第58話 小梅の自慢

文字数 1,222文字

(キョトンとしている浩太に目を向けて)あなたが浩太さんね。とんでもない目に遭ったわね。
そうなんすけど、小梅先輩がつき合ってくれましたから。それに、今は、沙希先輩も一緒ですし。
暗黒宇宙に飛ばされた沙希さんも、ここに来てるの?
茜さん、忘れちゃ困ります。浩太とあたしも暗黒宇宙に飛ばされたんですよ。暗黒宇宙からここに移動してきて、「暗黒宇宙3人組」で動物見世物小屋をやって、大繁盛してるんです。
先輩、与五郎さんを忘れちゃダメっす。あの人の商才がなかったら、こうはうまく行ってません。
あっ、そうだった。与五郎さん、浩太、沙希、あたしの「暗黒宇宙カルテット」で興行を大成功させてるんです。今日は休演日だけど、明日はやってますから、是非、観にきてください。お代はタダにしときます!
なんだか、ラムネ星のことなんかすっかり忘れて、こっちに馴染んでいるみたいね。
そうですね。とても、楽しそう。
勘違いしないでください! 小梅先輩がノーテンキなだけです。沙希先輩も、ボクも、ラムネ星に帰りたい一心で、「怪談支援機構」のキャストさんが『四谷怪談』を再生しにくるのを待ってたんです。
あたしも、基本姿勢はおんなじですよ。ただ、ここでも、楽しめることは楽しんでるだけで~す。
小梅さんらしいわね。
与五郎さんは、どういう方なの?
与五郎さんは、「日本怪談成立支援機構」のキャストさんで、時空転移装置の故障で暗黒宇宙をさまよってて「なんでもあり・リゾーート」の連中に拾われたんです。
江戸時代に飛んで、「怪談支援機構」のキャストさんが来るのを待つっていうのは、与五郎さんが言い出したことです。あたしたち、「与五郎プラン」って呼んでます。
その「なんでもあり・リゾート」というのは、何なの?
あっ、そうだ。肝心なことを話してなかった。あたし達が「絶対零度・永遠(とわ)の闇」だと思い込んでた「暗黒宇宙」は、実は、地球人の「なんでもあり・リゾート」だったんです。
セクハラ、パワハラ、モラハラ、暴飲暴食、危険薬物、そして殺人・・・・・・地球上では法律や道徳で禁じられていて出来ないこと、何でもできちゃう所です。
「暗黒宇宙」の「暗黒」というのは、地球人の心の暗黒面を意味していたのね。
そうです。
もしかしたら、暗黒宇宙に飛ばされたクローン・キャストは、その「なんでもあり・リゾート」で地球人にサービスさせられていたのかしら?
その通りっす。ボクはホスト、小梅先輩は動物変身ショーガールをさせられてました。与五郎さんは、設備メンテです。それで、沙希先輩は、
浩太!

(心の中で)地球人の愛人をしていたなんて、沙希の不名誉になることを部長と茜さんに教えたくない。

みんな、辛い目に遭っていたのね。でも、生きててくれて良かった。
あっ、いけない。あたし、自分のことばかり、しゃべっちゃって。

部長と茜さんは、どうして怪談の再生をしてるんですか?

それには、長い話があるのよ。
ラムネ星でも、結構大変なことがあったんです。
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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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