Episode24:夢の終わり

文字数 3,314文字

 『悪意の増幅器(アンプリファイア)』ガープの放つ四面体が次々と光弾を発射してくる。一撃の威力はそこまで高くないが、それでも魔力を帯びたマシンガン掃射のようなもので、まともに喰らったら大ダメージは必至だ。

「おおりゃぁぁぁっ!!」

 だがサディークはその光弾掃射を、霊力を帯びた二振りの曲刀を目にも留まらぬ速さで振るって斬り払っていく。しかしその背後に別の四面体が迂回して迫る。その四面体はサディークに密着して爆発しようと突進するが、その間に大きな影が割り込む。

「ぬんっ!」

 ブレードを一閃して四面体を切り裂いたのはアダムだ。

「へ! 礼は言わねぇぜ!」

「最初から求めていない」

 既に2人はかなり多くの四面体を斬り裂いたり撃ち抜いたりして撃墜しているが、周囲を回る四面体の数は目に見えて減っている気がしない。


『ふぁはは、無駄だ。私の端末(・・)をいくら切り刻もうが私には何の痛痒も与えん。そして私は端末をいくらでも作り出せるぞ? このようにな!』

「……!」

 ガープの哄笑と共に、言葉通り奴の身体(・・)から更にいくつもの四面体が射出されて包囲に加わってきた。

「ち……ワラワラとキリがねぇな」

「恐らく奴の本体を叩かねば無意味だろうな。それは解っているが……」

 既に今までの攻防で何度も粒子ビームや霊空刃をガープにヒットさせているが、驚いた事に粒子ビームのみならず霊力の塊である霊空刃も奴の四面体に弾かれてしまったのである。

 彼等の持つ遠距離攻撃手段ではガープにダメージを与えられないらしい。だがこちらを攻撃してくる四面体を破壊する事は出来ている。つまり……

物理攻撃(・・・・)を当てなきゃならねぇって事だな」

「そうなるな。だがその弱点(・・)は奴も理解しているようだ」

 無論四面体の強度自体も相当なものだが、それでもアダムやサディークであれば直接攻撃で斬り裂く事が出来る。しかし彼等がガープの『本体』に近付こうとすると大量の四面体に妨害され、四方八方から攻撃されるのでその対処に追われてジリ貧状態になっているのだった。

 彼等が話している僅かな間にも周囲の四面体が次々と攻撃してくる。光弾を飛ばしたり突進して自爆攻撃を仕掛けてきたリ、中には強力なレーザーのような光線を撃ってくる四面体もいた。

 こいつらの攻撃を捌き続けるのは、超人たるアダム達であっても厳しい。しかし彼等が本体を攻撃しようとすると妨害される。ならば……

 アダムはチラッとサディークの振るう二振りの曲刀に視線を向けた。癪ではあるがガープに接近戦を挑む場合、サディークの方が相性は良さそうだと冷静に判断した。


「……おい。俺がこいつらを抑える。その間にお前が奴を斬れ」


 それが最も合理的な戦術だ。折角2人いるのだからその利点を活かさない手は無い。

「……! いいのかよ?」

 サディークもすぐにアダムの意図に気付いて眉を上げる。ここで彼が聞いているのは『美味しい所を持って行っていいのか』という意味だろう。最初からガープには勝てる前提で活躍(・・)の有無を気にするというのは、如何にもこの自信に満ち溢れた王族戦士に相応しいものではあった。

「ここではそれが最も合理的と判断したまでだ」

 だが職業軍人であるアダムはそのような虚栄心とは無縁であった。それで目の前の敵を倒して任務を達成できるなら喜んで裏方や礎に回る。サディークが口の端を微妙に下げた。

「ち……損な性格してんな、テメェ。まあいい。奴をぶっ倒す役目を譲ってくれるってんならありがたく頂くぜ」

 サディークも意識を切り替えて霊力を高めると、ガープに向けて一直線に突撃を敢行する。 


『馬鹿め! 無駄だ!』

 ガープが四面体群を操ってサディークを妨害しようとする。今まではこいつらに邪魔されて本体に近づけなかった。だが……

「ぬぅぅんっ!!」

 アダムが右腕のブレードを振り回す。するとブレードの刀身が切れた(・・・)。否、いくつもの分節に分かれたのだ。それぞれの刀身は細いワイヤーのような物で連結されている。アダムが右腕を振り回すと、ワイヤーで連結されたブレード群はまるで()のように撓って、文字通り縦横無尽に暴れ回る。

 鞭のようになった連接ブレードは、攻撃力は一本のブレードの時よりも落ちるらしく四面体を破壊する事は出来なかったが、その代わり圧倒的な攻撃範囲と速度で次々と周囲の四面体を斬りつけて牽制していく。

 一見無茶苦茶に振り回しているようで、サディークには当たらないようにその軌道は絶妙に調節されていた。

「はっ、やるじゃねぇか! こんな隠し玉を持ってるとはよ!」

 サディークが嬉しそうな様子になる。アダムの連接ブレードの攻撃範囲は相当な物で、ガープの操る四面体を一時的に全て足止めする事に成功した。当然その隙を逃さず一気に踏み込むサディーク。


「はっはーー!! 遂に捉えたぜ! 覚悟しやがれ、モノリス野郎が!」

『……屑どもが、調子に乗るな! 我が力を見せてやろう!』

 サディークを迎え撃つガープ。奴の身体を構成する四面体が光り輝くと、大量の光線を発射してきた。それだけでなく身体を構成している四面体が直接殴りかかって(・・・・・・)くる。

「……!」

 曲刀で光線を弾くサディークは、迫ってくるガープの異形に気づいて目を剥いた。奴の『腕』を構成している四面体が明滅している。本能的に危険を察知したサディークが大きく飛び退る。奴の『拳』が地面に接触すると凄まじい爆発を引き起こした。

 あの四面体の自爆攻撃を『殴る』という形で再現できるのだ。更にその爆風を割るようにして無数の光線が殺到する。 

「ぬぅ……!」

 サディークは再び霊刀でその光弾を斬り払うが、そこにガープの本体が追撃してきた。

 光弾を払った直後のサディークが躱せるタイミングではない。しかし敵の攻撃を躱して逃げてばかりではいつまで経っても敵を倒せない。アダムもいつまでも多数の四面体群を抑えてはおけないだろう。どのみち逃げるのは自分の性には合わない。

「っらぁぁぁぁぁっ!!!」

『……!!』

 サディークは回避を捨てて自身も強引に前に踏み込んでガープを迎え撃った。ガープは彼が逃げずに逆に前に出てきた事で驚いた気配があったが、今更止まる訳にも行かないのでそのまま踏み込んでくる。

 ガープが爆発する『拳』を撃ち込んでくる。サディークは受けに回る事無く、自らも霊力を限界まで練り上げると二振りの曲刀を交叉するようにして、真っ向からガープの『拳』目掛けて斬り込んだ。

 接触の瞬間、目も眩むような光の奔流が辺りを覆い尽くす。そして……

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

『何だと……!?』

 サディークの刀がガープの『拳』を押し込んで強引に切断した! 彼の膨大な霊力が爆発の威力を抑え込んでそのまま四面体を斬り裂いたのだ。

「くっっったばれやぁっ!!!」

 ガープの懐に入り込んだサディークは、二振りの曲刀を目にも留まらぬ速さで連続して斬りつける。恐らくは何らかの『コア』のような物が存在するのだろうが、その位置を探っているゆとりはない。ならば数打てば当たるの法則で、狙いも何もなくとにかく手数重視で所構わず斬りまくる。

 サディークの霊力と技量があって初めて可能な荒業だ。そして結果的にその戦術は功を奏した。


『馬鹿な……!! この私が……! 貴様らなぞにぃぃぃ……!!!』

 無数の斬撃のどれかが奴の『コア』にヒットしたらしく、ガープが怨嗟の断末魔を上げながら大量の魔力を放出して崩れ落ちていく。

「止めだぁっ!!」

 手応えを感じたサディークは刀を大きく振りかぶると、露出したガープの『コア』(ソフトボールくらいの大きさの浮遊する銀色の球体)目掛けて全力で振り下ろした。

『――――っ!!!』

 斬撃とそれが伴う霊力によってガープの『コア』が両断された。凄まじい光の爆発が起きる。その奔流が収まった時、そこにはガープの異形は影も形も無くなっていた。アダムが抑えていた大量の四面体も残らず消滅していた。同時に奴の魔力もその場から完全に消え去っていた。


 全米を揺るがせた人種差別暴動の発端を作り出し、この『ニューオリンピア自治区』を出現させた黒幕であるイーモン・オルブライト上院議員の最後であった。
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