第十部「鬼と悪魔の爪」第５話（第十部最終話）
文字数 9,667文字
昭和四一年。
婿養子として夫を迎えたばかりの一八才のフネは、母であるタネに離れの別邸に呼ばれていた。
同じく婿養子だった先代が亡くなり、隠居に入った先代の妻がこの別邸に住 っていたが、タネの母でもあるその先代の妻が亡くなったのは二年前。
それ以来この別邸は使われていない。
そして大谷城 家では、必ず婿養子を迎え入れて祝言を上げた直後に、ここで言い渡される事柄があるのが通例だった。
呼ばれるのは女だけ。
婿養子である男が呼ばれることはない。
夜────静かな夜だった。
風も無い。
障子を突き抜けた明るい月明かりだけに照らされた中、おもむろにタネが口を開く。
「これから…………大谷城 家の血を継ぐ者だけに伝えられる密儀 を伝えます…………これは決して、外に出してはならないものです…………そして、祝言の後にしか伝えることを許されてはおりません…………」
その重々しいタネの言葉に、フネは乾いた唾を大きく飲み込んだ。
「よろしいですね…………？」
タネはそう言って鋭い目を向ける。フネはその目から視線を外すことが出来ないままに応えるしかなかった。
「…………はい」
「……この家に…………男種 が無いことは周知のことかと思います…………産まれたとしても、一才まで生きることは出来ません…………そして、当然のことながら、産まれるかどうかも神様仏様しだい…………そして……あなたには、産まれないことを祈っているのです…………それがこの家に続く〝鬼神 の呪い〟です」
「…………？ 産まれないほうが……いいのですか？」
「ええ…………ただそうだとしても、これは次の世代へ伝えてもらわなければなりません…………男は一才まで生きられないと言いました…………しかし違います…………あなたがその命を絶つのです…………」
──…………？
──………………絶つ？
「生きられないのではありません…………あなたが殺すのです…………」
「…………そんな……」
「殺さなければ…………もっと恐ろしい〝呪い〟が降りかかります。この家は、女だけで繋いで行かなければなりません」
もちろん、フネは目の前の母がその仕来たりを破っていたことを知らない。タネも決して話せないことだと思いながらも、この時は正直迷っていた。
フネが最初に子供を産んだのは昭和四四年。
男の子だった。
そしてフネは、仕来たりに従う。
どうやって従うか、日に日に愛 おしさの増す我が子を見る度に、フネは気持ちを揺らした。
半年ほど経った頃。
──……まだ…………一年までは時間がある…………
しかし、これ以上は自分の気持ちに自信が持てなかった。
──…………この子を…………殺せるの…………？
お腹を痛めて産んだ我が子の寝顔を見る度に、フネはそんな感情を繰り返す。
──……殺せるはずがない…………
自然な感情だった。
──…………でも……………………殺さないと……………………
何かに突き動かされるように、おかしな感情が湧き上がる。
──…………誰？ 誰かがいる…………
自分の中に湧き上がってきたのは、別の誰か。
自分ではない。
別の誰か。
それが誰なのか分からないまま、フネは暗い部屋の中で、寝ている我が子の顔に自分の枕を被せる。
そして押さえ付けた。
小さな呻き声が枕に響く。
子供の手足が激しく動き始める。
引き返せなかった。
そのまま、フネは枕を押さえる手に力を込める。
やがて子供が動かなくなった頃、手の力を抜いた。
いつの間にか、フネの目から涙が零 れ落ちていた。
感情の行き場が分からない。
そして、涙が止まらない。
翌日、夜のことを母のタネに伝え、そのまま医者の診断書をもらうために大谷城 家専属の医者を呼ぶ。タネが医者に封筒を渡し、形だけの死亡診断書を出してもらい、そのまま葬儀の準備が始まる。
翌年、フネに次男が産まれる。
嬉しくはない。
また同じことを繰り返さなければならない。
男の子だと聞いただけで涙が出た。
まだ自分の中での罪の意識が暖かい頃。
そして、数ヶ月後。
同じことを繰り返すなら、早いほうがいいだろうと考えていた。
同じように、寝ている間に枕を被せようと思った。
しかし、手が動かない。
悩むまま、日が過ぎていく。
あの時の、手に伝わる感覚が忘れられない。
産まれて三ヶ月。
フネは心を決めた。
古くから屋敷に勤める使用人を一人だけ選ぶと、その使用人に分厚い封筒を渡した。
信用の出来る使用人だった。フネの産まれる前から大谷城 家を支える使用人の一人でもある。
「フネ様…………これは…………」
しかし、フネにはその使用人が何かを勘付いているような気がした。
「……信用の出来る人にしか…………お願い出来ないんです…………」
そう真剣な目で訴えるフネに、使用人は首を縦に振るが、封筒をフネに返して応えた。
「これ以上はいただけません…………しかし…………フネ様のお気持ちは断れません…………」
〝これ以上〟という言葉の意味を計りきれないまま、それでもフネは深くを聞かなかった。
翌日、使用人は隣町から幼い赤子 を誘拐すると、屋敷の中で窒息させて殺害。その後、車に次男を抱いたフネを乗せて屋敷を出た。
時間はすでに夜。
村からだいぶ離れた駅。
寒い季節ではなかった。
タオルに包まれた幼な子は静かに眠ったまま。
その我が子を大き目の紙袋に入れ、駅の中のベンチに座ったフネは、静かに隣にその紙袋を置いた。
しばらく、動けなかった。
──…………自分の子供が隣にいる………………
──……立ち上がったら…………二度と会うことはない…………
何か声を掛けてあげたかった。
それでも、言葉が出てこない。
──…………もう…………引き返せない……………………
「…………ごめんね…………」
そんな、ありきたりな言葉しか出てこない。
出てくるのは涙だけ。
小さく、紙袋から声が聞こえた。
聞きたくなかった。
──……もうダメだ……………………
フネは逃げるように走り出した。
駅前で待っていた使用人の車に飛び込む。
昭和四五年。
まだ至る所に防犯用カメラが並んでいる時代ではなかった。
☆
「その時のお子さんがどうなったか…………もちろんフネさんは知らないはずです…………」
そう続ける咲恵 の声が、広い座敷に広がる。
「……フネさん……ここの使用人の方々は感じのいい方たちばかりです。それは私たちも感じていました…………だからこそ、私も今……伝えることを躊躇 しています…………でも、あの時のフネさんの気持ちにはとても敵わない…………それを分かった上でお伝えします…………そのつもりで皆さんにも聞いて欲しいんです…………」
全員の意識が咲恵 に向く。
そして、ゆっくりと咲恵 が続ける。
「お子さんは元気です。事業にも成功されて…………ご結婚もされています…………優次 さん…………あなたです…………」
その優次 の斜め前で、フネが畳に額をつけていた。
体を大きく震わせ、その嗚咽 に空気が包まれた。
☆
フネに長女が産まれたのは昭和四七年。
初めて、フネは心から喜ぶことが出来た。
名前を智子 と名付け、初めてフネはその成長を見続ける喜びを感じていた。
全力で育てようと思った。
全力で守ろうと思った。
しかし成長と共に、やはりフネの中で膨れ上がる気持ちがある。智子 にも、いずれ大谷城 家の〝仕来 たり〟を引き継がせなくてはならない。今まで途方もないような時間の中で、何代にも渡って多くの先祖が同じ気持ちで時代を紡 いできたのだろう。
その時のことを思い浮かべながら、それでもフネは智子 に愛情を注ぎ続けた。
長男と次男の分も、智子 には幸せになって欲しかった。
──…………幸せになど…………なれない…………
終わらない現実が少しずつ近付いていくだけ。
誰かが終わらせない限り、続いていく〝呪い〟。しかし、もっと恐ろしい〝呪い〟を恐れ、誰も終わらせることが出来ない。
──……智子 も…………いつか自分の子供を殺す…………
せめて、男の子が産まれない未来を望んだ。
それしか救いはなかった。
平成四年。
智子 は会社経営者を婿養子として大谷城 家に迎え入れた。
その会社は当時はまだ珍しかったコンピュータソフト会社。今でいうＩＴ企業。当時は今のようなインターネットの時代でもなかったが、成長の著しい業界でもあった。
そして祝言の翌日、フネはすでに使われなくなっていた離れの別邸に智子 を呼び出す。
もちろん智子 も〝鬼神 の呪い〟は知っていた。そして世間ではすでにそれが忘れ去られた歴史であることも知っている。しかし大谷城 家では未だそれが現実として引き継がれていることを知ることとなる。
もちろんフネは長男と次男のことは言わなかった。智子 にとっては二人の兄。
フネにとっては唯一の逃げ道だったが、同時にどこの誰か分からない子供を殺させることでもある。棺が空というわけにもいかない。骨も拾わなければならない。そのための〝身代わり〟はどうしても必要だった。
「この時代に呪いなんて…………」
智子 はそう言いながらも〝男の子が産まれたら、きっと殺すように促 されるだけ〟と受け入れるしかなかった。
〝呪い〟の真実を知りながら、その〝呪い〟の実態が人間の〝業 〟であることを学んだ。
やがて智子 は妊娠をするが、やはり本音で喜べない自分がいた。
──……男の子だったら…………殺すの…………？
そう思いながら、しだいに大きくなるお腹を見つめる日々。
まだ時代的に、出産前に性別の分かる時代ではなかった。分かるとしても、その頃にはすでに中絶の出来る期間は過ぎている。
毎日、女の子であることを祈った。
平成六年。
産まれた子供は女の子だった。
恵那 と名付けられた。
智子 はそれまで感じたこともないくらいに安堵した。
子供の成長を見守ることの出来る喜びを感じた。
しかし同時に、いつか恵那 にも自分と同じ不安を味合わせることの怖さ。
この頃には、すでに智子 も何かに感覚を侵 されていたのかもしれない。話を聞いた時には〝呪い〟など馬鹿馬鹿しいとさえ思った。しかも現代ではただの御伽噺 レベルのもの。村の人間で真面目に受け取る者などいないだろう。大谷城 家の使用人が定期的に祠 を管理しているに過ぎない。
しかし今は男の子に産まれてほしくないとしか思えなかった。
なぜ大谷城 家だけが〝呪い〟に苦しめられなければならないのか。理不尽だとさえ思った。今まで多くの子供たちが母親の手で殺されてきたのだろう。もしかしたら使用人の中にも殺人に手を貸した者もいるかもしれない。
──……このまま…………その子たちは忘れ去られていくの……？
平成八年。
智子 は二人目を出産する。
男の子だった。
──……絶対に殺させない…………
産まれた直後から、智子 はそれだけを考え続けた。
フネも特別何かを言ってくるわけではなかったが、智子 はどうやって〝呪い〟から我が子を救うかしか頭にはなかった。
どこかに子供を逃すとしても、死んだことを偽装するには〝身代わり〟が必要になる。
元々一度は就職して働きに出ていた智子 は、決して一人で外に出ることで怪しまれることはない。その日も智子 は息子を抱いて外に出ていた。
産まれてからすでに半年が過ぎていた。近くの河原まで散歩に行くことは珍しくはない。しかし智子 はその日に決行することを決めていた。いつものようにタオルに息子を包んで抱きながら、カバンには小さく畳んだ紙袋を忍ばせる。
どこがいいだろうかと場所を探しながら、同時に〝身代わり〟を探す。
──……今日でお別れ…………でも生きてさえいてくれたら…………
それでも、いつもの散歩コースで思い出を噛み締めた。
そして、息子のためにも、この〝呪い〟をただの伝承で終わらせまいと誓った。
村の外れに、小さな産婦人科病院を見つけた。
すでに陽が傾き始めている。
──……ここなら…………
智子 は素早く紙袋を取り出すと、息子をその中へ。
短い手紙を添えた。
「もしも…………また会えたら…………」
それだけで言葉を詰まらせ、入り口近くの花壇の隅へ、そっとその紙袋を置いた。
──…………私は…………〝鬼〟なのかもしれない…………
直後、すぐ側 の入り口が開く音。
同時に聞こえるのは、胸に抱いた小さな赤ん坊に楽しげに話しかける母親の明るい声。
何も考えなかった。
ただ、帽子を深く被り直すと、智子 はその母親にぶつかるように、そのままその子供を奪う。
そして、がむしゃらに走っていた。
背後の悲鳴も聞こえなかった。
もし狂ったようなその声が耳に届いていたなら、智子 は立ち止まっていただろう。当然、母親の顔も見ていない。
見れるはずがない。
──…………私は〝悪魔〟だ…………
足が動かなくなる程に走ったところで、智子 は河原の橋の下にいた。
すでに辺りは薄暗い。
泣き叫ぶ子供の声を周囲に聞かれまいと、ずっと智子 は子供の顔を胸に押し付けていた。
すでにぐったりと力は無い。
しかしまだ微かに心臓の鼓動を感じる。
その子供の顔を見ることが出来ない。
智子 は子供の足を掴むと、そのまま川の水の中に子供の頭を沈めた。
僅かな痙攣を感じ、智子 は自分のしていることに恐怖した。
──……人殺し…………
いつの間にか、涙が溢れていた。
そして呼吸の止まった子供を抱え、屋敷へと戻る。
事故死の扱いとなり、翌日には葬儀が行われた。
☆
「ネットに〝鬼神 の呪い〟として情報を拡散させたのは…………智子 さんですね」
そう言い放った萌江 が続ける。
「旦那 さんにお願いすれば簡単なはずです」
すると、智子 は目の前に視線を落としたまま小さく応える。
「…………はい……」
その視線の先には、兄である優次 がいる。しかし顔を上げることは憚 られた。
──……私も…………母と同じことを…………
そう思った時、そこに聞こえるのは咲恵 の声だった。
「誘拐事件の裏は取ってあります…………もう……お気付きですね…………智子 さんの息子さんが…………雄一 さんです」
智子 は微動だにしなかった。
──……あんなに会いたかったのに…………どんな顔をすればいいのか分からない…………
その雄一 の目の前にいる恵那 が目を見開いて口を震わせた。
その目に、溢れそうな涙が浮かぶ。
「恵那 さん…………」
そう言った咲恵 の柔らかい声が続く。
「……あなたの弟さんです」
恵那 は口を押さえながら、大声で泣き始めた。
雄一 も視線を落とし声を震わせる。
「……私が養子だということを…………私も昨日聞いたばかりでした…………でも、義理の母も、もちろん私の出自のことまでは分からないと言っていまして…………どうして昨日になってあんな話をしたのか不思議でしたが…………」
「世の中には、不思議なことがあるものですよ…………」
そう言った萌江 が続ける。
「昨日、あの祠 で私たちが出会ったことも偶然ではないでしょう…………ある意味…………御寧 の呪いは成功したのかもしれません……これだけ長い歴史の中でこの家を苦しめ続けた…………それでも、ネットで広がった呪いの話だけで、なぜか息子さんたちは鬼の夢を見始めた……しかも見たことがなかった鬼の姿まで見ている…………それが同じ〝血〟のせいなのか、それは分かりません…………まるでこのために呼ばれたかのようだ…………歴史の闇に埋もれさせたくないと願った智子 さんの思いか…………でも、やっと親子が再会出来たなら…………そんな不思議なことがあってもいいと、私は思います」
誰も口を開けないまま、時間だけが流れる。
やがて、萌江 が再び続けた。
「鬼はいない…………呪いもない…………総ては人間が作り出した…………誰もが〝呪い〟という〝悪魔〟に魅入られた…………どうして〝白か黒か〟で決めてきたんでしょうね…………他の色だってあったはずなのに…………」
萌江 は首の後ろに両手を回し、ネックレスを外す。
それを左手に巻きつけると、腕を伸ばし、指から水晶をぶら下げて言葉を繋げる。
「今回の謎解きの一件を、皆さんの記憶から決してもいい…………あまりにも非情な現実だ。皆さんにはその権利があると私は思います。そして今までの生活に戻るか…………それとも過去と現実を受け入れてこれから生きていくか…………それは皆さんで決めてください」
しかしその水晶を、萌江 の隣で片膝を立てた西沙 が掴む。
驚いた萌江 が西沙 を見ると、そこには目に涙を浮かべた西沙 の横顔。
そしてその西沙 が口を開いた。
「……あと一晩だけ…………待ってあげて…………」
すると、萌江 の表情にも優しい笑顔が浮かぶ。
「そうだね……分かった」
萌江 は手を下ろし、後ろの杏奈 に振り返って続ける。
「杏奈 ちゃん、明日、恵那 さんからの連絡待ち、頼むよ」
杏奈 は黙って大きく頷 く。
萌江 が六人に視線を戻すと、次に口を開いたのは咲恵 。
「今夜は…………家族だけでゆっくりしてください…………どういう結果を選ぶとしても、それは皆さんしだいです。誰にも責められることではありません」
☆
「……なるほど…………想像以上に深い結末だったか…………」
夜、最後の旅館での食事を取りながら、そう呟くように言ったのは満田 だった。
萌江 と咲恵 が一通りの説明をすると、改めて全員の表情は固い。
その中で口を開いたのは杏奈 。
「あの六人…………どっちを選ぶんですかね…………」
日中の大谷城 家では黙って話を聞いていただけの杏奈 だったが、本心は穏やかではいられなかった。
今はすでに、新しい記事にすることは諦めている。とても記事に出来るような真実ではなかった。むしろ、どうやってネットの中で風化させていこうかと考え続けていた。
その杏奈 に応えた咲恵 の言葉は、あくまで柔らかい。
「どっちを選んだとしても…………正解なんかないのよ…………昔の人達が選んだ選択にもね…………あるのは結果だけ…………だから……あとは六人が選ぶだけ…………強制は出来ない」
そう言うと、咲恵 はお猪口 の日本酒を飲み干す。
そして続けた。
「…………もう、私たちの仕事は終わり……」
その柔らかい口調の中に、寂しさが滲む。
解決から生まれる望まれない現実。しかしそれは、解決しなければ見ることのできない真実でもある。
咲恵 も萌江 も、もちろんそんなことは分かっていた。
真実に救われる人もいれば、その真実を受け止められない人もいる。
関わらなければ、知ることもない。
しかし二人は積極的に関わってきた。
そして同時に、地獄を見てきた。人間の人間であるが故 の愚かさに幾度も触れてきた。決して使命感などという安っぽい言葉で片付ける気はない。しかしこの時の二人には、まだ自分たちのことでさえ見えていなかった。
重い表情のまま、満田 が口を開く。
「大変な話に全員を巻き込んでしまった…………この礼はさせてもらうよ」
「意味があるんだ…………」
そう言う萌江 が続けた。
「何か意味がある…………私たちが関わった理由がね…………」
「理由？」
「……どこかに…………何かヒントがあるはずなんだ…………」
そこに西沙 が混ざる。
「考えすぎだよ。私たちには縁もゆかりも無い場所の話だ…………」
「…………ホントに？」
その萌江 の言葉に、全員の意識が注がれる。
そして、その言葉が続く。
「……そうなのかな……………………それなら…………どうして？」
突然、萌江 の目から、一粒だけ涙が零 れた。
「どうして…………夢の中の悪魔が…………お母さんの顔に変わるの…………？」
「────萌江 」
そう口を開いた西沙 の口調が強くなって続いた。
「ただの妄想だよ…………萌江 はお母さんの顔なんか見たことない────」
「分からないと思うの？」
即答したその萌江 の言葉に、再び全員がその顔を見る。
「私に？ 分からないと思う？ 子供の頃から何度も会ってる…………いつも私の中に────」
その目を後ろから左手で覆ったのは、いつの間にか萌江 の背後に回っていた西沙 だった。西沙 は萌江 を抱き抱えるようにしたまま、右手で萌江 の首にかかる水晶を掴む。
その手に自分の手を重ねたのは、萌江 の隣の咲恵 。
咲恵 はその手に視線を向けたまま、震える声で口を開く。
「…………お願い…………やめて…………」
「この水晶は────」
瞬時に言葉を返した西沙 が水晶を握る右手に力を込めた時、それを遮る咲恵 の声は低い。
「────これ以上この水晶を排除するつもりなら…………私はあなたと対峙することになる…………これは、あなたの手に負えるモノではない……………………」
すると、西沙 の口から言葉が漏れた。
「…………京子 …………じゃ……ないの…………？」
「やめな」
その声に、全員に鳥肌が立つ。
西沙 の左手に目を覆われたままの萌江 の声。
いつもの声なのに、なぜかその声に、全員が凄みを覚える。
誰も動けなかった。
そして続く、その声。
「西沙 …………怪しげな呪文なんて効かないよ。人間の作り出したものなんて、ただの自己満足に過ぎない…………陰陽道 だろうがお経だろうが……そんなものは自分たちを安心させたいだけのもの…………この世成らざる世界にとってはただの茶番だ。幽霊も呪いも祟 りも…………総ては人間が作り出したモノ…………いい加減に気付け────あの世など存在しない…………あるのは目の前の世界だけ…………そしてこの世界の総ては、まやかしの世…………」
誰の言葉なのか、咲恵 にも西沙 にも計りかねた。
声が続いた。
「……お前たちが辿り着いた真実は…………〝ホンモノ〟なのか？ 誰にそんなものが分かる…………お前たちが納得したいだけだ…………答えなど誰にも分からない…………お前たちが〝創り出した〟世界に過ぎない…………」
「つまり…………」
呟くように口を開いたのは西沙 。
萌江の背後で目を伏せ、低い声を続ける。
「…………お前も…………〝まやかし〟じゃないか…………」
直後、西沙 は右手を開く。そして水晶から手を離すのに合わせ、咲恵 の手も弾けるように離れた。
「咲恵 ！ 水晶握って！」
その西沙 の声に、咲恵 は慌てて水晶を握る。
直後、西沙 の右手は萌江 の背中で大きく音を立てた。
そして、続けてその右手は、今度は優しく萌江 の背中に押し付けられる。
「…………戻ってきて…………例え〝まやかし〟の世界でも…………ここが私たちの生きる世界…………」
やがて西沙 が左手を萌江 の目から離す。
そして萌江 は、不思議そうに周囲を見渡した。
咲恵 もゆっくりと萌江 の首筋から手を離す。
「……どうしたの？」
その萌江 の声に、後ろの西沙 が大きく溜息を吐 いて座り込んだ。
そして思わず言葉を漏らす。
「まったく…………咲恵 も大変な相手に惚 れたねえ…………」
すると、途端に笑顔になった咲恵 が返す。
「羨 ましいでしょ」
「私は遠慮するわ。こんな面倒な恋人なんて」
すると、そこに挟まったのは当の萌江 だった。
「なに？西沙 も同性愛に目覚めたの？」
「誰もそんな話はしてません」
西沙 は眉間 にシワを寄せてそう応えると、向かいの席に戻った。
そこに杏奈 の声。
「こういうの、少し見慣れてきました」
「慣れるな」
そう返した西沙 がお猪口 の日本酒を飲み干して続ける。
「でもネタには困らないでしょ？ これからも色々と頼むよ」
「お任せを。お陰で美味しいご飯も食べられるし」
「で？」
一番状況を理解出来ていない萌江 だった。怪訝 な顔で続ける。
「何がどうなったのよ」
すると、テーブルの下で咲恵 が萌江 の手に自分の手を重ねて返した。
「後で…………」
しかし、萌江 の水晶が咲恵 のもう一つの手の中にあることには、誰も気が付いていない。
翌朝、杏奈 のスマートフォンに、恵那 からの着信があった。
「かなざくらの古屋敷」
〜 第十部「鬼と悪魔の爪」終 〜
婿養子として夫を迎えたばかりの一八才のフネは、母であるタネに離れの別邸に呼ばれていた。
同じく婿養子だった先代が亡くなり、隠居に入った先代の妻がこの別邸に
それ以来この別邸は使われていない。
そして
呼ばれるのは女だけ。
婿養子である男が呼ばれることはない。
夜────静かな夜だった。
風も無い。
障子を突き抜けた明るい月明かりだけに照らされた中、おもむろにタネが口を開く。
「これから…………
その重々しいタネの言葉に、フネは乾いた唾を大きく飲み込んだ。
「よろしいですね…………？」
タネはそう言って鋭い目を向ける。フネはその目から視線を外すことが出来ないままに応えるしかなかった。
「…………はい」
「……この家に…………
「…………？ 産まれないほうが……いいのですか？」
「ええ…………ただそうだとしても、これは次の世代へ伝えてもらわなければなりません…………男は一才まで生きられないと言いました…………しかし違います…………あなたがその命を絶つのです…………」
──…………？
──………………絶つ？
「生きられないのではありません…………あなたが殺すのです…………」
「…………そんな……」
「殺さなければ…………もっと恐ろしい〝呪い〟が降りかかります。この家は、女だけで繋いで行かなければなりません」
もちろん、フネは目の前の母がその仕来たりを破っていたことを知らない。タネも決して話せないことだと思いながらも、この時は正直迷っていた。
フネが最初に子供を産んだのは昭和四四年。
男の子だった。
そしてフネは、仕来たりに従う。
どうやって従うか、日に日に
半年ほど経った頃。
──……まだ…………一年までは時間がある…………
しかし、これ以上は自分の気持ちに自信が持てなかった。
──…………この子を…………殺せるの…………？
お腹を痛めて産んだ我が子の寝顔を見る度に、フネはそんな感情を繰り返す。
──……殺せるはずがない…………
自然な感情だった。
──…………でも……………………殺さないと……………………
何かに突き動かされるように、おかしな感情が湧き上がる。
──…………誰？ 誰かがいる…………
自分の中に湧き上がってきたのは、別の誰か。
自分ではない。
別の誰か。
それが誰なのか分からないまま、フネは暗い部屋の中で、寝ている我が子の顔に自分の枕を被せる。
そして押さえ付けた。
小さな呻き声が枕に響く。
子供の手足が激しく動き始める。
引き返せなかった。
そのまま、フネは枕を押さえる手に力を込める。
やがて子供が動かなくなった頃、手の力を抜いた。
いつの間にか、フネの目から涙が
感情の行き場が分からない。
そして、涙が止まらない。
翌日、夜のことを母のタネに伝え、そのまま医者の診断書をもらうために
翌年、フネに次男が産まれる。
嬉しくはない。
また同じことを繰り返さなければならない。
男の子だと聞いただけで涙が出た。
まだ自分の中での罪の意識が暖かい頃。
そして、数ヶ月後。
同じことを繰り返すなら、早いほうがいいだろうと考えていた。
同じように、寝ている間に枕を被せようと思った。
しかし、手が動かない。
悩むまま、日が過ぎていく。
あの時の、手に伝わる感覚が忘れられない。
産まれて三ヶ月。
フネは心を決めた。
古くから屋敷に勤める使用人を一人だけ選ぶと、その使用人に分厚い封筒を渡した。
信用の出来る使用人だった。フネの産まれる前から
「フネ様…………これは…………」
しかし、フネにはその使用人が何かを勘付いているような気がした。
「……信用の出来る人にしか…………お願い出来ないんです…………」
そう真剣な目で訴えるフネに、使用人は首を縦に振るが、封筒をフネに返して応えた。
「これ以上はいただけません…………しかし…………フネ様のお気持ちは断れません…………」
〝これ以上〟という言葉の意味を計りきれないまま、それでもフネは深くを聞かなかった。
翌日、使用人は隣町から幼い
時間はすでに夜。
村からだいぶ離れた駅。
寒い季節ではなかった。
タオルに包まれた幼な子は静かに眠ったまま。
その我が子を大き目の紙袋に入れ、駅の中のベンチに座ったフネは、静かに隣にその紙袋を置いた。
しばらく、動けなかった。
──…………自分の子供が隣にいる………………
──……立ち上がったら…………二度と会うことはない…………
何か声を掛けてあげたかった。
それでも、言葉が出てこない。
──…………もう…………引き返せない……………………
「…………ごめんね…………」
そんな、ありきたりな言葉しか出てこない。
出てくるのは涙だけ。
小さく、紙袋から声が聞こえた。
聞きたくなかった。
──……もうダメだ……………………
フネは逃げるように走り出した。
駅前で待っていた使用人の車に飛び込む。
昭和四五年。
まだ至る所に防犯用カメラが並んでいる時代ではなかった。
☆
「その時のお子さんがどうなったか…………もちろんフネさんは知らないはずです…………」
そう続ける
「……フネさん……ここの使用人の方々は感じのいい方たちばかりです。それは私たちも感じていました…………だからこそ、私も今……伝えることを
全員の意識が
そして、ゆっくりと
「お子さんは元気です。事業にも成功されて…………ご結婚もされています…………
その
体を大きく震わせ、その
☆
フネに長女が産まれたのは昭和四七年。
初めて、フネは心から喜ぶことが出来た。
名前を
全力で育てようと思った。
全力で守ろうと思った。
しかし成長と共に、やはりフネの中で膨れ上がる気持ちがある。
その時のことを思い浮かべながら、それでもフネは
長男と次男の分も、
──…………幸せになど…………なれない…………
終わらない現実が少しずつ近付いていくだけ。
誰かが終わらせない限り、続いていく〝呪い〟。しかし、もっと恐ろしい〝呪い〟を恐れ、誰も終わらせることが出来ない。
──……
せめて、男の子が産まれない未来を望んだ。
それしか救いはなかった。
平成四年。
その会社は当時はまだ珍しかったコンピュータソフト会社。今でいうＩＴ企業。当時は今のようなインターネットの時代でもなかったが、成長の著しい業界でもあった。
そして祝言の翌日、フネはすでに使われなくなっていた離れの別邸に
もちろん
もちろんフネは長男と次男のことは言わなかった。
フネにとっては唯一の逃げ道だったが、同時にどこの誰か分からない子供を殺させることでもある。棺が空というわけにもいかない。骨も拾わなければならない。そのための〝身代わり〟はどうしても必要だった。
「この時代に呪いなんて…………」
〝呪い〟の真実を知りながら、その〝呪い〟の実態が人間の〝
やがて
──……男の子だったら…………殺すの…………？
そう思いながら、しだいに大きくなるお腹を見つめる日々。
まだ時代的に、出産前に性別の分かる時代ではなかった。分かるとしても、その頃にはすでに中絶の出来る期間は過ぎている。
毎日、女の子であることを祈った。
平成六年。
産まれた子供は女の子だった。
子供の成長を見守ることの出来る喜びを感じた。
しかし同時に、いつか
この頃には、すでに
しかし今は男の子に産まれてほしくないとしか思えなかった。
なぜ
──……このまま…………その子たちは忘れ去られていくの……？
平成八年。
男の子だった。
──……絶対に殺させない…………
産まれた直後から、
フネも特別何かを言ってくるわけではなかったが、
どこかに子供を逃すとしても、死んだことを偽装するには〝身代わり〟が必要になる。
元々一度は就職して働きに出ていた
産まれてからすでに半年が過ぎていた。近くの河原まで散歩に行くことは珍しくはない。しかし
どこがいいだろうかと場所を探しながら、同時に〝身代わり〟を探す。
──……今日でお別れ…………でも生きてさえいてくれたら…………
それでも、いつもの散歩コースで思い出を噛み締めた。
そして、息子のためにも、この〝呪い〟をただの伝承で終わらせまいと誓った。
村の外れに、小さな産婦人科病院を見つけた。
すでに陽が傾き始めている。
──……ここなら…………
短い手紙を添えた。
「もしも…………また会えたら…………」
それだけで言葉を詰まらせ、入り口近くの花壇の隅へ、そっとその紙袋を置いた。
──…………私は…………〝鬼〟なのかもしれない…………
直後、すぐ
同時に聞こえるのは、胸に抱いた小さな赤ん坊に楽しげに話しかける母親の明るい声。
何も考えなかった。
ただ、帽子を深く被り直すと、
そして、がむしゃらに走っていた。
背後の悲鳴も聞こえなかった。
もし狂ったようなその声が耳に届いていたなら、
見れるはずがない。
──…………私は〝悪魔〟だ…………
足が動かなくなる程に走ったところで、
すでに辺りは薄暗い。
泣き叫ぶ子供の声を周囲に聞かれまいと、ずっと
すでにぐったりと力は無い。
しかしまだ微かに心臓の鼓動を感じる。
その子供の顔を見ることが出来ない。
僅かな痙攣を感じ、
──……人殺し…………
いつの間にか、涙が溢れていた。
そして呼吸の止まった子供を抱え、屋敷へと戻る。
事故死の扱いとなり、翌日には葬儀が行われた。
☆
「ネットに〝
そう言い放った
「
すると、
「…………はい……」
その視線の先には、兄である
──……私も…………母と同じことを…………
そう思った時、そこに聞こえるのは
「誘拐事件の裏は取ってあります…………もう……お気付きですね…………
──……あんなに会いたかったのに…………どんな顔をすればいいのか分からない…………
その
その目に、溢れそうな涙が浮かぶ。
「
そう言った
「……あなたの弟さんです」
「……私が養子だということを…………私も昨日聞いたばかりでした…………でも、義理の母も、もちろん私の出自のことまでは分からないと言っていまして…………どうして昨日になってあんな話をしたのか不思議でしたが…………」
「世の中には、不思議なことがあるものですよ…………」
そう言った
「昨日、あの
誰も口を開けないまま、時間だけが流れる。
やがて、
「鬼はいない…………呪いもない…………総ては人間が作り出した…………誰もが〝呪い〟という〝悪魔〟に魅入られた…………どうして〝白か黒か〟で決めてきたんでしょうね…………他の色だってあったはずなのに…………」
それを左手に巻きつけると、腕を伸ばし、指から水晶をぶら下げて言葉を繋げる。
「今回の謎解きの一件を、皆さんの記憶から決してもいい…………あまりにも非情な現実だ。皆さんにはその権利があると私は思います。そして今までの生活に戻るか…………それとも過去と現実を受け入れてこれから生きていくか…………それは皆さんで決めてください」
しかしその水晶を、
驚いた
そしてその
「……あと一晩だけ…………待ってあげて…………」
すると、
「そうだね……分かった」
「
「今夜は…………家族だけでゆっくりしてください…………どういう結果を選ぶとしても、それは皆さんしだいです。誰にも責められることではありません」
☆
「……なるほど…………想像以上に深い結末だったか…………」
夜、最後の旅館での食事を取りながら、そう呟くように言ったのは
その中で口を開いたのは
「あの六人…………どっちを選ぶんですかね…………」
日中の
今はすでに、新しい記事にすることは諦めている。とても記事に出来るような真実ではなかった。むしろ、どうやってネットの中で風化させていこうかと考え続けていた。
その
「どっちを選んだとしても…………正解なんかないのよ…………昔の人達が選んだ選択にもね…………あるのは結果だけ…………だから……あとは六人が選ぶだけ…………強制は出来ない」
そう言うと、
そして続けた。
「…………もう、私たちの仕事は終わり……」
その柔らかい口調の中に、寂しさが滲む。
解決から生まれる望まれない現実。しかしそれは、解決しなければ見ることのできない真実でもある。
真実に救われる人もいれば、その真実を受け止められない人もいる。
関わらなければ、知ることもない。
しかし二人は積極的に関わってきた。
そして同時に、地獄を見てきた。人間の人間であるが
重い表情のまま、
「大変な話に全員を巻き込んでしまった…………この礼はさせてもらうよ」
「意味があるんだ…………」
そう言う
「何か意味がある…………私たちが関わった理由がね…………」
「理由？」
「……どこかに…………何かヒントがあるはずなんだ…………」
そこに
「考えすぎだよ。私たちには縁もゆかりも無い場所の話だ…………」
「…………ホントに？」
その
そして、その言葉が続く。
「……そうなのかな……………………それなら…………どうして？」
突然、
「どうして…………夢の中の悪魔が…………お母さんの顔に変わるの…………？」
「────
そう口を開いた
「ただの妄想だよ…………
「分からないと思うの？」
即答したその
「私に？ 分からないと思う？ 子供の頃から何度も会ってる…………いつも私の中に────」
その目を後ろから左手で覆ったのは、いつの間にか
その手に自分の手を重ねたのは、
「…………お願い…………やめて…………」
「この水晶は────」
瞬時に言葉を返した
「────これ以上この水晶を排除するつもりなら…………私はあなたと対峙することになる…………これは、あなたの手に負えるモノではない……………………」
すると、
「…………
「やめな」
その声に、全員に鳥肌が立つ。
いつもの声なのに、なぜかその声に、全員が凄みを覚える。
誰も動けなかった。
そして続く、その声。
「
誰の言葉なのか、
声が続いた。
「……お前たちが辿り着いた真実は…………〝ホンモノ〟なのか？ 誰にそんなものが分かる…………お前たちが納得したいだけだ…………答えなど誰にも分からない…………お前たちが〝創り出した〟世界に過ぎない…………」
「つまり…………」
呟くように口を開いたのは
萌江の背後で目を伏せ、低い声を続ける。
「…………お前も…………〝まやかし〟じゃないか…………」
直後、
「
その
直後、
そして、続けてその右手は、今度は優しく
「…………戻ってきて…………例え〝まやかし〟の世界でも…………ここが私たちの生きる世界…………」
やがて
そして
「……どうしたの？」
その
そして思わず言葉を漏らす。
「まったく…………
すると、途端に笑顔になった
「
「私は遠慮するわ。こんな面倒な恋人なんて」
すると、そこに挟まったのは当の
「なに？
「誰もそんな話はしてません」
そこに
「こういうの、少し見慣れてきました」
「慣れるな」
そう返した
「でもネタには困らないでしょ？ これからも色々と頼むよ」
「お任せを。お陰で美味しいご飯も食べられるし」
「で？」
一番状況を理解出来ていない
「何がどうなったのよ」
すると、テーブルの下で
「後で…………」
しかし、
翌朝、
「かなざくらの古屋敷」
〜 第十部「鬼と悪魔の爪」終 〜
