Episode1:呪われた都
文字数 4,960文字
アメリカ合衆国の首都ワシントンDC。ここはアメリカの政治の中枢とでもいうべき街であり、様々な政府機関の本部が軒を連ねている。中でも世界的に有名なのはやはり大統領官邸、通称ホワイトハウスであろう。
アメリカの政治を動かす大統領の住居にして執務庁舎でもあるこの建物には、大統領を始め数多くの人間が昼夜を問わず公務に勤しんでいる。しかしこの誰もが知る輝かしい表のホワイトハウスとは別に、裏 のホワイトハウスが存在している事はあまり知られていない。
ホワイトハウスには有事に備えて、政府要人が避難して行政機能を継続できるように特別に誂えられた広大な地下シェルターが存在している。分厚い岩盤と隔壁によって地上から秘匿されたこのシェルターには行政用の設備のみならず、要人の家族も含めた長期間の利用を想定して様々な居住用の設備も充実していた。
関係者からは『R ・H 』と呼称されるこの地下シェルターは、基本的に有事用の施設なので平時には施設の維持管理を行う最低限のスタッフしか存在しない。
だが……ここ1年ほどの間で、この居住設備を備えた地下シェルターに何人かの住人 が『入居』している事を知る者は少ない。
そんな『RH』の中にあるブリーフィングルームの1つ。現在この部屋には、その最近になってRHに入居した住人達が集っていた。
「全員揃っているな? お前達に調査してもらいたい新しい案件がある」
彼等を前に口火を切るのは、大統領首席補佐官のビル・レイナーだ。普段は表の仕事 で多忙な大統領に代わって裏の仕事 の調整も担当している。
「新しい案件、ですか。場所はどこですか?」
レイナーに確認するのは、一同の中心にいるこの場で唯一の女性……ビアンカである。1年ほど前にこの『RH』の住人となった。
「場所は……西海岸カリフォルニア州のロサンゼルス だ」
「……! ロサンゼルス……!」
ビアンカは目を瞠った。ロサンゼルス、通称LAは前回の任務で訪れたニューヨークと並ぶこのアメリカを代表する世界都市であり、様々な文化・芸術の発祥地としても名高かった。特にアメリカ映画産業を代表するハリウッドについては説明するまでもないだろう。
無論それだけでなく擁する人口もニューヨークに次いで全米第2位の規模を誇り、多くの大企業が本社を置く経済産業の一大集積地でもあった。
また都市としての人口はニューヨークに一歩譲るものの、ロサンゼルスが所属するカリフォルニア州は全米50州の中で最大の州であり、カリフォルニア州全体は政治的経済的にも極めて重要な州であった。
「ふん、LAね……。以前に一度だけ行った事はあるが、まあニューヨークに比べて全体的に陽気な街だな。そこでカバールの悪魔共がまた何かやってるのか?」
皮肉気に口の端を歪めて問うのは、黒いスーツ姿の特殊SPユリシーズだ。悪魔と人間のハーフである半魔人であり、人間離れした身体能力に加えて様々な魔界の魔術を行使できる。
「いや、今回は特に奴等が関与しているという訳ではない。だが放っておけば 奴等の関与による被害を許すかもしれん」
「ん? どういう事だ?」
彼が訝し気に眉を上げると、レイナーは少し苦い表情になる。
「……ここ数年LAでは人間ではない、様々な人外による 超常犯罪が多発している」
「……!」
超常犯罪と聞いてビアンカの脳裏に真っ先に思い浮かぶのは、やはりカバールの悪魔達だ。奴等が全国で引き起こす事件を調査・解決すべくビアンカは全国を飛び回っているのだ。その際には巧妙に人間社会に潜伏する悪魔達を炙り出す『天使の心臓』が非常に役立つ。
「様々な人外? それはカバールの連中とは異なるという事か?」
体内に様々なオーパーツ兵器を内蔵するサイボーグ軍人であるアダムが、ビアンカと同じ事を思ったらしく確認する。
「そうだ。超常の力を振るうのは悪魔に限った話ではない。それはお前達自身が体現している事だろう? そしてお前達が今まで戦ってきた連中も悪魔だけではあるまい?」
「ふむ、そう言われれば確かにそうですね。ではLAでそうした超常の力を持った存在が暴れているという事でしょうか? それは確かに由々しき事態ではあるでしょうが、我々が赴くほどの案件なのでしょうか? 確かFBIにも超常犯罪を捜査する非公式の部署があったはずですが?」
そう言ってレイナーに疑問を投げかけるのは、中国の神仙であるリキョウだ。言葉通り自身も仙獣を使役して超常の力を操る事が出来る。
「先程私は多発 していると言った。お前達も『サッカー』という殺人鬼の事件は知っているだろう?」
「ああ、確か数年前にLAを騒がせてた事件のはずだな。その時はまだアーミテイジ大統領の時だったから俺も詳しくは知らんが」
ユリシーズが頷く。ビアンカもニュースで見る程度の情報なら知っていた。その時は彼女もまたフィラデルフィアで暮らしていた。
「……あの事件は吸血鬼 が引き起こしたものだという事が解っている」
「……! 吸血鬼だぁ? まあそういう存在がいても不思議じゃねぇだろうがよ」
眉根を寄せて発言するのはイスラムの聖戦士サディークだ。粗暴な言動だが実はサウジアラビアの王族でもある。それにしても『サッカー』が吸血鬼とは。レイナーが冗談を言うはずが無いので事実なのだろうが。
常日頃悪魔から命を狙われるビアンカではあるが、物語の中にしか存在しないはずの吸血鬼という物が実際にいるとは俄かには信じられなかった。
「だが事はそれだけでは終わらなかった。それから間を置かずLAには人狼、半魚人、鳥の神獣 、ミイラ男、ランプの精霊、そして遂には異星人までが立て続けに現れて人々を殺戮し、街を恐怖に陥れてきたのだ」
「な…………」
ビアンカは絶句してしまう。いや、それはユリシーズ達でさえも同様であった。それだけ聞くと荒唐無稽以外の何物でもないが、先程と同じでレイナーがこんな事でビアンカ達を謀るはずが無いので、それは事実という事になる。だがそれは余りにも……
「なんというか……それはまあ、随分運が悪い事だな」
ユリシーズが半ば呆れたような口調で感想を漏らす。若干不謹慎ではあるが、それはビアンカを含めてこの場にいる全員の内心でもあっただろう。
「……まだ続きがある。更には丁度お前達のニューヨークでの任務と時期が重なるが、LAで大規模な『悪魔禍 』の発生を確認している。それもカバールとは無関係 の『悪魔禍』だ」
「……!!」
今度こそユリシーズ達の表情が引き締められる。立て続けに異なる怪物達の被害に見舞われただけでも災難だというのに、更には悪魔まで現れていたとは。それもカバールとは無関係の悪魔だというから驚きだ。その悪魔も『天使の心臓』があれば興味を示したのだろうか。
「ふむ、それは確かに……LAは呪われているようにしか思えませんね」
リキョウも納得したように唸る。
「そうだ。比喩ではなくLAは呪われている。それがDIA及び大統領府の結論だ。そして……呪いには必ず元となる物 が存在しているはずだ」
「なるほど、呪いには触媒 が必要になる。その触媒がLAにあって、そいつが街に災いを呼び寄せ続けてるって事か」
魔術に詳しいユリシーズが確認するとレイナーは首肯した。
「我々はそのように睨んでいる。よって今回お前達の任務は、そのLAに災いをもたらしている呪いの元を調査特定し、それを排除 する事だ」
「……!」
確かに今までとは若干趣が異なる任務だ。LAはアメリカにおいて重要な都市であり、そのような怪物の脅威に曝され続けている事によってアメリカ全体の経済にも影響を及ぼしかねない。何より常に悪魔に脅かされ続けているビアンカとしても他人事とは思えず、出来るならその呪いの元を排除して、LAの人々を怪物の脅威から解放 してあげたかった。
「ふん、LAねぇ。そういやアイツ が行ってるはずだが、その呪いと何か関係があんのかね?」
サディークが眉を上げて呟く。どうやら誰か知人がLAにいるらしい。そういえば以前に任務途上の飛行機の中でそのような事を言っていた記憶があった。サウジ王族の彼と知り合いとは。いや、或いは『ペルシア聖戦士団』の関係だろうか。
「任務の内容は解ったが、今回は誰がLAに行くんだ? 大統領の警護の関係上、全員で行く事は出来ないが」
アダムが質問すると、今まで一言も喋らずにビアンカにくっつくようにして座っていたロシア人の美少年超能力者イリヤが、絶対に彼女から離れないぞという意思表示かビアンカの腰に手を回して抱き着いてきた。こう見えて狂暴な魔獣も倒した恐ろしい超能力の遣い手だ。
「……!!」
子供であるが故に無防備にビアンカに密着するイリヤを見て、レイナーを除く男達の視線が剣呑な光を帯びる。だがイリヤは彼等を挑発するように舌を出して、増々強くビアンカに抱き着く。男達が更に色めき立ちそうになるが……
「オホン! そういうのは私が帰った後にしてもらえるか? それで今回のメンバーだが……呪いの触媒がどのようなものかも分かっておらず、またLAはアメリカ屈指の広大な都市である事も鑑みて、ニューヨークの時と同じくお前達全員 で事に当たってもらいたい。現地に着いた後どのように行動するかは各々の判断に任せるが」
大きく咳払いして場の空気を強引に戻したレイナーが告げた内容に、アダムが目を見開く。
「それでは大統領の警護が疎かになるが構わないのか? カバールがいつ何時彼女に対して強硬手段 に出るか解らんというのに」
アダムの懸念も尤もだ。実際にニューヨークではかなり危うい場面もあった。やはり通常のSPだけでなく、悪魔の襲撃にも抗し得る存在がいなければ少々不安だ。するとレイナーではなく何故かユリシーズが頭を掻いた。
「あー……そういや内々で決まっただけで、まだ正式には伝えてなかったな。大統領の警護の件なら、とりあえずあまり長期間空けなけりゃ大丈夫だ」
「というと?」
リキョウが目線で促す。ユリシーズは肩を竦めた。
「あの俺が召喚した タブラブルグだよ。あいつをSP扱いにしてボスの警護に当たらせる事になった。何せ悪魔だからその気になれば食事も睡眠も排泄も必要ないからな。ある意味護衛としちゃこんな使い勝手のいい存在も無い」
ダイアン自身からそう提案されたらしい。今後カバールとの抗争が激化する中で、ビアンカ達も何かと流動的に動かねばならないケースも増えてくると見越して、大統領の護衛に必ず1人は拘束されるという状態を避けたかったのだとか。
「ほぅ、あの悪魔ですか。ニューヨークで私が倒したものと同じ種類だそうですね。少々頼りないですが、まあ雑魚の露払いくらいなら問題ありませんか」
リキョウが鼻を鳴らす。自分があっさり倒したという事もあっての感想だろうが、彼だから倒せたのであって通常のSPより遥かに頼りになるのは間違いないだろう。ユリシーズが挙げたようなメリットもある。主人たる彼の命令があれば赤の他人でもきちんと護衛するというのもビアンカで実証済みだ。
「……とりあえず護衛の件は大丈夫という事だな? なら早速遠出 の準備に取り掛かるべきだな」
アダムが腕組みして提案する。LAはこのDCからは遠い。確かに多少の準備は必要になるだろう。それにビアンカとしてはそれだけでなく、任務に着く前にアルマンにも用事があった。
こうしてビアンカ達の次なる任務が決まった。西の大都市ロサンゼルスにて、街に災いをもたらす呪いの元を特定し排除 する事。
ニューヨークでの任務に続けて全員参加の大規模なミッションだ。ビアンカは先日母親に決意を表明しただけあって、新たな任務に意欲と使命感を燃やすのだった。
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※LAでの事件に関しては同作者の『女刑事と吸血鬼 ~妖闘地帯LA』のストーリーとなっています。宜しければそちらも是非読んでみて下さい。
https://novel.daysneo.com/works/0fb0ec7ec7cfe7584341e72efb32bbae.html
アメリカの政治を動かす大統領の住居にして執務庁舎でもあるこの建物には、大統領を始め数多くの人間が昼夜を問わず公務に勤しんでいる。しかしこの誰もが知る輝かしい表のホワイトハウスとは別に、
ホワイトハウスには有事に備えて、政府要人が避難して行政機能を継続できるように特別に誂えられた広大な地下シェルターが存在している。分厚い岩盤と隔壁によって地上から秘匿されたこのシェルターには行政用の設備のみならず、要人の家族も含めた長期間の利用を想定して様々な居住用の設備も充実していた。
関係者からは『
だが……ここ1年ほどの間で、この居住設備を備えた地下シェルターに何人かの
そんな『RH』の中にあるブリーフィングルームの1つ。現在この部屋には、その最近になってRHに入居した住人達が集っていた。
「全員揃っているな? お前達に調査してもらいたい新しい案件がある」
彼等を前に口火を切るのは、大統領首席補佐官のビル・レイナーだ。普段は
「新しい案件、ですか。場所はどこですか?」
レイナーに確認するのは、一同の中心にいるこの場で唯一の女性……ビアンカである。1年ほど前にこの『RH』の住人となった。
「場所は……西海岸カリフォルニア州の
「……! ロサンゼルス……!」
ビアンカは目を瞠った。ロサンゼルス、通称LAは前回の任務で訪れたニューヨークと並ぶこのアメリカを代表する世界都市であり、様々な文化・芸術の発祥地としても名高かった。特にアメリカ映画産業を代表するハリウッドについては説明するまでもないだろう。
無論それだけでなく擁する人口もニューヨークに次いで全米第2位の規模を誇り、多くの大企業が本社を置く経済産業の一大集積地でもあった。
また都市としての人口はニューヨークに一歩譲るものの、ロサンゼルスが所属するカリフォルニア州は全米50州の中で最大の州であり、カリフォルニア州全体は政治的経済的にも極めて重要な州であった。
「ふん、LAね……。以前に一度だけ行った事はあるが、まあニューヨークに比べて全体的に陽気な街だな。そこでカバールの悪魔共がまた何かやってるのか?」
皮肉気に口の端を歪めて問うのは、黒いスーツ姿の特殊SPユリシーズだ。悪魔と人間のハーフである半魔人であり、人間離れした身体能力に加えて様々な魔界の魔術を行使できる。
「いや、今回は特に奴等が関与しているという訳ではない。だが
「ん? どういう事だ?」
彼が訝し気に眉を上げると、レイナーは少し苦い表情になる。
「……ここ数年LAでは人間ではない、
「……!」
超常犯罪と聞いてビアンカの脳裏に真っ先に思い浮かぶのは、やはりカバールの悪魔達だ。奴等が全国で引き起こす事件を調査・解決すべくビアンカは全国を飛び回っているのだ。その際には巧妙に人間社会に潜伏する悪魔達を炙り出す『天使の心臓』が非常に役立つ。
「様々な人外? それはカバールの連中とは異なるという事か?」
体内に様々なオーパーツ兵器を内蔵するサイボーグ軍人であるアダムが、ビアンカと同じ事を思ったらしく確認する。
「そうだ。超常の力を振るうのは悪魔に限った話ではない。それはお前達自身が体現している事だろう? そしてお前達が今まで戦ってきた連中も悪魔だけではあるまい?」
「ふむ、そう言われれば確かにそうですね。ではLAでそうした超常の力を持った存在が暴れているという事でしょうか? それは確かに由々しき事態ではあるでしょうが、我々が赴くほどの案件なのでしょうか? 確かFBIにも超常犯罪を捜査する非公式の部署があったはずですが?」
そう言ってレイナーに疑問を投げかけるのは、中国の神仙であるリキョウだ。言葉通り自身も仙獣を使役して超常の力を操る事が出来る。
「先程私は
「ああ、確か数年前にLAを騒がせてた事件のはずだな。その時はまだアーミテイジ大統領の時だったから俺も詳しくは知らんが」
ユリシーズが頷く。ビアンカもニュースで見る程度の情報なら知っていた。その時は彼女もまたフィラデルフィアで暮らしていた。
「……あの事件は
「……! 吸血鬼だぁ? まあそういう存在がいても不思議じゃねぇだろうがよ」
眉根を寄せて発言するのはイスラムの聖戦士サディークだ。粗暴な言動だが実はサウジアラビアの王族でもある。それにしても『サッカー』が吸血鬼とは。レイナーが冗談を言うはずが無いので事実なのだろうが。
常日頃悪魔から命を狙われるビアンカではあるが、物語の中にしか存在しないはずの吸血鬼という物が実際にいるとは俄かには信じられなかった。
「だが事はそれだけでは終わらなかった。それから間を置かずLAには人狼、半魚人、
「な…………」
ビアンカは絶句してしまう。いや、それはユリシーズ達でさえも同様であった。それだけ聞くと荒唐無稽以外の何物でもないが、先程と同じでレイナーがこんな事でビアンカ達を謀るはずが無いので、それは事実という事になる。だがそれは余りにも……
「なんというか……それはまあ、随分運が悪い事だな」
ユリシーズが半ば呆れたような口調で感想を漏らす。若干不謹慎ではあるが、それはビアンカを含めてこの場にいる全員の内心でもあっただろう。
「……まだ続きがある。更には丁度お前達のニューヨークでの任務と時期が重なるが、LAで大規模な『
「……!!」
今度こそユリシーズ達の表情が引き締められる。立て続けに異なる怪物達の被害に見舞われただけでも災難だというのに、更には悪魔まで現れていたとは。それもカバールとは無関係の悪魔だというから驚きだ。その悪魔も『天使の心臓』があれば興味を示したのだろうか。
「ふむ、それは確かに……LAは呪われているようにしか思えませんね」
リキョウも納得したように唸る。
「そうだ。比喩ではなくLAは呪われている。それがDIA及び大統領府の結論だ。そして……呪いには必ず
「なるほど、呪いには
魔術に詳しいユリシーズが確認するとレイナーは首肯した。
「我々はそのように睨んでいる。よって今回お前達の任務は、そのLAに災いをもたらしている呪いの元を調査特定し、それを
「……!」
確かに今までとは若干趣が異なる任務だ。LAはアメリカにおいて重要な都市であり、そのような怪物の脅威に曝され続けている事によってアメリカ全体の経済にも影響を及ぼしかねない。何より常に悪魔に脅かされ続けているビアンカとしても他人事とは思えず、出来るならその呪いの元を排除して、LAの人々を怪物の脅威から
「ふん、LAねぇ。そういや
サディークが眉を上げて呟く。どうやら誰か知人がLAにいるらしい。そういえば以前に任務途上の飛行機の中でそのような事を言っていた記憶があった。サウジ王族の彼と知り合いとは。いや、或いは『ペルシア聖戦士団』の関係だろうか。
「任務の内容は解ったが、今回は誰がLAに行くんだ? 大統領の警護の関係上、全員で行く事は出来ないが」
アダムが質問すると、今まで一言も喋らずにビアンカにくっつくようにして座っていたロシア人の美少年超能力者イリヤが、絶対に彼女から離れないぞという意思表示かビアンカの腰に手を回して抱き着いてきた。こう見えて狂暴な魔獣も倒した恐ろしい超能力の遣い手だ。
「……!!」
子供であるが故に無防備にビアンカに密着するイリヤを見て、レイナーを除く男達の視線が剣呑な光を帯びる。だがイリヤは彼等を挑発するように舌を出して、増々強くビアンカに抱き着く。男達が更に色めき立ちそうになるが……
「オホン! そういうのは私が帰った後にしてもらえるか? それで今回のメンバーだが……呪いの触媒がどのようなものかも分かっておらず、またLAはアメリカ屈指の広大な都市である事も鑑みて、ニューヨークの時と同じくお前達
大きく咳払いして場の空気を強引に戻したレイナーが告げた内容に、アダムが目を見開く。
「それでは大統領の警護が疎かになるが構わないのか? カバールがいつ何時彼女に対して
アダムの懸念も尤もだ。実際にニューヨークではかなり危うい場面もあった。やはり通常のSPだけでなく、悪魔の襲撃にも抗し得る存在がいなければ少々不安だ。するとレイナーではなく何故かユリシーズが頭を掻いた。
「あー……そういや内々で決まっただけで、まだ正式には伝えてなかったな。大統領の警護の件なら、とりあえずあまり長期間空けなけりゃ大丈夫だ」
「というと?」
リキョウが目線で促す。ユリシーズは肩を竦めた。
「あの
ダイアン自身からそう提案されたらしい。今後カバールとの抗争が激化する中で、ビアンカ達も何かと流動的に動かねばならないケースも増えてくると見越して、大統領の護衛に必ず1人は拘束されるという状態を避けたかったのだとか。
「ほぅ、あの悪魔ですか。ニューヨークで私が倒したものと同じ種類だそうですね。少々頼りないですが、まあ雑魚の露払いくらいなら問題ありませんか」
リキョウが鼻を鳴らす。自分があっさり倒したという事もあっての感想だろうが、彼だから倒せたのであって通常のSPより遥かに頼りになるのは間違いないだろう。ユリシーズが挙げたようなメリットもある。主人たる彼の命令があれば赤の他人でもきちんと護衛するというのもビアンカで実証済みだ。
「……とりあえず護衛の件は大丈夫という事だな? なら早速
アダムが腕組みして提案する。LAはこのDCからは遠い。確かに多少の準備は必要になるだろう。それにビアンカとしてはそれだけでなく、任務に着く前にアルマンにも用事があった。
こうしてビアンカ達の次なる任務が決まった。西の大都市ロサンゼルスにて、街に災いをもたらす呪いの元を特定し
ニューヨークでの任務に続けて全員参加の大規模なミッションだ。ビアンカは先日母親に決意を表明しただけあって、新たな任務に意欲と使命感を燃やすのだった。
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※LAでの事件に関しては同作者の『女刑事と吸血鬼 ~妖闘地帯LA』のストーリーとなっています。宜しければそちらも是非読んでみて下さい。
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