第23話  起死回生の一発

文字数 1,291文字

ウワッ、ギャー!


誰か、助けてー!

鉄山の刃が小梅を襲い続ける。

白装束の左右のたもとが切り裂かれる。小梅の身体は紙一重のところで、刃をかわしていた。

ミタローは鉄山に投げられて気絶したのか、逃げ出したのか、全然助けくれない。

おのれ、すばしこい奴め。

今度こそ。エイッ!

鉄山が振り下ろした刃を後ろに飛んでかわした小梅。

着地した時に、かかとが石コロを踏んでしまい、尻もちをつく。

観念せい!
鉄山が小梅を突き殺そうとする。

ヤバイ!


そうだ、あの手があった!

小梅、思いっきりオナラをする。
うおっ、うわーっ!
鉄山の身体が後ろに吹き飛ばされ、庭木に背中を打ち付け、ぐったりとなる。
こ、小梅さん、今のは?
あんた、まだいたのか。


いたのなら、なんで、助けてくれないんだ。

すみません。

鉄山の太刀筋があまりに鋭かったもので・・・・・

つまり、怖くて、手が出せなかったということね。
はぁ、そんなところで・・・・


それにしても、鉄山を吹き飛ばした、あれは、いったい何ですか?

あれは、日本昔話『屁こき嫁』の嫁が放つ、特大強力のオナラだ。

『屁こき嫁』は、あたしの持ち役でね。そのために、ぶっといオナラを噴く訓練を受けている。

万能変身ボディスーツなしでも、放てるんだ。


まったく、危ないところだった。

いや~、「昔話成立支援機構」のクローン・キャストさんと仕事するのは、これが初めてですけど、白刃を振りかざす侍をオナラ一発で撃退できるなんて、ホント、驚きました。
そんなことよか、鉄山が意識を取り戻す前に、さっさと退散だ。

あたしは、道を覚えてないから、時空転移装置まで連れてってくれ。

もちろんです。一刻も早く退散しましょう。
くっそ、死にそうな目にあったけど、この怪談は不成立だな。

皿を数えて怖がらせることが出来なかったのだから。

小梅とミタローは真夜中の山道を時空転移装置を置いてきた森の一角に向かって急ぐ。
小梅さん!
うわー、なんだ、真っ暗闇のなかで、おどかすな!
怪談『番町皿屋敷』、成立です。

今、ボクの頭に、怪談成立審査会から時空間連絡が届きました。

小梅の脳には、「怪談成立支援機構」の時空間連絡を受信する装置は備わっていない。
えっ、あれで?
青山鉄山は、腰を抜かして動けなくなって、同輩に助け起されたのですが、「大風が、大風が・・・・・」とうわごとのように繰り返すばかりで、周りと会話が成立しないそうです。

鉄山を、十分以上に怖がらせることができました。

だけど、鉄山が怖がってるのは、皿を数える菊の幽霊じゃなくて、あたしのオナラだよ。

それでも成立?

何が理由であれ、怖がらせればイイんです。

「怪談成立支援機構」で稼動できるクローン・キャストが減る一方なので、審査基準をユルユルにしないと、怪談が成り立たないのです。

うげっ、いい加減。でも、「怪談成立支援機構」のクローン・キャストがあんな恐怖体験を頻繁にしているとしたら、稼動できなくなるのは、わかるわ。


ともかく、助かった。


小梅さんのオナラに幽霊並みの威力があることがわかりました。


また、手伝ってください。

それは、ない。絶対に、ない。


ラムネ星に帰ったら、教育部長の奴、タダじゃおかないからな。

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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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