第61話 一石二鳥

文字数 867文字

隅田川から少し離れた、さびれた神社。ひと気のないその神社のガタが来た本殿に小梅たちが身を隠している。
さっきの連中、匕首でボクらを殺そうとした。ボクらの見世物興行の商売敵っすかね。
だとしたら、小屋に独りで残ってる与五郎さんが危ない! 
でも、茜先輩と連中がグルじゃないなら、茜先輩の後ろに立った奴は、茜先輩を殺そうとしたことになる。
じゃ、襲ってきたのは江戸の街の商売敵じゃなくて、「昔話再生支援機構」と「なんでもあり・リゾート」に巣くってる悪党どもだってこと?
その可能性の方が、ずっと高い。
でも、どぉやって、ボクらを見つけたんすか?
しまった! 私たちは、怪談を再生していない時も、見張られていたんだわ。
えっ、でも、怪談を再生していない時に、わざとクレームされそうなことをやって見張られていないことを確かめましたよ。
私たちを油断させるために、見て見ぬ振りをしたのよ。
だとしても、なんで、今日、突然に襲ってきたのですか? あっ、そうか! 
茜先輩が、小梅、浩太と出くわしたからです。私たちは、過去のどの時代・どの場所にも行ける「観光用時空転移装置」で逃げたから、悪党どもは、私たちを探すのはあきらめていたはずです。
一方、怪談を再生する私たちの立ち回り先は決まっているから、決怪談再生中以外も見張っていた。その私たちが江戸時代で小梅さんたちと出会ったので、悪党どもは「一石二鳥」と飛びついてきた。
ということは、今も、私たちは見張られています。

小梅さん、浩太さん、沙紀さん、私たちから離れて逃げてください。

いえ、もう、私たちもロックオンされています。
本当に、ごめんなさい……
茜先輩、謝らないでください。私たちは『四谷怪談』を再生しにくる「怪談支援機構」のクローン・キャストさんと接触するために、ここで待っていたのです。監視ポストに発見される可能性もあると考えて、準備をしてあります。
準備? そんなのしてたっけ?
ボクは、なんもしてないっすよ。
ごめんなさいね。私が独りで準備したの。協力してくれる人が人見知りで、私以外とは会いたがらなかったものだから。
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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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