第62話 結界カモフラージュ作戦

文字数 1,667文字

これから、テレパシーでその人に連絡する。少しうるさいかもしれないけど、我慢してね。
テレパシーがうるさいって、なに、とぼけたこと言ってんだ?
ぎゃっ! なんだ、これ。頭が割れそうだ!
沙紀、やめろ! あたし達を殺す気か!
小梅さん、コータローさん、テレパシー機能をオフにして。沙紀さんは、高周波テレパシーを送ってるんです。普通のクローン・キャストの脳には有害です。
高周波テレパシーというと、巫女さん同士が使うテレパシーのこと?
そうです。でも、原因はわかっていませんが、クローン・キャストの間にも、100人に1人くらいの割合で高周波テレパシーを使えるキャストが出現するのです。
(テレパシーをオフにしてから)えっ、じゃ、茜さんも、その100人に1人なの?
ええ、私も高周波テレパシーを使えます。今、沙紀さんは、この江戸の街に隠れ住んでいる巫女さんと話をしています。
話はついた。どうやら、茜先輩に盗み聞きされちゃったみたいね。話の内容は、茜先輩から話す?
ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかたったんだけど、聞こえてきちゃって。
ごめんなさい、先輩、気にしないでください。ちょっとからかっただけです。先輩が聞いていてくれて、よかったです。私は、小梅たちにはあまり信用されていませんから。茜先輩から小梅たちに説明してやってください。
沙紀さんは、巫女さんに私たちの上に「結界」を張るようお願いして、巫女さんはオーケーしてくれました。
そっか、監視ポストからは結界の中は見ることができない。結界に守られてれば、自由に動き回ることができる。
でも、今すぐ私たち5人の上に結界を張ってもらうと、何が起こったのかと怪しまれます。巫女さんに助けてもらったことを悪党どもに気づかれると、巫女さんに迷惑がかかります。
じゃ、どうすんだ?
ここから、一斉に飛び出して、それぞれ違う方向に全速で走ります。それから一人ずつ順番に身体の周りに結界を張ってもらえば、悪党どもは、私たちの速い動きについていけずに見失ったと思うはずです。
でも、バラバラになっちゃっても、どこかで、また会わなきゃいけない。
ここで、会いましょう。
え~っ、逃げたところにまた戻ってくるのか?
沙紀さん、いいアイディアだわ。見張っている連中は、私たちが逃げ出したところにまた戻ってくるとは思わないはず。
フラウ部長、大丈夫っすか? 全速ダッシュするんすよ。足がつったり、腰を痛めたりしたら一大事っすよ。
浩太さん、私が歳なので心配してくれてるのね。ありがとう。でも、200メートル全力疾走するくらいは、大丈夫、できるわ。「怪談支援機構」に来てからキャストさんのサポーター役で身体を動かすことが多くなって、鍛えられてるの。
えっ、フラウ部長、怪談のサポーター役をやってるんですか? だったら、擬態して透明になって逃げればいいですよ。
擬態能力を追加する手術は受けたけど、クローン・キャストの人たちみたいに完全には透明になれないわ。
少し姿がぼやけるだけでも、十分効果があるはずです。部長さんは擬態して逃げ出してください。巫女さんには、部長さんに最初に結界を張ってもらいます。
フラウ部長の次は、沙紀が結界を張ってもらえ。そんな豪華な着物を着てちゃ、速く走れない。そうだ、あたしと浩太は動物に変身した方が、速く逃げられるぞ。見つかりにくいように、小っちゃい方がいいな。あたしはネズミにするか。
じゃ、ボクは、ツバメにします。
私は、鷹に変身します。
よっしゃ、沙紀、巫女さんに言って、部長⇒沙紀⇒茜先輩⇒浩太⇒あたし の順に結界を張ってもらえ。この中で、一番持久力があるのは、あたしだ。あたしが、悪党どもの目をできるだけ引き付ける。
わかった。今連絡するから、小梅と浩太は、テレパシーを切って。
連絡がついた。向こうは準備OKよ。
よっしゃ、行くぞ。結界カモフラージュ作戦開始だ!
半透明に擬態したフラウ、晴れ着姿で下駄だけ脱いで裸足になった沙紀、鷹に変身した茜、ツバメに変身した浩太、ネズミに変身した小梅が、一斉に神社の本殿から飛び出していった。
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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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