第一章 ファイブカード(1)

文字数 3,873文字

「この度はファイブカードをご購入頂き、且つ、ゲームに参加頂き誠にありがとうございます。
今大会の参加人数は225人で、優勝賞金は1億1250万円です。 
 ゲームのステージは3つ用意してあります。それぞれのステージで勝ち残った方のみが次のステージへ進むことができます。
 セカンドステージまではA,B,Cの3つのブロックに別れてゲームが行なわれます。

 ファーストステージ『ファイブカード』のルールを説明します。
 ゲームの制限時間は2時間です。
 皆様に最初に購入して頂いた5色のカードは画面右上に表示されます。このカードを使ってポーカーゲームで闘って頂きます。
 同じ色が5枚揃えば『ファイブカード』、4枚揃えば『フォーカード』、3枚揃えば『スリーカード』、2枚揃えば『ワンペア』、スリーカードとワンペアが組み合わされれば『フルハウス』、ワンペアが2組揃えば『ツーペア』です。一般的なトランプで行うポーカーの『フラッシュ』、『ストレート』はありません。
 役の強さは強い方から『ファイブカード』→『フォーカード』→『フルハウス』→『スリーカード』→『ツーペア』→『ワンペア』の順です。
 色の強さは強い方から赤→青→黄→緑→白となります。つまり赤のファイブカードが最高の手役となります。フルハウスは3枚ある方の色で優劣を決めます。

 各ブロックのプレイヤーは75名です。そのブロックのプレイヤーリストは画面左側に掲載されます。
 プレイヤーは他のプレイヤーと話し合いの上、カードを交換することができます。
 話し合いたい相手が決まれば、リスト上の名前(アカウント名)をクリックして下さい。名前が明るくなります。その状態で画面右下のTALKのボタンをクリックすれば、そのプレイヤーと会話ができます。チャットの要領です。
 お互いに交換したいカードが決定すれば、右上の手持ちカードの中から交換したいカードをクリックしてカードを明るくさせ、CHANGEボタンをクリックして下さい。
 交渉がうまくいかず会話を終了したい場合はEXITボタンをクリックして下さい。1回のトーク時間は10分までです。10分を過ぎると名前の明かりが消え、元の状態に戻ります。
 リスト上で相手の名前がすでに明るくなっている場合は、現在そのプレイヤーはトーク中かバトル中のため、他のプレイヤーは名前をクリックすることはできません。トークまたはバトルが終了するまで待つか、他のプレイヤーを選んで下さい。

 ポーカー勝負をする場合はトークをする場合と同じように相手の名前をリスト上で明るくさせた上で、BATTLEボタンをクリックしてください。相手にあなたからバトルが申し込まれたことが伝えられます。
 バトルが承諾されればバトル開始となります。
 バトルを承諾するか拒否するかの選択時間は5分です。5分以内に回答がない場合は、自動的にバトルに突入します。
 バトルの拒否権は4回までです。従って5回目にバトルを申し込んできた相手とは、自動的にバトル開始となります。
 バトルを拒否された場合、同じ相手には5分間バトルを申し込むことができません。他のプレイヤーにバトルを申し込むか、5分経ってからもう一度バトルを申し込んで下さい。

 プレイヤーはゲーム中、一度だけ20分間の休憩をとることができます。休憩をとりたいプレイヤーはRESTボタンをクリックしてください。その間、他のプレイヤーからトークやバトルを申し込みはされません。トイレに行くなり、食事をするなり、買い物に行くなりご自由に過ごして下さい。
 休憩を終了しゲームに復帰する場合は、もう一度RESTボタンをクリックして下さい。

 プレイヤーはバトルに勝つと、対戦相手から好きなカードを1枚入手することができます。カードが6枚以上になれば『セカンドステージへ』のボタンをクリックできるようになります。ゲームの制限時間内にこのボタンをクリックすればセカンドステージへの進出が決まります。

 バトルに負けたプレイヤーは相手にカードを1枚奪われた時点で、RETIREボタンがクリックできるようになります。RETIREボタンをクリックすればゲーム終了です。

 尚、ゲーム中、不正行為やルール違反があったと主催者側が判断した場合、及び、ネット環境の不具合などによる1分間以上の接続切れがあった場合は強制的にそのプレイヤーをリタイアとさせて頂きます。

 以上が『ファイブカード』のルール説明です。

 最後に主催者として、
 このゲームはインターネットという特殊な媒体上で運営されておりますが、私共主催者側によるカード操作などの不正行為は一切ないことを宣言いたします。

 プレイヤーはゲーム開始となる令和5年1月1日、午前0時までに下の【ファイブカード バトルへ】のボタンをクリックして下さい。  

        【ファイブカード バトルへ】」
                                       
 沙織はルール表に何度も目を通した。
 読み終わる頃には全力疾走を終えた後のように全身はくたくたになっていたが、目だけはギラギラと燃えていた。

 クイック・リッチ・クラブは本当に実在した。そしてこれが私の運命を変える。

 まずはルールをちゃんと理解しないと…。
 ペットボトルのお茶を飲み干し、気合を入れ直す。
 通常のポーカーなら何度もやったことがありルールは把握している。負けた記憶もほとんどない。だからポーカーに対する抵抗はない。
 TVゲームやスマホゲームも小さいころからよくやっていて苦手意識はなかったけど、オンラインの対戦ゲームというものにはあまり馴染みがなかった。なのでこの大会の参加を申し込んでから、フミオに教えてもらっていくつかのオンラインゲームを体験してきていた。もちろん課金なしで体験できる範囲ではあるけれど……。
 その中にポーカーもあった。
 だからファーストゲームがポーカーだとっ知って、ツイていると思った。
 対面のポーカーと比べてオンラインは相手の顔が見えない分駆け引きが難しい、ということを事前に知ることができたのは、大きなアドバンテージだと感じるからだ。
 沙織はさっそくゲームに参加すべく、【ファイブカード バトルへ】のボタンにカーソルを合わせた。
 だが、そこで動きを止めた。
 
そんな単純でいいの? 

 直感が危険信号を告げた。
 私は今、人生のどん底。ツイている筈がない。なのに、人生を賭けた大博打に参加したことで、ちょっと浮足立っている。もっと慎重にならなきゃ。
 これから挑もうとしているゲームは闇サイトの中で極秘に行なわれる非合法の頭脳バトル。一攫千金を夢みて、これに人生をかけた猛者たちが集う戦の場。隙あらば一気呵成に襲い掛からんとする野獣のような奴らを前にし、私はまるでピクニックにでも行くかのように浮かれていた。
 これでは主催者に参加費を寄付しているようなもの。
 もっと懸命に、今自分ができることを考えなきゃ。
 沙織はプリンターの電源を入れた。
 これから先、ルール表がパソコン画面で見ることができない場合に備えてルール表をプリントアウトすることにした。
 次にスマートフォンのSDカードのデータを全て消去した。家族や友達との旅行や、高校の卒業式の写真なんかが保存されていたはずだけど確認することなく全て削除した。
 もう過去の華やかな思い出はいらない。必要なのは明日をどう生きるかだけ。
 バックアップの容量を最大限に開けてから、カメラモードでパソコン画面が録画できる位置にスマートフォンを固定させた。
 自分はゲームの素人。大事なことを見逃してしまうかもしれないけど、録画できていればいつでも確認できると考えた。

 他に必要なものはないか? 
 沙織は考えを廻らせながら部屋を見回し、本棚に目を止めた。備えあれば憂いなしと、国語辞典、百科事典、和英・英和辞典、そして一度も開いたこともない誰かの快気祝いにもらった家庭の医学書も出しておいた。
 スマートフォンは録画に使うので検索はできない。こういう時はアナログに頼る。

 思いつく限りの準備はした。
 ゆっくりと右手をマウスの上に伸ばす。カーソルを【ファイブカード バトルへ】のアイコンの上に重ねた。
 クリックすれば間違いなく後戻りはできない。

 本当にクリックしていいのか?
 悪魔のような囁きが沙織を惑わす。

 ボタン1つクリックするだけなのに右手は汗でぐっしょり濡れていた。
 ここで画面とにらめっこしていたって何も始まらない。
 沙織は大きく息を吸い込むと、息を止めたままクリックした。

 カチッと乾いた音が部屋に響いた。
 その瞬間、突然画面が真っ黒になった。
 心臓の鼓動が急激に加速し、全身から汗が吹き出した。
 何! どうしたの? 
 何かいけなかったの?

 画面中央に赤い横文字が現れた。
『ゲーム開始まで 4:57:23』
 数字はカウントダウンをしている。あと4時間57分後にゲームが始まるということだ。
 ふーっと安堵のため息を吐く。
 まったくもう、大袈裟なんだから。
 たったワンクリック。それなのに何日間も徹夜でゲームをしたかのような疲労感が全身を襲っていた。


 目の前のカウントダウンがついに残り1分を切った。
「赤→青→黄→緑→白。赤→青→黄→緑→白……」色の優先順位を頭の中で反復する。
 スマートフォンの録画のスイッチを入れた。
 カウントダウンが0を告げると同時に画面が切り替わった。
 いよいよゲームスタートだ。
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