第22話 小梅、皿を数える

文字数 946文字

小梅が斬られて空井戸に放り込まれた翌日の夕方、擬態したミタローが井戸の底に降りてくるのがわかった。

小梅の隣で、ミタローが擬態を解いて、姿を現す。手に、白い着物のようなものを持っている。

小梅さん、具合はどうですか?
生まれて初めて、死ぬかと思った。


怪談では、こんなことが、よく起こるの?

この世に恨みを残した死者が成仏できず幽霊になるのが、怪談の基本です。

恨みを抱くくらい、ヒドイ目にあうわけです。

斬られたり、毒を盛られたり・・・

だから、精神のバランスを崩すクローン・キャストが続出して、人手が足りなくなった。


それで、「昔話成立支援機構」に応援を頼んできたわけね。

そういう次第で・・・

小梅さんには、感謝してます。

感謝するなら、うちの教育部長に感謝しな。

あたしは、あのタヌキばばあにダマされて、来ちまっただけだ。


それで、その衣装は何だい?

幽霊の定番、白装束に、頭につける三角の布です。

着替えてください。

あんたは、井戸から出てな。

言っとくけど、ここで擬態したって、気配でわかるんだからね。

あたしの裸を見たら、ぶん殴るよ。

わかりました。出てますよ。あっ、これ、肝心の皿。
はいはい、皿も、もらった。

さっさと、出ていきな。

幽霊の装束に着替え、皿を懐にしのばせた小梅、丑三つ時を待つ。


擬態したミタローが飛び込んでくる。

小梅さん、ショータイムです。
よっしゃ、行くか!
井戸から出て、皿を数え始める小梅。
いちま~い、にま~い、さんま~い・・・
雨戸が開いて、提灯を手にした武士が現れる。

提灯に照らされた顔を見ると、なんと、青山鉄山だ。

昨夜のくたばり方がおかしかったので、ひょっとしてと、思っておった。


やはり、現れおったか、この死にぞこない。


青山家伝来の名刀の試し斬り、もう一度させてもらうぞ。

鉄山が、小梅(菊)に斬りかかってくる。
ギャッ!何よ、この展開。


鉄山は、ビビって、小便を漏らすんじゃなかったのかい!

刀を振りかざした鉄山の動きが、一瞬止まる。


擬態で姿を消したミタローが飛びかかったのだ。

小梅さん、逃げてください!


造血剤のストックが、もう、ないんです!


今度斬られたら、オシマイです!

エイッ!
フギャ、投げ飛ばされた。


小梅さん、に・げ・て!

小梅(菊)の鼻先を鉄山の刀がかすめる。
なんだよ、これ!


来るんじゃなかったぁ~!

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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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