第14話 小梅、「先輩訪問」を命じられる

文字数 1,211文字

小梅は、機構本部の廊下で、美鈴と

浩太に出くわす。

あら、あんたたち、こんな

所でつるんでると、なんか、悪だくみしてると、勘違いされるよ。

悪だくみなんか、してません。

どうしたら生き残れるだろうって、そのことで頭が一杯で、相談してました。

小梅先輩、生き残る方法を考えるって言ってましたよね。

考えてくれましたか?

あたし?

考えてないよ。

3人で考えようとは、言ったけど。

今度、集まって、考えよう。

・・・・・
・・・・・
ごめん。教育部長に呼ばれて、オフィスに行く所なの。

また、今度、話そう。

美鈴と浩太、呆然として、小梅を見送る。
小梅先輩って、本当に、アバウトで考えなしなんだから!
小梅先輩が「アバウトで考えなし」でなかったら、私たちのことを、助けてくれていなかったよ。
・・・・・
小梅、教育部長室のドアをノックして、名乗る。中から、柔らかな中年女性の声が『どうぞ」と、答える。
M2108、イスに座って。
教育部長が、4人がけの打ち合わせテーブルを手で示す。
「小梅さん」と呼ばせてもらうわよ。
そうしてもらった方が、気分良く、話せます。
小梅さん、あさって、クローン人間養育所「くすのきの里」に「先輩訪問」に行ってちょうだい。
「先輩訪問」って、現役で働いてるクローン・キャストが、育成所のガキどもに仕事の話する、「あれ」ですか?
そう、「それ」。

行ってくれるわね?

って、これ、業務命令なんだけど。

行きますけど、「あれ」、

子ども達には、良くないですよ。

美人役の先輩の話を聞いて憧れてたら、自分は動物専門になってガッカリしてた同僚がいます。

私も、ちょっと、そんな感じは持ちました。

ほぼ動物役専門のあなたが話せば、そういう心配は、ないわ。


人間役の時は、『屁こき嫁』以外は、その他大勢でしょう。

部長、それ、動物とその他大勢をバカにしてます?


だったら、部長だからって、許しませんよ。


鬼、動物、その他大勢、みんながいて、初めて「昔話」が成り立つんです。


私は、誇りを持って、動物役をやっています。

そういう風に考えているあなただから、「先輩訪問」に

行ってもらうのよ。


子ども達は、多分、今は、

あなたの話がわからないと思う。

でも、いつか思い出して、胸を張る助けになるように、あなたに話してもらうの

でも、本当に、私で、いいんですか?
どういう意味?
この間、あんな事をしでかして…
小梅さん、あなた、何か、

後ろ暗いことでも、したの?

いいえ。少し早まったかもしれないけど、やったのは、

「まっとう」なことだと、

思っています。

だったら、シレッと普通の顔で行って、正直な話をしてらっしゃい


だけど、さすがに、ワイロの話は、ダメよ。


それから、正直に話し過ぎて、子ども達を恐がらせて泣かせたり、しないこと。

わかりました。
それから、「くすのきの里」のマザーさん達が、あなたを夕食に招待してくださったから、外泊許可を出しておいた。以上。
それだけ言うと、教育部長はサッサと自分の机に戻って行った。
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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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