第35話 教育部長、運行管理部長を問いただす

文字数 1,357文字

小梅と浩太がクローン・キャストの祖先は地球人だと言う沙紀の言葉に衝撃を受けている頃、ラムネ星の「日本昔話成立支援機構」本部では、運行管理部長室を訪れていた。
小梅さんに研修を受けさせようとしたら、行方が分からない。昔話プロジェクトに派遣されているわけではない。しかし、本部にいない。スタッフ寮にもいない。

彼女をどこに飛ばしたのですか?

小梅だなどと通称で言われても、わかりませんな。クローン・キャストは機械と同じです。機械は登録番号で呼んでいただけませんか。
2018です。
2018はプロジェクトに派遣されていないのでしょう。それなら、うちの時空転移装置に乗らない。時空転移装置に乗らないキャストの行方を、私が知るはずがない。
本部内の監視カメラを全てチェックしたら、小梅さんが126階の廊下を浩太君—―あなたには2145ね―ーと話しながら歩いている姿が映っていました。
その2145が昔話プロジェクトに派遣されていれば、うちの時空転移装置に乗ったでしょうが、それと2018が、どう関係するのですか?
浩太君―2145―は、同期の仲間に「運行管理部長の命令でモルモットになるんだ」と話していました。モルモットとは、どういう意味ですか?
(心の中で)クソっ、あの口軽クローンが! しかし、126階の監視カメラ映像から浩太が消されていなかったとは……
運行管理部では、新型時空転移装置が最終試験段階にありましたね。装置は、今、どこにありますか?
それをあなたに教える義務はない。シノ・フラウ教育部長、権限外のビジネスを引っかき回すと、業務妨害で監察部に告発しますよ。
私は、監察部に調査を依頼します。2415ー浩太君ーも、現在行方不明です。あなたのモルモットにされると言い残した後の足取りが途絶えているのです。内部調査が必要です。
ははは、動物変身専門の下っ端クローン・キャストのたわごとを、監察部がまともに取り上げると思っているのですか?
監察部長も、どうせ、あなた達とグルでしょうからね。
「グル」? 何をおっしゃるのですか? シノ・フラウ教育部長、口には気をつけた方がいい。

機構幹部が他の幹部を誹謗中傷すると、ラムネ星中央裁判所に告発され、最悪の場合、禁錮20年の懲役刑ですよ。

その法律も、あなたの先輩達が内部告発を封じるために作った。
話になりませんね。重要事項とおっしゃるので、忙しいなか時間を割いてお相手したが、あなたの妄想を聞かされただけで、全くの時間の無駄だった。もう、お引き取りください。
では、ここはひとまず引き上げる事にします。ですが、この件では、必ず、またお会いする事になりますよ。
私は、二度とあなたとお会いするつもりは、ありませんよ。さぁ、早くお引き取りください。
シノ・フラウ教育部長が部屋を出て行くと、壁の中からサングラスの男が現れた。壁に擬態していたのだ。
話は、聞いていたな。126階の監視カメラ映像から2145を消去しなかったのは痛いミスだったな。
ボス、申し訳ありません。
あの女を始末しろ。
暗黒宇宙に飛ばしますか?
いや、本部内でやれ。事故に見せかけるに越した事はないが、多少、手荒なやり方でも構わない。監察部の方は、なんとでもなる。


今度は、絶対にしくじるんじゃないぞ。

わかりました。
サングラスの男が部屋を出て行った。
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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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