあえず生きていくのに困らない程度にしか回っていないの。
沙紀は頭が回り過ぎるから、悪だくみに加わっちゃったのね。
小梅はん、沙紀はん、浩太はん、わし、ええ事を思いつきました。
3人の視線が与五郎に集まった。
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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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