第33話 これが、暗黒宇宙?

文字数 1,411文字

沙紀に導かれて時空転移装置から出ると、あたりは光りの洪水で、小梅は目を手でおおった。
何、これ? これが暗黒宇宙? 全然、暗くないじゃん。
あたりには高層ビルが立ち並び、ビルの窓からもれる明かりと、ビルとビルに間の空間をゆっくり移動していく浮遊式ネオンサインのケバケバシイ光りで、真昼並みの明るさだ。
驚いた? 
驚くわよ。暗黒宇宙っていうから、まーっくらな、底なしの穴みたいなのを想像してた。これじゃ、現代の日本の繁華街みたいじゃない。いや、それ以上にケバケバしいじゃん。

(時空転移装置の中に顔を突っ込んで)浩太も中で震えてないで、出てきなよ。にぎやかそうな所だよ。

浩太、時空転移装置からおそるおそる顔を出して、びっくりする。
なんすか、これ?

暗黒宇宙っていうより、夜の歓楽街じゃないすか!

沙紀が意味ありげに笑う。
ここが、何だと思う?
なんなの?
なんなんすか?
地球上で超エリートの特権階級だけが利用できる「なんでもあり・リゾート」

普通の地球人は、こんな場所が存在することすら知らないわ。

「なんでもあり」って、なにがあるのよ?
セクハラ、パワハラ、モラハラ、暴飲暴食、危険薬物、そして殺人・・・・・・地球上では法律や道徳で禁じられていて出来ないこと、何でもよ。

暗黒宇宙の「暗黒」は、本当は、地球人の心の暗黒面を意味するの。

ここは、地球人が心の中の真っ黒な欲望を満たすための暗黒地帯なのね。でも、地球人同士で、セクハラしたり、パワハラしたり、殺しあったりしたら、勝てる奴は楽しいかも知んないけど、負ける奴は全然楽しくないじゃん。
いいえ、ここに来る地球人は、み~んな、楽しめるのよ。
ま、まさか・・・・・・?
そう、その「まさか」なの。
ゲゲッ!
なによ、二人だけで分かりあってないで、あたしにも、教えなよ。
先輩、にぶいっすね。


ボクらが、セクハラ、パワハラ、モラハラされて、暴飲暴食に付き合わされて、違法薬物を飲まされて、最後は殺されるんです。ボクらみたいに暗黒宇宙に飛ばされたクローン・キャストが、地球の特権階級のいけにえにされるんです。

ウソ!
残念ながら、ホントなのよ。


そうね。浩太は可愛いところがあってイジメ甲斐があるから、ハラスメント要員ね。


小梅は・・・・・・可愛げないからなぁ…・・・殺人ゲームのターゲットってとこかしら。でも、安心して。簡単に死んでしまったら、クローン・キャストの供給が間に合わなくなるでしょ。だから、5回までは殺されても生き返ることができるように遺伝子が書き換えられる。


ネコは9回生き返ることができるのに、人間のあたしが、5回だけ?
人間といっても、クローンだからね。それから、まだ5回目になっていなくても、頭を吹っ飛ばされたり、身体をバラバラにされたら生き返れないから、気をつけてね。
あたしが「殺され要員」に決まったようなことを言うな!

キャスティングを決めるのは、あんたじゃないだろうが。

キャスティングを決めるのは、地球人のキャスティング部長よ。でも、私は、その部長の愛人なの。
愛人だって! ボクら、クローン・キャストは地球人みたいな生殖行為をしない。それが、地球人の愛人になれるはずがないじゃないか!
沙紀が哀れむような目で小梅と浩太を見て、ニタリと笑った。
やっぱり、二人とも、何も知らないのね。


もっとも、私も、あの日、私のクローン養育所「くすのきの里」にあの女が訪ねて来るまでは、まったく、何も、知らなかったけどね。

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登場人物紹介

小梅

地球の並行世界ラムネ星に設置された「日本昔話成立支援機構」のクローン・キャスト。遺伝子改造されたクローン人間で、地球上の様々な動物に変身できる。

日本の「むかし、むかし、あるところに」派遣されて、動物が登場する日本昔話を成立させるのが仕事。動物役が専門だが、たまに、人間役をすることもある。

仕事の成績は、あまりパッとしない。短気で、言葉づかいが、荒い。

しかし、度胸満点で、目先の損得にこだわらない。実は、助けを求められると、見過ごしにできないタイプ。

浩太

小梅より5歳年下のクローン・キャスト。動物変身も、主役の人間もできる、オールラウンダー。

『舌きり雀』で、途中まで小梅の足を引っ張っていたが、最後に成功を決める一手を放ったので、小梅に対して、態度が大きい。

『浦島太郎』の主役に選ばれ、物語を成功させるために、乙姫役のクローン・キャスト沙紀にワイロを払おうとしたが、小梅に説得されて、ワイロを払うのをやめた。

美鈴

浩太と同期のクローンキャスト。浩太とは同じクローン人間育成所で育った、幼馴染。

沙紀がワイロを取り立てた相手をずっと利用し続けると知り、小梅に、浩太がワイロを払うのを止めて欲しいと頼みにくる。

浩太だけでなく、周りの皆を気づかう、心優しい女性。

沙紀

「日本昔話成立支援機構」でも、指折りの美女。

「かぐや姫」、「乙姫」、「鉢かつぎ姫」など、美人役専門。小梅と同期だが、動物役専門の小梅とは、仕事上の接点は、ほとんどない。

実は、他人を支配することに最大の喜びを感じる魔性の女。キャスティング部長を抱きこんで、自分の好みの男性キャストを相手役に指名させ、そのキャストからワイロを取る。もっとも、ワイロの大半はキャスティング部長に流れ、沙紀は、相手の男性キャストをもてあそぶことを生きがいにしている。

アユ

沙紀の一期後輩で、沙紀の手下。ワイロの取り立て役をしている。

小梅とは正反対に、ていねいな言葉づかいをする。

加久礼 診子 (カクレ ミコ)

小梅が頼りにしている女医。もとは、「日本昔話成立支援機構」の産業医だったが、ある出来事をきっかけに「機構」と決別。今は、街の片隅で、ほそぼそと開業している。

小梅とは、仕事上のストレスから小梅が発症した顔面のチックを診子が治してから、十年来の付き合い。小梅は、「機構」の産業医より診子を信頼している。

診子は、患者の身になって親身な治療をする。金のない患者には治療費を貸し付けたことにして「借用証を」を取るが、これは、治療費を払ってくれる患者の手前、形式上スジを通しているだけで、診子から支払いを迫ったことはない。それでも、回収率は6割を超えている。

ワタル

「日本昔話成立支援機構」の男性クローン・キャスト。元々は動物変身、人間の脇役など、オールラウンドに演じていたが、沙紀にワイロを払って『浦島太郎』を成功させてもらってからは、沙紀の指名でイケメン役ばかりを演じてきた。ところが、かけ事にハマって、沙紀にワイロを払えなくなってきている。そんなワタルが、沙紀にぶら下がっているために選んだ仕事は・・・・・・

シノ・フラウ教育部長

非クローンのラムネ人。「日本昔話成立支援機構」の教育部長。

小梅を、クローン人間育成所「くすのきの里」に教育派遣する。

沙紀が関わっていた組織ぐるみの不祥事との関係は、不明。

茜(M1907)

クローン・キャスト暦20年のベテラン(小梅はまだ7年)

「くすのきの里」出身。

若いころは、動物変身役、その他大勢役が続いたが、11年目で主役の座をつかみ、「乙姫」、「かぐや姫」、『鶴の恩返し』の「鶴」などを演じる。

しかし、10年間にわたって、便利屋的に主役・脇役・動物役に使い回され、心身を消耗してウツ状態となり、1年間休職することになる。

「くすのきの里」で、子ども達とは接触しない仕事を手伝いながら療養している。

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