Episode12:怒りの殲滅砲弾

文字数 3,059文字


「むぐっ!?」

 突然後ろからビアンカの呻き声が聞こえて、アダムは驚いて振り返った。そこには精神を操られているらしいアディソン市長が、ビアンカを後ろから抱きすくめてその鼻と口にハンカチを押し当てている姿があった。ビアンカは必死にもがいているが、アディソンは操られているせいか人間離れした怪力を発揮して彼女を捕えているようだった。

「ビアンカ……!?」

 咄嗟に駆け寄ろうとするアダムだが、そこに後ろから強烈な殺気と魔力が膨れ上がる。

「ち……!」

 アダムが咄嗟に横っ飛びに躱すのと、彼のいた地点に小規模な落雷(・・)が降り注ぐのはほぼ同時であった。


『ファハハ……二度続ケテ()ニ掛カルトハ愚カナ奴等ヨ』


「……!」

 へモスの哄笑。どうやら今の落雷はこいつの仕業らしい。更に立て続けに落雷が彼を襲い、アダムはそれを躱す為にビアンカ達から離れざるを得なかった。その間に何かの薬品で完全に意識を失ったビアンカは、目を閉じてぐったりと脱力してアディソンに身を預けていた。

 当然前回のような罠はアダム達も警戒していた。しかし敵はそれも見越して更にこちらの意表を突く罠を仕掛けてきたのだ。即ち容疑者(・・・)からは完全に除外されていたアディソン市長を囮に使うという巧妙な罠を。

 こちらがアディソンを除外するだろうという事も読んで罠を仕掛けてきたのだとしたら、このボルチモアに潜むカバールの構成員は相当に頭の回る男だ。いや、或いはその男と契約した上級悪魔が、だろうか。いずれにせよ今の状況ではどちらでも大差はない。

「……!」

 ビアンカ達の周囲にいくつもの影が上空から降り立つ。ビブロス達だ。2体のビブロスが意識を失ったビアンカと操られているアディソンをそれぞれ抱え上げると、上空に飛び去って行ってしまった。そしてすぐに透明になって見えなくなってしまう。


「ビアンカ!! ぬぅぅぅっ……!!」

 アダムは歯噛みした。すぐに熱源探知モードを作動させて、遠ざかるビブロスを光線銃で狙撃しようとするが……

「……っ!」
 
 その彼の頭上に再び極小規模の雷雲が発生して、落雷が降り注ぐ。アダムは狙撃を中断して回避せざるを得ない。何度か同様の攻防を繰り返すうちに、ビアンカ達は熱源探知モードの範囲外に消え去ってしまった。

(おのれ……!)

 アダムは呻吟した。むざむざビアンカを連れ去られてしまった。痛恨のミスだ。


『案ズル事ハナイ。貴様ハココデ死ヌノダカラナ!』

 へモスの哄笑と共に周囲に潜んでいたらしい多数の下級悪魔達が出現する。ビブロスとゾンビのような姿の悪魔アパンダの2種類だ。ただし数が多く、全部で20体近くいる。

『死ネ! 大統領ノ犬メッ!』

 へモスの叫びを合図として下級悪魔達が一斉に襲い掛かってくる。だが所詮は下級悪魔。数で攻めてきた所で彼の敵ではない。アダムは冷静に斬り掛かってきたビブロスの斬撃を避けて、カウンターでブレードを一閃。ビブロスの首を刎ね飛ばした。

「……!」

 だがそこに再び頭上から落雷。アダムは咄嗟に落雷を躱すものの、その隙を突くようにアパンダの一体が腐乱した鉤爪で彼の身体を引っ掻く。アパンダの爪や牙には毒があり、その攻撃を喰らうと猛毒に侵される。だが幸い彼は体内にある解毒機構であらゆる毒を分析・中和できる機能があるので毒は効かない。

 しかし不浄の爪で引っ掻かれた事に変わりはない。アダムは不快気に眉を顰めてそのアパンダの首を斬り落とした。そこにまた頭上から落雷が降り注ぐ。どうやら下級悪魔どもを足止めに使って落雷でこちらを仕留める戦術のようだ。

「ちぃ……!」

 雑魚悪魔どもの数が多いのでこいつらをまともに相手にしていたら、遠からず落雷をまともに受ける事になりそうだ。体内に様々な機械や装置が埋め込まれている身としては、この落雷を受けたらどうなるか余り想像したくなかった。一応電圧耐久試験は通過済みだが、好んで試したいとは思わない。

 雑魚悪魔どもを相手にしていたらマズいと言うのであれば、こいつらを無視してへモスを狙うしかない。落雷を避けつつ、雑魚悪魔の群れを突っ切る方法は……


 アパンダが背後から襲い掛かってくる。アダムはその攻撃を避けつつブレードでその腹を突き刺し貫通させる。そして……そのまま、まるで()のように自らの頭上へとアパンダの身体を掲げた!


『何……!?』

 へモスが声を上げる。そして落雷を仕掛けてくるが、雷はアパンダの身体によって遮断された。その一撃でアパンダは黒焦げになって消滅したが、少なくとも一回は落雷攻撃を防げる事が解った。

 アダムは殺到してくる悪魔達の攻撃を躱しつつ、今度はビブロスの腹にブレードを突き刺して頭上に持ち上げた。

「ぬぅぅぅぅぅぅっ!!」

 そして左腕の光線銃を乱射して悪魔達を牽制しつつ、へモスに向かって一気に突進する。その進路上に再び落雷が降り注ぐ。だがビブロスの『傘』によってそれを防ぐ。『傘』は消滅したが、その時にはアダムもまた下級悪魔達の囲いをようやく突破できた。


『オォ……オノレェェェッ!!』

「……!」

 囲いを突破されて焦ったへモスがそれまでとは異なる行動を取る。貝殻の口から生えている大量の触手が蠢き持ち上がる。するとその触手群の間で放電現象のような物が発生した。

 本能的に危険を感じたアダムが咄嗟に横に逸れて躱すのと、その空間をへモスの触手から発射された極太の電光が貫くのはほぼ同時であった。

 アダムが躱した事によってへモスの電撃は、追い縋ってきていた下級悪魔達の群れに激突。その殆どを黒焦げの感電死体に変えて消滅させてしまった。凄まじい威力だ。当たっていたらアダムもただでは済まなかっただろう。

 だが威力が強い分隙も大きいらしく、すぐには次の電撃を放てないようだ。そしてへモスはその見た目通り素早い移動などは出来ないらしい。


『ヒィィィッ!? ク、来ルナァァァッ!』

「安心しろ。近付きはしない」

 アダムがそう言うと、彼の右胸(・・)を突き破るようにして口径の大きい筒状の機関が出現した。彼の左腕の光線銃よりも明らかに口径が大きく、それは一種の砲塔(・・)のようにも見え……


「『爆裂殲滅砲弾(デストロイ・ランチャー)』……発射」


 合図と同時に、彼の右胸の大砲から光の球(・・・)のような物が発射された。それは緩い下方向の放物線を描きながら飛行してへモスに着弾。

『オゴワガァァァァッ!!!』

 奴の硬そうな貝殻ごと、木端微塵に爆殺した!

 へモスの身体が爆散し、そして即座に消滅していく。それによって残っていた下級悪魔達も逃げ散っていった。それを確認してアダムは右胸の大砲を収納した。


 どうにかこの場の戦いには勝利を収めた。だがそれは何の解決にもなっていなかった。すぐにでも連れ去られたビアンカの行方を追わなければならない。そこに恐らく今回の事件の『犯人』もいるはずだ。

 アダムは即座に内部機構である追跡装置(・・・・)をオンにした。この街に赴く前にビアンカの血液を採取させてもらい、その遺伝子情報を解析して生体電磁波の波長を登録してあった。これによって彼女がどんな離れた場所にいても、生きてさえいれば(・・・・・・・・)その居場所を特定できるようになっていた。因みに勿論、ビアンカ本人の了承は得ている。

「…………」

 追跡装置の情報を解析する。それによるとビアンカ(を連れ去ったビブロス)は、とある場所(・・・・・)に向かって移動しているようだ。そこに黒幕たるカバールの構成員が待ち構えているのだろう。

 ならば彼に躊躇いは無かった。即座に追跡を開始するべく、アダムは早々にリーキン・パークを後にするのだった。
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