これまでのあらすじ・人物紹介

文字数 20,163文字

 私の名前はアルマン・ヤコブ・ヴィーゲルト。現在は大統領の意向によってアメリカ議会図書館の館長を務めている。

 私は本来はローマ教皇庁に所属する退魔師(・・・)であったのだが、わが師の意向もあって悪魔(・・)と戦うウォーカー大統領を補佐する為にこの任務を引き受ける事となった。まあ以前の退魔任務で魔の存在相手に致命的な傷を負って現役を退いた身なので、丁度よいと言えばそうだったのではあるが。

 悪魔と書いたが、これは比喩的な表現ではない。今この国には現実に人間とは異なる邪悪な魔物である『悪魔』達が蔓延って、人間達を裏から文字通り食い物にしているのだ。『悪魔』はただ暴れるだけの怪物ではない。やはり邪な性質を持った人間と契約し、その人間と融合(・・)し、人間社会に巧みに潜伏しながら、法の目を潜って己の邪悪な欲望を満たす事に勤しんでいるのだ。

 悪魔と契約した者は大抵高い社会的地位を持っている者が殆どであり、悪魔達は人間社会で己の地位を保ちながら裏では悪魔として凡そ想像しうるあらゆる悪徳に手を染めている。

 しかし人間も無力ではない。中には奴等の存在に気付いて、奴等と戦う道を選んだ者もいる。勿論戦うと言っても、奴等相手に個人で出来る事などたかが知れている。高い社会的地位を持ち、互助会を組む悪魔達と戦うためには、こちらも相応の地位が必要になる。

 その筆頭が今現在私が出仕している現アメリカ合衆国大統領ダイアン・ウォーカーその人であった。彼女は大統領としての職務をこなしながら、人々の目に見えない裏ではこの国を支配しようと目論む悪魔達との戦いを続ける戦闘司令官でもあるのだ。

 しかし悪魔達は手強く、いずれも一筋縄では行かない存在だ。事実大統領の戦いはそれまで非常に苦しい物であった。しかしある事(・・・)をきっかけにその状況は一変していく事になる。そう……1人の勇気ある女性の加入が、悪魔達との戦いに目覚ましい進捗を与えていく事になったのだ。

 私はその戦いを陰からサポートする身として、彼等の戦いの記録を可能な限り残しておきたいと思う。このレポートでは悪魔達が起こした事件と、それに立ち向かい討ち滅ぼしていく戦士達についての概要をまとめていく事になる。

 尚、何分私としてもこのようなレポートをまとめるのは初めての経験なので、多少乱雑になってしまう可能性もある事を予め断っておきたい。人物に関する纏めではビアンカと彼女を直接護衛するメンバーは☆、それ以外の大統領側の人物は□、そしてカバールの正規構成員である上級悪魔は★、それ以外の敵対的な人物に関しては■で表現している。



◆◇◆◇◆◇



Case1:フィラデルフィア
 フィラデルフィアの街に暮らす女子大生ビアンカ・コールマンは、ある日ルームメイトで親友のエイミーが殺害されるという事件に見舞われる。この事件の容疑者扱いされて警察署に連行されたビアンカは、そこで本部長のエメリッヒや彼の部下達が人間ではない事を知る。
 怪物と化したエメリッヒ達は何故かビアンカを『エンジェルハート』と呼んでその心臓を抉り出そうとするが、そこに間一髪現れた謎の男ユリシーズに危機を救われる。
 ユリシーズからエメリッヒ達の正体と、彼等が自分を狙う理由を聞かされるビアンカ。何と彼女は現アメリカ大統領ダイアン・ウォーカーの隠し子であり、更には無限の霊力を貯蔵する『天使の心臓』の持ち主であるというのだ。
 実際に怪物となったエメリッヒ達に狙われた事でその事実を信じるしかなくなるビアンカ。そしてエメリッヒは【カバール】と呼称される、この国の闇に巣食う悪魔達のネットワークの一員である事も知らされる。
 ウォーカー大統領はカバールを駆逐すべく奴等と暗闘を繰り広げていたのだ。大統領の娘である事と、悪魔にとって垂涎のご馳走である『天使の心臓』を持つ事で悪魔達から狙われる運命にあるビアンカは、親友を殺され自らの生活も滅茶苦茶にされた怒りから奴等との戦いを決意する。
 エメリッヒや彼と反目するハンター市長らカバールの構成員との熾烈な戦いに辛くも勝利したユリシーズは、ビアンカを連れて一路ホワイトハウスを目指す。
 十数年ぶりに再会した実の母親は事務的な態度でビアンカを迎え、それにショックを受けた彼女は母親であるダイアンと冷戦状態になってしまうが、母親への反発とカバールへの強い怒りから、アメリカに残って奴等と戦うという決意をする。
 『天使の心臓』を囮に使って悪魔達を炙り出すという大胆な作戦を提案するユリシーズの口添えもあってビアンカの残留は認められ、この夜から彼女とカバールの長い戦いが始まっていく事となる。


☆ビアンカ・コールマン(カッサーニ)
 フィラデルフィアで生まれ育った女子大生。市内の大学に通う。カラテの達人であり、州内の大会でも何度も優勝を重ねる程の腕前。しかしある時ルームメイトで親友のエイミーが殺され、その事件の濡れ衣を着せられて警察署に連行されてしまう。そこから彼女の数奇な運命が始まった。
 無限の霊力を貯蔵するという『天使の心臓』の持ち主だが、『天使の心臓』は霊力を溜めこむばかりで自らの意志でその霊力を引き出す事は出来ない。しかしそれ故に『天使の心臓』は悪魔にとって垂涎の至宝であり、彼女は常に悪魔に狙われる運命にある。だが悪魔にとって無視できないという特性を逆手にとって、巧妙に人間社会に潜伏する悪魔を炙り出す『囮』として非常に役立つ事を実証し、カバールとの戦いに加わる事を許可される。
 現アメリカ合衆国大統領ダイアン・ウォーカーの実の娘であり、また実父は何と現ローマ教皇マクシミリアン4世。マクシミリアン4世は無限の霊力を引き出せる『神の心臓』の持ち主であり、ビアンカの『天使の心臓』はその性質の一部を受け継いだものと推察される。
 彼女と『天使の心臓』の参戦によって悪魔達は次々とその正体を白日の下に曝け出されていく事になり、光と闇の戦いにおいて極めて重大な転機をもたらす存在となった。
 尚コールマンは彼女を養育した養父母の姓であり、現在は父親の元姓(・・)であるカッサーニを名乗っている。


☆ユリシーズ・アシュクロフト
 大統領直属の特殊SP。黒い短髪を逆立てた美形の偉丈夫で、常に黒いスーツに身を包んでいる。通常(・・)のSPでは対処できない脅威や案件に際して大統領を護衛する役割を担っている。フィラデルフィアに派遣されており、命を狙われたビアンカの窮地に現れる。それ以降は常に彼女の護衛として、彼女を狙う悪魔達と死闘を繰り広げる。
 非常に高い魔力と人間離れした身体能力を備え、撃ち込まれた銃弾を素手で掴み取り、人間の頭をパンチ一発で熟したトマトのように潰す事ができる程。魔界の高位魔術を自在に行使する事が出来、黒炎や雷、冷気、障壁などその能力は多岐に渡る。また人間の意識をそのフィールドから遮断する『結界』を張る能力も持っている。
 その正体は悪魔と人間のハーフである半魔人。それを象徴するような金色に輝く瞳を備えており、普段は厚いサングラスで隠している。
 元々はビアンカの実父であるダンテ(現マクシミリアン4世)に調伏された存在で、彼の世界中を巡る退魔の旅に養子(・・)として付き合わされていた過去があり、大統領になる前のダイアンともその旅の最中に面識があった。その時の縁でカバールと戦うダイアンの援軍(・・)として派遣されたという経緯がある。
 ビアンカとは互いに憎からず思っているが、やはり互いに素直ではない性格の為それを表に出す事は出来ずにいる。


□ダイアン・ウォーカー
 現アメリカ合衆国大統領。保守的な国民党の代表でもある。アメリカ初の女性大統領として注目を集める知的で冷徹な雰囲気の女性。その実、裏ではアメリカを自由にコントロールしようとする悪魔達のネットワーク【カバール】の企みを阻止し、奴等との暗闘を繰り広げる戦闘指揮官。
 ビアンカの実母でもあり、カバールとの戦いが本格的になっている予感から、自らの弱みとなり得る娘を信頼できるコールマン夫妻に預けて秘匿した。しかし彼等が暮らすフィラデルフィアの警察本部長エメリッヒにビアンカの存在を捕捉され、その護衛の為にユリシーズを派遣した。
 内心ではビアンカの事を大切に思っているが元々不器用な性格である事と、自己都合で手放して長年放置してきたという負い目からビアンカに対して事務的でつっけんどんな対応で接してしまい、母娘冷戦状態となっている。




★『切り裂く者(スラッシャー)』プルフラス
 カバールに所属する上級悪魔。フィラデルフィアの警察本部長アルバート・エメリッヒの正体であり、ビアンカを罠に嵌めて無理矢理警察署に連行させる。そこで怪物のような姿に変わり、ビアンカの事を『エンジェルハート』と呼んで殺害しようとした所をユリシーズによって妨害された。
 その姿はまるで映画『エイリアン』に登場するクリーチャーを赤黒くしたような不気味な造型。その鉤爪はどんな硬度の物体も切り裂く事ができ、その斬撃を真空刃として飛ばす事も出来る。また長い尾を鞭のように撓らせて武器とする事も出来る。
 シンプルな能力だがそれ故に強く、事実ユリシーズを一度は瀕死に追いやった程。だがそれがトリガーとなってユリシーズの内に封印されていた『黒騎士』を甦らせてしまい、圧倒的な力であっさりと粛清(・・)された。


■ジャック・パーセル
 フィラデルフィア警察の刑事。ビアンカを罠に嵌めて警察署に連行した。その正体はプルフラスの眷属で中級悪魔ヴァンゲルフ。3メートルの巨体に自在に伸縮する両腕と、口から吐き付ける蒸気ブレスを武器とする手強い悪魔だが、ユリシーズの前にあっさりと敗れ去った。


■ヴィクター・ランディス
 ビアンカの元カレ。元々は気弱で事なかれ主義の若者で、活発で才気あふれるビアンカに内心では妬みを抱いていた。ビアンカのルームメイトで親友のエイミーを直接殺害して、彼女を罠に嵌めた下手人。ビアンカにとっては宿敵に当たる。
 どのような経緯でかは不明だが、上級悪魔であるアンドロマリウスと契約し融合している。当初は契約したてでそこまでの脅威ではなかったが、徐々に力を向上させているらしく、今後警戒を要する必要があるかもしれない。


★『狂乱の錬金術師(マッドアルケミスト)』ヴァプラ
 カバールに所属する上級悪魔。その正体はフィラデルフィア市長であるジェリー・トーマス・ハンター。元々プルフラスの縄張りだったフィラデルフィアに入り込んできて市長に当選したらしく、プルフラスからは忌み嫌われていたらしい。
 その姿はまるで趣味の悪い前衛芸術が実体化したかのような、身体のバランスが一切考慮されていない歪な造型をしている。絵画や彫刻など美術品に仮初の命を吹き込んで半自律型の兵隊として操る事ができる。またそれらの美術品に強固な障壁を張り巡らせる事で防御力を高める能力もある。
 操れる美術品のサイズに制限は無いらしく、フィラデルフィア市庁舎のランドマーク『ウィリアム・ペン』の像すら自身の操る兵器に作り替えた。


*****


Case2:ボルチモア
 ビアンカがカバールとの戦いを決意してから最初の任務がやってきた。ボルチモアで若者が次々と老衰で変死する事件が起こっており、知事から大統領府に調査依頼が舞い込んできたのだ。大統領補佐官のレイナーからブリーフィングを受けたビアンカは、以前の逃避行の最中に出会ったサイボーグ軍人のアダムと共にボルチモアへと飛ぶ。
 果たしてビアンカの『天使の心臓』に釣られた悪魔は、彼女を捕らえようと次々と手下を差し向けるが全てアダムによって返り討ちに遭う。業を煮やした敵はボルチモア市長のアディソンを操ってビアンカを罠に掛け、まんまと連れ去る事に成功した。
 変死事件を起こし今またビアンカを捕らえた悪魔の正体は、ボルチモアの経済を牛耳るトライトン・グループの会長であるウィリアム・バーであった。バーはビアンカを殺し『天使の心臓』を自らの物にしようとするが、そこにビアンカの生体データを登録してあった事で追跡に成功したアダムが駆け付ける。
 更に援軍に現れたユリシーズの助けもあって悪魔を殲滅したビアンカ達。彼女は無事に初任務を達成するのであった。


☆アダム・グラント
 アメリカ国防総省所属の軍人。階級は中尉。ダイアンの要請でビアンカの護衛を務めるべく国防総省から派遣されてきた。身長約2メートルの大柄で筋肉質の黒人男性。それだけでも威圧感があるが、それだけではなく実は陸軍の『アンドロメダ計画』によって作り出されたサイボーグ軍人でもある。
 体内に内蔵された光線銃やブレードを用いた遠近両用の戦いを得意とする。それ以外にもいくつか強力な兵器が内蔵されている。また戦闘用の機能だけでなく索敵や潜入、情報処理などその機能は多岐に渡り、様々な場面で活用できる万能型サイボーグ。更に切り札とも言える、自己の身体能力を一時的に倍増させる『高速機動モード』も搭載している。
 サイボーグとはいっても人間としての感情や判断能力は保持しており、ビアンカに対して過保護とも思える態度で接する事も多い。


□ビル・レイナー
 大統領首席補佐官。オールバックの冷徹そうな雰囲気の白人男性。普段はホワイトハウス地下の核シェルターに住まうビアンカに任務の詳細を伝える役目を担う。ビアンカ達とは事務的な態度で接するが、時折苦労人じみた素の態度が表出する事がある。


□アルマン・ヤコブ・ヴィーゲルト
 アメリカ議会図書館館長。イタリア人で元々は教皇庁所属の司祭であったが、ダイアンの戦いをサポートすべく教皇庁から派遣された。ダイアンの元夫であるダンテの弟子の1人。元は腕利きの退魔師でもあったが、以前に魔物との戦いて内臓に深刻な障害を負って一線から退いた。
 現在は大統領陣営の知識面でのサポートや霊具の開発・供給などを担当している。ビアンカの主要な戦闘手段でもある霊武具を開発した。



★『闇夜の徘徊者(ナイトクローラー)』アマゼロト
 ボルチモアを影で支配して、若者たちの精気を吸い取りながら生き永らえてきた悪魔。その正体はボルチモアの海運を牛耳るトライトン・グループの会長ウィリアム・バー。
 悪魔としての姿は不定形の濁った液体の塊。その塊が自在に動いてアマゼロトという悪魔を構成している。見たも通り液体であるのであらゆる物理攻撃は通用せず、また液体の身体を槍状にしたり針のように飛ばす事も出来る。しかし最も脅威なのはうねるように接近して、その身体で直接相手に取り付く攻撃である。
 その特性でアダムを追い詰めるが、物理攻撃に強い反面それ以外の攻撃には弱い。援軍に現れたユリシーズにその弱点を突かれて、最後にはアディソン市長を人質に悪あがきをするが、それもアダムの能力に破られ、ユリシーズの電撃で消滅した。



■水族館の館長
 ビアンカ達が調査に赴いたナショナル水族館の館長。その正体は半魚人のような中級悪魔ギルタブル。ステルスモードを起動していたアダムに違和感を抱くなど高い探知能力と、水圧攻撃を得意とする。アダムとの戦闘で斃された。


■マルクス・レーラー
 メリーランド州上院院内総務。当初容疑者の1人と目されていたが、その正体はイカ人間のような外観をした中級悪魔スキアタン。二本の触腕を高速で振るう。アダムの『倍速機動モード』で斃される。


■ヘリ―・ブロック
 メリーランド州選出の連邦下院議員。容疑者の1人であったが、その正体はカニ人間のような外観の中級悪魔ルルゲーデ。硬い外殻を持ち、強酸の泡玉を吐き付ける。同じくアダムの『倍速機動モード』で斃された。


■ヴァンサン・コルベル
 メリーランド州の最高裁判事の1人。同じく容疑者候補であったが、その正体は巨大な巻貝のような姿の中級悪魔へモス。機動力は低いが、小規模な雷撃を自在に落とす能力を持つ。アダムの『爆裂殲滅砲弾(デストロイ・ランチャー)』で吹き飛ばされた。


□アビー・アディソン
 ボルチモアの女性市長。自由党所属。当初は犯人と何らかの関わりを疑われたが実際には潔白であった。アマゼロトに操られてビアンカを罠に嵌める。また最後の決戦時もアマゼロトによって人質に利用されるが、アダムの機転と能力で救出された。その後はカバールと距離を置くようになる。


*****


Case3:アトランタ
 ビアンカに新たな任務が下された。ジョージア州の州都アトランタにて大規模な選挙不正工作の痕跡が確認され、その背後にカバールやそれと手を組む中国統一党が絡んでいる可能性があるというのだ。
 ビアンカはユリシーズと、そして2年前に中国から亡命しダイアンに匿われている元中国統一党の高官である(レン)麗孝(リキョウ)の2人を伴い、アトランタへの調査に赴く。
 果たしてジョージア州は知事や州務長官などの要職に怪しげな中国人がスタッフとして採用されており、ビアンカ達は選挙不正工作の疑いを強める。そして『天使の心臓』に釣られて現れた悪魔バルバトスと戦い、これを捕らえて情報を吐かせようとする。しかし悪魔は予想以上に手強く生け捕りは不可能であった。その代わり、戦いの最中に加勢に現れたヴィクターからジョージア州立大学が怪しいという情報を得る。
 実際に大学には選挙不正の操作を行う投票機が大量に保管されており、カバールの悪魔であったパウエル学長や中国の出先教育機関『老子学院』の学長である黄汪文らが妨害に現れる。
 死闘の末にこれらの敵を退けるユリシーズ達であったが、戦いの最中突如現れた謎の悪魔サタナキアによってビアンカを攫われてしまう。しかしリキョウが予めビアンカに付けていた仙獣虹鱗の力でサタナキアの思惑は破れ、彼等は無事にビアンカを救出する事に成功。アトランタでの選挙不正の証拠を確保するのだった。


☆レン・リキョウ
 正しくは(レン)麗孝(リキョウ)。怜悧で冷徹な雰囲気を漂わせる中国人。元は中国の国家公安部の部長であり、中国統一党のれっきとした高官。しかし彼が与する国務院総理である(シー)正威(ジンウェイ)が権力闘争に敗れてアメリカに亡命する際に、それを護衛して共に渡米してきた。
 神仙と呼ばれる、『気』の力を操り仙獣を作り出して使役する超常の道士。彼はその中でも特に強い力を持つ上仙の1人である。毒と水の力を操る青蛇『冥蛇』。風の力を操る白豹『麟諷』。そして熱と炎の力を操る赤鳳『煉鶯』の3体の仙獣を従えており、これらを使役する事で非常に多岐に渡る能力を行使できる。
 また偵察用に小さなカメレオンの仙獣『虹鱗』を作成しており、ビアンカの側に付けている。
 怜悧で整った外見をしており、中国にいた頃から数多くの女性と浮き名を流す遊び人でもあった。しかしビアンカに出会って彼女の覚悟と信念に触れる事で何らかの心境の変化があったらしく、ビアンカに対して並みならぬ興味を抱いている様子がある。


□許正威
 元は中国統一党の序列第2位である国務院総理。序列第1位の国家主席に最も近い人物であったが、当時序列第5位の中央軍事委員会副主席であった周国星の謀略によって追い落とされて亡命を余儀なくされた。
 共産主義独裁国家である中国において民主化を推し進めようとした数少ない人物であり、リキョウを始め彼を慕っていた者も多い。それらの人物の手引きで亡命に成功した許は、以前から盟友であったダイアンに匿われて、彼女の政策相談役のような役割に収まっている。


■周国星
 現中国国家主席。許やリキョウが亡命するきっかけを作った。強烈な共産主義信奉者で、他国に対する覇権主義を半ば隠そうとしておらず、特にアメリカを始めとした民主主義陣営からは危険な人物として警戒されている。
 麾下に『紅孩児』と呼ばれる神仙だけで構成された仙術部隊を擁している。


■韓俊龍
 中国の諜報部門である国家安全部第九局の局長。周主席の懐刀と目されている。また『紅孩児』の上仙として、非常に高い能力を持った神仙でもある。リキョウが中国統一党で最も警戒していた男。
 風を操る黒鼬『橿貂』と雷を操る金狼『鍠呀』という2体の仙獣を使役する姿が確認されているが、リキョウと同等の力を持っている事から他にも使役できる仙獣を隠している可能性は高いと思われる。


■黄旺文
 ジョージア州立大学内に存在する中国文化教育機関『老子学院』の学長。『老子学院』は他の大学にも多数存在しており、表向きはただの教育機関だが実際には中国統一党のプロパガンダ機関だと大統領府では見做されている。
 黄はジョージア州で進められていた選挙不正工作の責任者でもあり、学院内に違法な投票機を多数保管していた。また『紅孩児』の上仙でもあり、学院に乗り込んで来たリキョウと仙術対決を繰り広げるが、仙獣の3体同時召喚という禁じ手を解放したリキョウに敗れ去った。



★『大胆な彫刻家(スカルプター)』バルバトス
 アトランタに赴いたビアンカ達の前に、『天使の心臓』に釣られて最初に現れたカバール構成員。その正体はアトランタに籍を置く連邦準備銀行の総裁であるハンス・デューリンガー。
 その姿は歪な岩の塊が人の形を取ったような造型で見た目の迫力はないが、大地から岩を吸収してその身体をいくらでも肥大・修復できる特性がある。
 また岩を操って巨大な『腕』のような形にして半自律的に敵を攻撃させたり、人間大の岩人形を無数に作り出して動かす事も出来る。この岩人形は単体では大した脅威ではないが、数が非常の多いのと、倒してもその傍からすぐに再生してしまう特性が厄介となる。
 ユリシーズと、彼に加勢した謎の仮面男(ヴィクター)の助言によって斃された。


★『炎熱妖怪(ファイヤーファントム)』アモン
 選挙不正工作の証拠を求めてジョージア州立大学に潜入したビアンカ達の前に立ち塞がった悪魔。その正体はジョージア州立大学の学長マーク・パウエル。
 その姿は燃え盛る鬣をなびかせた堂々たる体躯の獅子人間といった所で、その姿や異名の通り炎を自在に操る能力を持つ。炎を飛ばす遠距離攻撃も出来るが、最も得意でありそして脅威なのは、炎を自らに纏わせての近接攻撃である。
 ユリシーズを正面からの拳の打ち合いで圧倒しかけるが、『黒騎士』の封印が解けかかっている事に気付いた彼の発奮により逆転されて、冷気の拳で身体を粉砕されて斃された。


★『異名不明』サタナキア
 黄やアモンと対峙するビアンカ達の前に突如として乱入してきた悪魔。巨大な浮遊する一つ目に蝙蝠のような皮膜翼と小さな脚が付いているという奇怪極まりない姿。アモンの口ぶりからこの悪魔もまたカバールの構成員のようだ。
 ビアンカを連れ去って自らの魔力で作り出した迷宮の中に監禁した。この迷宮は複雑怪奇であり、尚且つ中にいるだけで迷宮に精気を吸い取られていくらしく、迷い込んだ人間は出口を求めて彷徨ううちに迷宮に命を吸い取られて果てる事になる恐ろしい力である。
 しかもこの時に作ったのはあくまでも『即席の迷宮』らしく、時間を掛ければ更に巨大な亜空間迷宮を作り出せるらしい。しかし『ゴール地点』にいたビアンカには仙獣虹鱗が付いており、それを道標としたリキョウに自身の迷宮を踏破され、プライドが傷ついた様子を見せていた。
 しかしそこでは決着を付ける事無く、いずこかへと飛び去っていった。そのため未だに正体は不明のままである。いずれ再びビアンカ達の前に立ちはだかるであろう事は想像に難くない……


*****


Case4:アンカレジ
 アラスカ州選出のエマ・ルース上院議員よりホワイトハウスに調査依頼が舞い込んできた。彼女によるとアラスカ州議会がアラスカでのエネルギー採掘権をロシア企業が落札しやすくなる法案を可決しようとしているというのだ。アラスカは保守的な国民党が強い州であり、あり得ない事態にカバールの関与を疑ったビアンカ達は早速アラスカへと飛ぶ。
 今回はユリシーズは私用でイタリアへ行く用事があった為に、アダムとリキョウがビアンカの護衛に当たる事となった。アラスカでルース議員の自宅を訪ねるビアンカだが、彼女はそこでマチルダ・フロックハートと名乗るCIAの女エージェントに遭遇する。CIAは大統領府と対立している潜在的な敵対組織と化していた。
 その後ルース議員から事情を聞いたビアンカ達は州上院議長のイザベラを盗聴する事によって、今回の案件の背後にロシアが絡んでいる事を確信する。ロシアは独自に超能力部隊を組織して、密かにカバールと手を結んでアメリカに工作を仕掛けていたのだ。
 アダムとリキョウの能力により敵はファイアー島に拠点を構え、そこにアラスカ州議員達の家族を人質に取って脅迫していた事を突き止めたビアンカ達は、島に潜入してロシアの超能力部隊と激闘を繰り広げる。
 その基地の奥でビアンカはCIAのマチルダと、そしてロシアに操られている被検体【ナンバー・ゼロ】に遭遇する。最初の超能力者はロシア人の美少年であった。彼は洗脳装置でロシア政府に隷属させられていたのだ。
 マチルダの奸計によってその少年ごと連れ去られたビアンカは、彼女と手を組んでいた真の黒幕、カバールのバーナード准将に『天使の心臓』を狙われ殺されそうになる。しかしそこで自力で洗脳を解いた【ナンバー・ゼロ】……イリヤに助けられる。
 正体を表したバーナードは激闘の末にイリヤの超能力によって討ち滅ぼされた。その後彼女を救出にきたアダム達とも合流したビアンカは、イリヤをホワイトハウスで保護する決意を固めるのであった。


☆イリヤ・イヴァノヴィチ・スミルノフ
 ロシアのレニングラード州出身。金髪紅顔の美少年。生まれながらのESP能力者で、ある時いじめっ子相手に超能力を使ってしまい、故郷の村にいられなくなる。それからはロシア国内を転々としていたが、噂を聞きつけたロシア政府によって両親から売られてしまう。
 それからは被検体【ナンバー・ゼロ】と呼称されて、ロシアの超能力部隊を作る為の実験体とされてしまう。その後研究しつくされて用済みとなった彼はアラスカでの工作任務に保険として貸し出され、そこで潜入してきたビアンカと邂逅した。
 ビアンカの献身と説得によって洗脳から解放された後は、その強力なESP能力で彼女を助ける頼もしい護衛となった。サイコキネシスやパイロキネシス等、種々のESP能力を極めて高い水準で使いこなす。子供であるがゆえにまだまだ未熟で詰めの甘い所も見られるが、その潜在能力は誰よりも高いと推察される。
 かなり早熟な少年でビアンカに惚れているが、彼女からは当然手のかかる弟のようにしか思われていない。


□エマ・ルース
 アラスカ州選出の連邦上院議員。同じ国民党で、初の女性大統領であるダイアンを崇拝している。州議会の不可解な動きに不審を抱いて、大統領府に調査を依頼した。


□イザベラ・ブルーメンタール
 アラスカ州議会の上院議長。辣腕だが腹黒い部分もあり、お飾りの知事を擁立してその裏で州政の実権を握っていた。ロシアの工作員に家族を人質に取られて、意に沿わぬ法案の可決を迫られる。



★『思考の具現者(イマジネーター)』デカラビア
 アンカレジに潜む悪魔。ロシアやCIAを利用して『天使の心臓』を手に入れようと目論んでいた。その正体はエルメンドルフ空軍基地の司令官であるフランクリン・バーナード准将。
 悪魔としての姿は目が付いた巨大な脳から無数の触手が生えているという奇怪な物。その触手を屋内の壁に張り巡らせて本体である脳を中空に固定している。自身には防御障壁を張る以外に戦闘能力は無いが、真に恐ろしいのは相手の思考を覗き込んで、その者が知る限り『最も強い者』を具現化する能力。
 『具現化人形(イマジンドール)』と呼ばれるその存在は、本物と寸分違わぬ能力を有する。事実ビアンカの記憶を覗き込んで具現化した『ユリシーズ』は、圧倒的な戦闘能力でイリヤを一方的に追い詰めた。
 しかしビアンカの機転と虹鱗の献身によって本体にダメージを負って『具現化人形』を維持できなくなり、その隙を突かれてイリヤに討ち滅ぼされた。

■カドモス
 デカラビアの眷属の一体。3メートル近い巨体の中級悪魔で、口から麻痺性のガスを吐きつける能力が脅威。またその巨体の膂力自体も相当なものだが、どちらも本気になったイリヤには全く通じずあっさりと討伐された。

■デイノ
 デカラビアの眷属の一体。一本角を生やした毛むくじゃらの中級悪魔。範囲を指定したテレポート能力と、両手から爆発性の光弾を放つ能力を持つ。しかし自慢の光弾もイリヤの障壁を破るには至らず、あっさりと返り討ちにされた。



■ウラジスラフ・ロマーノヴィチ・ミハイロフ
 現ロシア連邦共和国大統領。元KGB出身でその情報網を駆使して政敵を追い落とし、大統領の座に登り詰めた。極めて冷徹かつ合理的な性格で、ロシアの国際的地位を向上させ、最終的には旧ソ連に匹敵する巨大国家を復活させようと目論んでいる。
 イリヤを捕らえて、その研究データを元に自らの手足となる超能力部隊『トリグラフ』を組織した。アメリカに対して様々な工作を仕掛けてきている。

■セルゲイ・レオーノフ
 ロシアの諜報機関SVR所属にして、非公式超能力部隊『トリグラフ』の上級隊員。『トリグラフ』はイリヤの研究データを元にロシア政府が作り出した人造の超能力者達の部隊であり、基本的には1種類の能力のみを使えるベータ級の能力者によって構成されるが、セルゲイはその中でも複数の能力を高水準で扱う事のできるアルファ級の超能力者である。
 特に相手の思考を読み取るテレパス能力に優れ、その能力を買われてミハイロフ大統領直々に今回のアラスカでの工作任務を命じられている。

■ザハール・メリニコフ
 ロシアの諜報機関SVR所属にして『トリグラフ』の上級職員。アラスカでの工作任務の責任者でもある。セルゲイと同じく複数の超能力を使いこなす強力なアルファ級能力者だが、諜報員らしからぬやや単純で思い込みの激しい性格。そこをマチルダに付け込まれて利用された。
 ファイアー島の決戦でアダムと死闘を繰り広げるが、『倍速機動モード』を発動したアダムに討ち取られた。


■マチルダ・フロックハート
 CIA所属の女性エージェント。セミロングのブロンドヘアと黒いスカートスーツが特徴。アラスカに赴いたビアンカの前に現れる。当初はロシアと手を組んでいるように思われたが、実際には彼等を利用してイリヤとビアンカをまんまと攫う事に成功する。
 しかしイリヤが自力で洗脳を解いた事で、彼を確保しようとしていたCIAの思惑を外された。その後もシカゴではドラッグ『エンジェルハート』の製法を入手しようとしたり、ニューヨークではビアンカを拉致しようとしたり、様々な形でビアンカの前に立ちふさがる敵となる。ドラッグ『エンジェルハート』の改良版を服用する事で、理性を失う事なく猫獣人のような姿に変身する。
 また過去にユリシーズと交際関係にあったらしく、現在彼に懸想されているビアンカに対して妬みと憎しみが入り混じった感情を抱いている。


□マクシミリアン4世
 現ローマ教皇にしてビアンカの実父。教皇になる前に本名はダンテ・ロメオ・カッサーニ。無限の霊力を供給するという『神の心臓(ゴッドハート)』の持ち主で、超腕利きの退魔師でもあった。その力を活かして世界中を退魔の旅で巡ったが、その途上で悪魔と人間のハーフであるユリシーズを引き取る事になる。
 後にアメリカでまだ下院議員に当選したてであったダイアンと出会い、一時恋仲となる。その時にビアンカが誕生する事になった。


*****


Case5:シカゴ
 シカゴ市長サミュエル・アートボルトから大統領府に調査依頼が届いた。それによると最近シカゴの街で異質なドラッグが流行し、それに伴ってギャング同士の抗争が激化し、一般人や街にまで被害が出始めているらしい。更にはギャングが人間離れした怪物の姿になって殺し合っているという情報もあった。
 抗争の裏にカバールが絡んでいる可能性を疑ったビアンカ達は早速シカゴの街へ飛ぶ。そこで市長の提案によってドラッグを流通させている容疑者のギャング組織に潜入する事を提案される。
 ギャング『ホットドッグス』に潜入したビアンカとイリヤは、超能力を見せる事で彼等に用心棒として採用される。一方マフィア『シカゴ・アウトフィット』に潜入したユリシーズは昔の伝手があり用心棒に収まった。
それぞれビアンカは元カレのヴィクターに再び襲われたり、ユリシーズは元カノであるマチルダと再会したりと意外な展開を見せつつ、彼等は潜入するうちにそれぞれの組織がシロであるという確信を抱く。
 そんな中彼等の前に凄まじい霊力を纏った聖戦士サディークが現れる。彼はカバールの悪魔に雇われているらしく、ユリシーズと互角の闘いを演じ、イリヤを圧倒してビアンカを連れ去ってしまう。
 果たしてドラッグを作り出し流行させた悪魔の正体は、アル・カポネの息子であるアル・フランシス・カポネであった。自らの人生を狂わせたギャング共に復讐する為に悪魔となってシカゴに舞い戻ってきたのだ。しかし彼に雇われていたサディークが突如反旗を翻す。最初から悪魔の居場所を突き止めて討ち滅ぼすのが目的だったのだ。
 正体を現した悪魔モラクスは強敵でサディークは追い詰められるが、そこにビアンカ救出のためにユリシーズとイリヤが駆けつける。3人は一時的に共闘し、見事モラクスを打倒するのであった。



☆サディーク・ビン・アブドゥルジャリール・アール=サウード
 秘密結社『ペルシア聖戦士団』の位階第2位に位置する天才戦士。実はサウジアラビア現国王の第六王子であり、れっきとしたサウジ王家の一員である。
 しかしその立場からは考えられないような粗暴で破天荒な性格の持ち主で、膨大な霊力と天賦の戦闘センスを発散させる場を求めて『ペルシア聖戦士団』に参加したという経緯を持つ。
 シカゴでドラッグの調査をするビアンカ達の前に現れ、ユリシーズとも互角の戦いを繰り広げた超人。その後ビアンカに興味を持ち、またシカゴでの事件において共闘したユリシーズ達の強さにも触発されて、半ば強引にビアンカの護衛として押しかける。
 その霊力を二振りの曲刀に纏わせた二刀流のスタイルで、身体能力や回復能力に優れる。また粗暴で戦闘狂な言動とは裏腹に理知的な一面も併せ持つ。密かにユリシーズをライバル視している。


□サミュエル・アーチボルト
 シカゴ市長。アフリカ系だが本人は能力主義であり、人種や属性を理由とした優遇措置を嫌っている。ギャングとも繋がりがあり、彼等を上手くコントロールして表社会に被害を及ぼさないようにしていた。しかしドラッグ『エンジェルハート』の流通に伴い『獣人』の姿が見られるようになり、カバールの関与を疑った彼は大統領府に調査を依頼した。


□ゴードン・キンケイド
 シカゴのギャング『ホットドッグス』のボス。2メートル近い巨漢のアフリカ系で、スキンヘッドに全身にタトゥーを施しているいかにもな風防。5件以上の殺人の前科があり非常に凶暴な犯罪者。ドラッグ『エンジェルハート』を服用しており、他の『獣人』よりも巨体の獣人に変身する。
 『ブラッド・ネイション』との抗争中に、敵方に現れたヴィクターの幻影の力で殺害された。

□ガービー
 『ホットドッグス』のサブリーダー。ギャングの中では理知的で落ち着いた性格。ドラッグの流通などを管理していた。同じくヴィクターに殺された。

□エンツォ・ボルドリーニ
 イタリア系アメリカ人で、マフィア『シカゴ・アウトフィット』のボス。ユリシーズとは過去に面識がある。彼の強さを知っており、用心棒として喜んで迎え入れる。ドラッグ『エンジェルハート』の出処を調べており、自身の情報をユリシーズに伝えて後事を任せた。


★『三面鬼神(ゲーリュオン)』モラクス
 シカゴのギャングたちの間にドラッグ『エンジェルハート』を流通させ、抗争の激化を煽り、彼等を自滅に追いやろうとした悪魔。その正体はアル・カポネの息子であるアルバート・フランシス・カポネ。
 アル・カポネの息子というだけでギャングやマフィア達に干渉され、自分の人生を滅茶苦茶にされた恨みを抱いており、悪魔となってシカゴに舞い戻った。
 その姿は車いすに座った人間の身体から3本の長い首が生え、それぞれに怪物じみた頭が付いているという物。3つの頭は完全な自我を持ち、それぞれが異なる能力を持っている。また再生能力もあり、どれか一つでも首が残っていれば何度でも再生する。倒すには3つの首をほぼ同時に切り落とす以外にない。
 カバールの中でもかなり強力な部類の悪魔で、サディーク1人では敵わず、ユリシーズ、イリヤと超人3人が共闘する事でようやく打倒する事が出来た。


*****


Case6:シアトル
 2人の白人警官によって黒人の容疑者が殺害される事件が起きた。白昼堂々と行われた一部始終に全米が人種差別反対運動に燃え上がる。この事件を切っ掛けに保守派の大統領であるダイアンが人種差別を助長していると連日槍玉に挙げられるようになる。
 デモや抗議はすぐに略奪や暴動に発展し、挙げ句に西海岸のシアトルに『自治区』が誕生してしまう。ビアンカ達はこの『自治区』誕生の裏にカバールや中国統一党が絡んでいる事を確信して、調査に赴く事になった。
 案の定『自治区』は無法状態となっており、事件の発端となった黒人男性の娘であるルイーザが自治区の代表として祭り上げられていた。しかしルイーザの元に潜入したアダムは彼女が自治区の解体を望んでいる事を知る。
 その他の有力者達は殆どが中級悪魔と化しており、裏にカバールの悪魔が存在する事を確信したビアンカ達は順調に中級悪魔や中国の工作員達を倒していき、遂にカバールをあぶり出す事に成功する。
 果たして悪魔の正体はワシントン州選出で自由党所属のイーモン・オルブライト上院議員であった。彼は『自治区』を利用してダイアンを糾弾し、彼女や国民党の支持を落とそうとしていたのだ。
 死闘の末に悪魔と化したオルブライトを打倒するビアンカ達。裏で暗躍していたメキシコの工作員も撃退した彼等は、ルイーザを大統領府で保護する事をダイアンに認めさせるのだった。


□ルイーザ・フロイト
 白人警官に殺され全国的な暴動の発端となったキース・フロイトの娘。スラッとした手足が特徴的な黒人女性。カバールや中国の思惑によってシアトルに出来た『自治区』の代表に祭り上げられる。
 しかし彼女自身はこの『自治区』が成功するとは最初から思っておらず、『自治区』をあえて崩壊させる事で全国のデモや暴動を鎮火させようと考えていた。
 『自治区』に潜入してきたアダムと偶然知り合い、彼のことを気に入る。護身用にキックボクシングを習得しておりかなりの腕前。悪魔に操られた際にはビアンカとも互角の闘いを演じた。
 その後はビアンカ達の意向で大統領府に保護され、現在はアルマンの元で助手として働いている。アダムに対して好意以上の感情を抱いている節がある。


★『悪意の増幅器(アンプリファイア)』ガープ
 シアトルの『自治区』樹立を裏で支援していた悪魔。その正体はワシントン州選出の上院議員イーモン・オルブライト。ダイアンや国民党を追い落とす為に『自治区』を利用しようとしていた。
 その姿は『多数の浮遊する四面体で構成された人型』。四面体は微細に振動したり互いに位置を入れ替えたりして常に動いている。
 その身体を構成する四面体は光を反射する性質があり、アダムの粒子ビームも跳ね返した。また四面体は砕かれても何度でも構成し直せる。四面体の一部を飛ばして即席の爆弾にしたり、武器を搭載したドローンのような運用もできる。
 その能力でアダムを追い詰めるが、そこにサディークが加勢に現れ、2人の連携の前に敗れ去った。

■ダニー・フロイト
 キースの弟でルイーザの叔父に当たる。『自治区』の自警団を率いて実権を握っていた。しかし実際にはオルブライトに操られる眷属に過ぎなかった。その正体は中級悪魔アラボラス。多数の触手を備えた巨大な肉塊といった醜い姿。触手を振り回したり、強酸を吐く能力を持つ。また再生能力も高いが、アダムの殲滅砲弾で粉砕された。

■マーティン・J・リームス
 『自治区』の西側を牛耳ってた『フロイト教』の教祖。事件の発端となったキース・フロイトを聖人に見立てて新興宗教を組織していた。しかし他の宗教の人間までフロイト教への『改宗』を強要しトラブルを引き起こしていた。
 その正体は中級悪魔ヴァンゲルフ。イスラム教のコミュニティを弾圧しようとして、サディークに返り討ちにされた。

■李志勇
 『自治区』の東側を取り仕切っていた中国人。シアトルのチャイナタウンに伝手があり、食料の『輸入』を取り仕切っていた。その関係で大きな発言権を持つ。
 しかし実際にはその正体は中国統一党の工作員で、『紅孩児』に所属する中仙であった。『羅号』という熊の仙獣を使役する。自治区を調査するビアンカ達を襲うが、護衛していたリキョウに返り討ちにされた。


■ペドロ・アルバレス
 自治区に潜入したビアンカ達に声をかけて、自治区の情報を教えてくれた酔っ払い。若いラテン系の男。だがその正体はメキシコ軍の特殊作戦部隊『ウィツロポチトリ』の一員であり、大統領府とカバールの共倒れを狙って暗躍していた。
 シェイプシフターと呼ばれる、様々に動物に変身できる能力の持ち主。このペドロは『ウィツロポチトリ』の他のシェイプシフターより優れているらしく、かつてロサンゼルスの街を恐怖に陥れた殺人鬼『ルーガルー』に変身する事が出来る。『ルーガルー』の力は強く、リキョウやアダムとも互角の戦いを演じた。
 ペドロの口ぶりから『ウィツロポチトリ』には他にも何人か彼と同等クラスの力を持った強力なシェイプシフターが存在しているらしく、警戒が必要である。

■アレハンドロ・サラザール
 現メキシコ大統領。若くしてその地位に登り詰めた野心家で、マフィア出身とも言われる危険な人物。ペドロを始めとした『ウィツロポチトリ』のシェイプシフター達を従えており、アメリカに対しても度々破壊工作を仕掛けてきている。


*****


Case7:ニューヨーク
 連邦最高裁判事の1人が危篤状態となり、それに伴って空席となったその座を巡って大統領とカバールの間で熾烈なパワーゲームが発生した。ダイアンの押す判事候補であるカリーナはニューヨーク州の検事総長であり、彼女をカバールの魔の手から護衛する為にビアンカ達はフルメンバーでニューヨークへと飛ぶ。今回は大統領の公務に合わせている為ダイアン自身も同行していた。
 ニューヨークでは3手に分かれて、ビアンカの『天使の心臓』を利用して敵の戦力を分散しつつ、カリーナを警護する作戦となった。その甲斐あって襲ってきた中級悪魔を順調に撃破していくビアンカ達。
 しかしその裏で、カバールだけでなく中国やロシア、果てはメキシコやCIAまでが『天使の心臓』を狙って動き出していた。それらの敵に一斉に襲われ、各所で死闘を繰り広げるビアンカ達。
 激闘の末に各国の工作員達を撃退し、またカリーナを狙う悪魔ダンタリオンも撃ち破る事に成功したビアンカ達は、無事にカリーナの最高裁判事任命式を迎える事が出来たのであった。
 またその式でビアンカはダイアンより改めてカバールとの戦いを継続するかどうかの意思を問われるが、既に彼女の心は決まっており、ビアンカはカバールを殲滅し自由を取り戻す決意を新たにするのであった。


□カリーナ・アンゲラ・シュルツ
 ニューヨーク州南地区の検事総長。ダイアンの学友でもあり国民党の支持者。愛国心が強く、ダイアンによって最高裁判事の候補に指名される。
 典型的なキャリアウーマンで自他共に厳しい性格をしているが、唯一少年に対しては甘くなるという性質がある。特に紅顔の美少年が好みであり、イリヤは彼女の理想的な容姿をしていた。その為イリヤに対して溺愛とも言える態度で接するようになり、しかしそれが悪魔の入れ替わりを見破る切っ掛けともなった。
 リキョウとイリヤの働きによって悪魔から守られ、無事に最高裁判事に任命された。


★『凍寒の暴君(フロストタイラント)』ダンタリオン
 カリーナの最高裁判事就任を阻止すべく彼女の抹殺を目論んだ悪魔。その正体はニューヨーク・ヤンキースのスーパースラッガーにして『ブロンクスの英雄』カーティス・ホーガン。
 その姿は3メートル近い巨体の4本腕が生えた白いビッグフットとでも形容すべき物で、しかし穏やかなイメージのビッグフットと異なり、牙の生え並んだ凶悪な面貌をしている。その見た目通りの怪力に4本腕を駆使した攻撃能力、更には冷気を自在に操り周囲の大気を瞬時に凍結させたり、広範囲の霜のブレスを吐く能力も持つ。
 元から粗暴で短絡的な性格であったが、それは悪魔となっても引き継がれていた。ビアンカ達の作戦に乗せられてまんまと戦力を分散したり、リキョウの挑発に激昂して冷静さを失ったりと、悪魔としては強力な存在であったが、その能力を活かしきれていなかった印象が強い。
 最後にはリキョウの禁じ手である仙獣3体同時召喚によって敗れ去った。

■ウリノーム
 ダンタリオンの命令でビアンカを襲った中級悪魔。蝙蝠人間といった外見をしており、飛翔能力を活かした空中機動と、相手の鼓膜を破る超音波攻撃を得意とする。ユリシーズによって倒された。

■セパル
 ダンタリオンの命令でビアンカを襲った中級悪魔。堂々たる体躯の蜥蜴人間といった外見で、巨大な戦斧を二刀流で携えての接近戦を得意とする。また斧に炎を纏わせてそれを放散したりも出来る。サディークによって倒された。

■ジートル
 ダンタリオンの命令で公務中のダイアンを襲った中級悪魔。貧弱な身体に異様に大きな頭と黒目で、まるで『リトルグレイ』のような外見。その見た目通り直接的な戦闘能力は皆無だが、その代わりに透明になる能力と外界から隔絶された亜空間に対象を閉じ込める能力を持つ。
 そこに下級悪魔達を呼び寄せてダイアンを襲わせるが、アダムに見破られて下級悪魔ごと倒された。

■タブラブルグ
 ダンタリオンの命令でカリーナを襲った中級悪魔。対象に選んだ人間と瓜二つの姿に変身する能力を持ち、記憶までもコピー出来るため見破る事は困難。また対象が女性であっても変身できるが、一度変身した後は別の人間には変身できなくなる。
 しかしイリヤを偏愛するカリーナの咄嗟の反応を模倣できずに、リキョウに正体を見破られた。その真の姿は目も耳も鼻もない、大きく裂けた口だけがある顔が特徴の人型の悪魔。炎や電撃などビブロスの上位互換のような力を持つが、リキョウには敵わず滅ぼされた。

■ドゥクブス
 ダンタリオンの命令でカリーナを襲った中級悪魔。長く巨大な4本腕を脚代わりに、胴体からは多数の頭が生えているという異様な姿の悪魔。知能は低く、もしかすると中級悪魔ではなく後述の魔獣であった可能性もある。
 その巨体による腕の振り回しだけでも充分脅威だが、上に付いている頭の口から冷気を吐き出す能力も持つ。更にその巨体を活かした突進攻撃も行ってくる。イリヤの超能力によって倒された。

■ラージャ
 ダンタリオンがセントラルパークでの決戦時に切り札として投入した、カマキリとムカデが合体したような巨体の魔獣。魔獣とは魔界に住まう野生動物の総称で、種族によっては中級悪魔も上回る戦闘能力を持つ。このラージャはまさにその典型で、巨大な両手の鎌による斬撃や、極めて硬い甲殻、そして口からは溶解液を吐きつける能力も持ち、その強さは上級悪魔に匹敵する程。
 カリーナを狙って現れ、それを護衛するイリヤと激闘の末に打倒された。


□タブラブルグ
 フレッシュキルズパークでの決戦時に、敵の仙獣に狙われたビアンカを守る為にユリシーズが投入した中級悪魔。ユリシーズもまた『カルマ』を消費する事によって悪魔を眷属とする能力を持っていたのだ。
 タトゥーやピアスを施したヒスパニック系の若いギャング風女性の姿で現れた。どうやらニューヨークの街で『ビアンカと同年代の若い女性』という条件のみを優先して、最初に目についた女性をコピーしてしまったらしい。
 その能力はリキョウが倒したものと同じだが、ユリシーズ達が討ち漏らした敵からビアンカを護衛するには充分と思われる。



◆◇◆◇◆◇



 以上これまでビアンカが加わって以来、激化してきたカバールとの戦いの記録をまとめてきた。こうしてまとめると一目瞭然で、今まで正体が分からない故に手を出しあぐねていた悪魔達を炙り出せるようになった事で、カバールとの戦いは激化したものの、間違いなく進展(・・)もしていた。

 やはり『天使の心臓』たるビアンカがこの戦いに参加した事の意義は大きい。それを再確認できた。彼女の決断に心よりの敬意を表すると共に、私も出来うる範囲で彼女の戦いをサポートしていこうという決意を新たにできた。

 またカバールだけでなく、中国やロシア、更にはメキシコまで潜在的な敵性国家の工作員たちも絡んでくるようになり、様相は増々複雑怪奇を呈し始めている。

 それに今回レポートにまとめたのはあくまで私が知り得た範囲の事柄であり、恐らくは各事件にも様々な裏の事情や暗躍する者が存在すると思われ、今後も予断を許さない状況であると言える。

 しかし私は確信している。ビアンカの加入は私達にとって天啓であったのだと。彼女は、そして彼女を護衛する頼もしい守護者達は、必ずやカバールを討滅しこの国に真の自由を取り戻してくれるだろうと。

 私は私に出来る事を全力で行い、少しでも彼女達の勝利に貢献していくつもりだ。これから奴らとの戦いは増々激しさを増していくものと思われるが、その先にある光を信じてこれからも彼等の戦いの記録をまとめていこうと思う。
                      アメリカ議会図書館館長アルマン・J・ヴィーゲルト
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