第21話 小梅、斬られる
文字数 1,135文字
江戸に着いた小梅は、山名という大名の屋敷に、女中・菊として入り込んだ。ミタローが、擬態して人間の目にとまらないようにして、ついてくる。
この屋敷で、小梅(菊)は、青山鉄山という武士から家宝の皿を盗んだ濡れ衣を着せられて殺され、井戸に捨てられるのだ。
何食わぬ顔して、女中部屋に入ったら、昔からいた菊として受け入れられちゃった。
この辺のイイ加減さは、昔話と同じね。
日本人になくてはならない記憶とはいっても、しょせんは、オハナシですから。細かい所は、テキトーでいいんです。
ゆうべ、青山鉄山が、皿を売り払ってきました。今夜あたり、小梅さんに罪をなすりつけて斬りかかってきます。日が暮れたら、「痛み止め」スイッチを入れてください。
その夜、台所で片づけをしていた小梅は、青山鉄山の下男から鉄山の部屋に燗酒を届けるよう伝えられた。
小梅(菊)が、鉄山の部屋の障子の外で膝をつく。
小梅(菊)が室内に入ると、鉄山が、傍らに置いてあった刀を取り上げ、真剣を鞘から抜き放った。
当家の家宝の皿をひそかに売り払いおったな。
この盗人め、刀のサビにしてくれよう。
わたくしめは、身に覚えのないこと。
どうか、刀をお納めください。
鉄山の刀が小梅の上半身を切り裂く。痛みは感じないが、ものすごい勢いで血が噴き出し、それが小梅の顔にかかる。
ぎゃっ、なに、これ!
うえ~っ、気持わりぃ~!
こんなに血が出たら、再生能力つきのあたしでも、死んじまう!
小梅さん、死んだふり!
死んだふりしないと、何度でも、斬られちゃいます!
くたばりおったか。
下男に言いつけて、死体を庭の空井戸に捨てさせ、畳の血を拭かせよう。
今夜は、うまい酒が飲めそうじゃ。
小梅(菊)、下男に担がれて、空井戸に放り込まれる。
骨折しないように、猫のように身体を丸めて着地する。
擬態したミタローが井戸に飛び込んでくる気配がした。
痛くはないけど、血が止まらない。
このまま出血多量で死んじまったら、どぉすんだよ。
ミタローがトマトジュースみたいな、赤くてドロドロした飲み物のペットボトルを差し出す。
急速造血剤です。これを飲んで新しい血液を作るんです。再生能力のあるボクたちクローンでも、あれだけバッサリ斬られて、これを飲まなかったら、出血多量で、死にます。
安全で簡単な仕事だから、怪談見物だと思って、楽しんでいらっしゃい。
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