第7話 美鈴は、強力な下剤を飲まされていた!

文字数 1,190文字

小梅は、「機構」の帰りに、加久礼 

診子が下町の場末で開業している

クリニックに立ち寄る。

待合室は、金にも運にも恵まれてなさそうな、シケて、ふさぎがちな男女だらけだ。

小梅は、「薬だけ」患者に紛れ込んで、あまり待たされずに、診察室に

通される。

先生、お久しぶりです。お元気でしたか?
元・患者が、医者に「お元気でしたか?」と訊く?

まぁ、おかげさまで、元気よ。


待合室を見たらわかるだろうけど、クリニックは、いつも、患者さんで、いっぱい。

でも、金になるかというと、別の話。


それでも、食べるのに困ってないし、たまに映画を観に行くくらいの余裕はある。

それで、あの子、美鈴の、血液検査の結果は、どうでしたか?
美鈴ちゃんには、分析レポートを郵送しといたけど、

「イマクダスA」という、強力な下剤の成分が出た。


お腹の弱い子だったら、今でも、食事即トイレになっちゃうくらいの量が、血液中に

残ってた。


この薬は、そこらの薬局では手に入らない。医師の処方箋が必要な薬なの。

どこで、そんな薬を飲まされたんだろう?
それが、不思議なのよ。

「イマクダスA」は、即効性が特徴。服用して10分もしたら、「トイレヘGO」になる。


だけど、美鈴ちゃんは、お腹が痛くなったのは、家を出てから30分以上歩いてからだと言うのよ。

美鈴の言う通りです。

あたしも、『屁こき嫁』を

やったことがあります。

家を出て、柿の木を見上げてる商人に出会うまでに、30分から40分近く、かかります。

すると、考えられるのは、2つね。


一つは、「イマクダスA」を、消化されるのに30分くらいかかるカプセルに入れて、美鈴ちゃんに飲ませた可能性。


もう一つは、「イマクダスA」の拮抗薬、たとえば「クダラセヌX」あたりを一緒に飲ませて、「イマクダスA」が効き始めるのを遅らせた可能性。


でも、そんな手の込んだことを、「むかし、むかし、あるところの」日本人ができるの?

普通に考えたら、有り得ないです。


あたしたちが「むかし、むかし、あるところで」出会う人たちは、自分たちが「日本昔話」の登場人物になるなんて、全然、知らないんです。そういう、なーんも知らない人たちを巻き込んで昔話を成立させないと、審査に通りません。


「日本昔話成立審査会」の地球人審査員は、そこを一番厳しく、チェックしています。

悩ましいわね。


私は、「イマクダスA」の効きはじめを遅らせる方法は考えられるけど、誰が、どうやって、美鈴ちゃんに薬を飲ませたかまでは見当もつかない。


2人とも『屁こき嫁』をやったことのある、あなたと美鈴

ちゃんで考えるしかないわね。薬のことで、もっと聞きたいことが出てきたら、いつでも、私に聞いて。

先生、ありがとうございました。


また、薬のことでご相談させていただくかもしれません。その時は、よろしくお願いします。

薬のことなら、私を頼りにして。


この事件が一日でも早く解決することを、祈っているわ。

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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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