第3話 浩太の幼馴染、美鈴の願い
文字数 2,393文字
小梅より、5~6歳、年下の可憐な少女がしずしずとやってきて、小梅の前に立つ。
美鈴、テーブルの上で身を乗り出して、小梅の口元に耳を近づける。
キャストがそういう事を言うのは、沙紀が乙姫の時は、現場が、そうとうピリピリしてる証拠じゃないの?
あたしがゲットできた情報は、これだけ。探偵じゃないから、うまく探りを入れるなんて、できなかった。浩太に、謝っといて。
沙紀先輩は、浦島太郎役に決まった男性キャストから、お金を取るんですって。それで、男性キャストが払わなかったら、途中で演技を止めて、その理由を、浦島役のせいにするんだそうです。
お金は、沙紀先輩が直接受け取るんじゃなくて、沙紀先輩の一期後輩のアユさんという人が受け取るらしくて、浩太は、その人に連絡を取ったんです。それで、明日、大道具倉庫で会うことになって。
だって、ワイロのことは、あんたが浩太に話したんでしょ。ワイロを使えば『浦島太郎』で成功できるって教えたのと、同じじゃない。
それを、あたしに浩太を止めて欲しいだなんて、あんた、頭どうかしてるよ。
それが、『舌切り雀』でブレイクしたみたいで、大きな役で立て続けに成功して、次は、『浦島太郎』で大ブレイクしてビッグになるんだって、ものすごく張り切ってた。
そんな浩太の役に立つかもしれない話を黙ってたら、浩太に悪い。そんな気がして……
だけど、ワイロを使う機会なんて、めったにない。ワイロを払ってまで機嫌を取ったらイイことがある相手と言ったら、主役くらいのものだ。
でも、主役級のキャストは、高い給料をもらって、色々な特権も与えられてる。ワイロを取ってるのがバレたら、そのすべてを失うんだ。まともに計算ができる奴は、やらない。
沙紀が、頭がイカレてるだけだ。
沙紀先輩は、一度自分にワイロを払ったキャストを、繰り返し相手役に使って、その都度ワイロを取るんだそうです。
指名されたキャストは、沙紀先輩に昔話をぶち壊されたくないから、泣く泣くワイロを払い続けるんですって。
あのさぁ、美鈴ちゃん、あんたが浩太を思う気持ちは、良く分かった。
だけど、キャスティング部長までからんでそうなヤバイ話を、あたしの所に持ってこないで欲しい。
今の話は、全部、聞かなかったことにする。
あたしは、ここで、海老フライに専念するから、あんたは、あたしの見えない所に消えて、二度と姿を見せないでちょうだい。
小梅は、イヤな記憶を振り払うように、猛然と、海老フライに食いつくが、口の中で何の味もしない。