第9話 実行犯が、わかった!

文字数 1,146文字

真夜中。加久礼医師のクリニック近くの公園に、

美鈴と加久礼医師がいる。

加久礼先生、自白を強要するクスリを使うなんて、お医者さんとして、ちょっといかがなものでは?
あら、いいのよ。

今日の相手が犯人なのは、

ほぼ確実なんでしょ。

長時間の取調べとか拷問とかでゲロさせるよりは、断然、人道的で、文化的だわ。

小梅が、長身のなかなかイケメンな

男性を引き立てて、姿を現す。男性は、フラフラしている。

小梅ちゃん、もう、お薬は、飲ませてあるわね?
ええ、先生からいただいた分を、全部お酒にまぜて、飲ませました。フラフラメロメロしてきたんで、店から連れてきました。

じゃ、始めましょうか。


さて、ワタル君、君は、『桃太郎』をやる時、ついでに、何をしたのかな?
ボ、ボクは、村の近くの森に隠れて、真夜中になるのを待ちました。
それから、どうしたの?
ボクは、こっそり森を抜けだして、美鈴さんに、薬の入ったカプセルを飲ませに行きました。


しっかり口を閉じて寝てたらやっかいだと思ったけど、美鈴さんは、ボワーンと口をあけて眠ってたから、カプセルを飲ませるのは簡単でした。

口をボワーンと開けて寝てたなんで、恥ずかしい!
あんた、なんで、沙紀のために、そんなことまでするの?
ボク、沙紀さんにお金を渡して『浦島太郎』を成功させてもらい、そのあと、相手役に使ってもらえるようになったんです。


でも、最近、ギャンブルに

ハマってしまって・・・

ワイロを払えなくなっていたのね。
でも、今さら、昔みたいに、動物に変身したり、「その他大勢」役をするのは、真っ平だったし・・・
そうしたら、沙紀が、この悪だくみを手伝ったら、ワイロ

2回分をまけてくれるとでも、言った?

3回分です。


こんな美味しい話は、ないと思いました。

それで、引き受けちゃったわけだ。


ワタル君、ギャンブル依存は、君の意志の問題じゃない。立派な病気なの。ちゃんとした治療を受けて治さないと、また、同じことの繰り返しになっちゃうよ。


私が専門医を紹介してあげるから、そこに入院して、ちゃんと治しなさい。


小梅ちゃん、今の会話を録音した?

ええ、もちろん、バッチリ録音しました。
録音・・・

まさか、それを沙紀さんに

聞かせたりしないですよね?


あの人に知られたら、ボク、消されちゃいます。殺されなくても、間違いなく、暗黒宇宙に追放です。


お願いだから、その録音を沙紀さんに聞かせないでください。

気持ちはわかるけど、この録音は使わせてもらう。


ここで沙紀を止めな

かったら、いつ、また、美鈴と浩太が妨害工作を受けるかもしれない。


私は、まず、仲間を守る。


あんたにしてやれるのは、2つのアドバイスだけ。

ひとつ、加久礼先生が言う通り、今すぐ、ギャンブル依存の治療を受けなさい。

ふたつ、これを機会に、沙紀とは、キッパリ、縁を切りなさい。

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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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