第三章 IN THE BOX Ⅱ(5)
文字数 3,818文字
第3戦、沙織の『親』番。
ここでも『親』の投入リミット5分間を使って、泥沼脱出のための奇策を考えた。
もしそんなものが存在するとすれば、ヒントはどこにあるのか? これまでのこの主催者の法則から考えると、あるとしたら1つしかない。
ルール表の中……。
まだあそこに何かヒントが隠されているのではないか?
沙織は一縷の望みを求めてルール表に目を走らせた。
気になる箇所を2箇所発見した。
1つ目は「質問は回答が1単語となる形式で、70文字(パソコンのチャットスペース2行分)以内にまとめて行って下さい」というところ。
もう1つは「特許申請は1戦につき1つまで」というところ。
どちらも予選から本戦に変わった時わざわざ追加された文言で、何かが隠されているとしたらここしかない気がした。
でもそれらが書かれた理由は、すぐに沙織なりに答えが分かってしまった。
前者は沙織が予選で質問内に長いコメントを入れたのを見て他のプレイヤーも真似るようになり、ゲームが遅延気味になってしまったため、その行為を制限するための条件。
後者は先に『子』となった方がいきなり効果的な特許を2つも取得してしまうと、ゲームが一方的になって面白みを欠くため、それを阻止するための配慮。
書かれた理由が判明したということは、ここを怪しいと睨んだ私の勘は外れということになる。
沙織はがっくりと肩を落とした。
他にヒントはないの?
それとも本戦にはそんなお遊びめいたヒントなんて存在しないの?
投入のタイムリミットが迫ってくる。
サクラに2つの特許を握られ、Aへの投入はリスクが高すぎてまったくできない。
それでも何とかサクラを困らせてやろうとBに2枚だけの投入を試みた。それさえもサクラの想定内かもしれないけど、今は我慢しながらチャンスを待つしかない。
《サクラ》 Bには何枚のカードをお入れになりましたか?
Aを聞いてこなかった。Aに行く勇気がない沙織の心を見透かしているかのような、涙が出そうなほど冷静な質問だった。
「マジで……。ちょっとはサクラちゃん手を抜いてよ」
画面の向こうのサクラに文句を言うが、それほど腹が立っているわけではない。寧ろ相手にとって不足なし、といった感じに気持ちが高揚してきていた。
《 玄 》 2枚。
ゲーム展開がサクラの思い描く通りに進行しているのか、彼女は迷いなく間髪入れずに質問を飛ばしてくる。
《サクラ》 青はどこにお入れになりましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
《 玄 》 B
《サクラ》 緑はどこにお入れになりましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
《 玄 》 D
沙織の投入が発表された。
B→青 黄
サクラには青1枚しかバレていない。
無理して黄をブロックしにくるのかどうか?
サクラの投入結果。
B→青
当然よね。
沙織は自嘲気味に笑った。
無理してBのもう1枚をブロックしにいくと、そのために赤、黄、白の3枚を投入しなくてはならない。
その結果、黄はブロックできるけど、外れ2枚で-4Pとなる。
一方、黄をブロックに行かずそのままパスされても3P獲られるだけ。
どちらのマイナスが少ないかは明白。こんな簡単な計算、サクラが間違えるはずがない。
第3戦サクラの『親』。
こっちが時間を使って考えようとしているのを知っているのか、サクラの投入は瞬時にくる。
すぐに質問時間が始まる。
刑事ドラマでは行き詰ったら事件現場に戻れと言う、いわゆる「現場100回」というのがあるけど、クイック・リッチ・クラブの場合は「ルール表100回読め」よね。
その精神でずっとルール表とにらめっこしているけど、最初に怪しいと感じた2箇所以外はヒントになりそうなところは発見できなっかた。
もう一度あの2箇所に戻るしかない。
1つ目の疑問点「質問は回答が1単語となる形式で、70文字(パソコンのチャットスペース2行分)以内にまとめて行って下さい」という制限。
これは予選で私が長い質問をしたために作られた制約だと思ったけど、その理由だとこの制限には少し違和感がある。
それは、この制限によって私が予選で取得した「質問内で他のプレイヤーに投入を指示する」という特許が不可能となるからだ。
結果的にBブロックの本戦は2名の対決となったためこの特許は使う機会はないけれど、もし予選で2位タイが複数いて本戦が3名以上の戦になっていたら使う機会があったかもしれない。
せっかく取得した特許が使えず損したことになる。
もし「指示するという行為」自体が禁止事項なら、最初から、予選の段階で私の特許を『無効』とすべきだったと思う。
まあ、もし『無効』とされていれば私の代わりにWがこの場にいたんでしょうけど、一旦は認めておきながら後で使えなくするというのはこのゲームの主催者にしては、らしからぬ一貫性のない判断に思える。
らしからぬ判断……。
そこに沙織は引っ掛かりを感じ、首を捻った。
本当にそうなの?
このクイック・リッチ・クラブの主催者がそんな一貫性のないことをするの?
ここのゲームは全ての面において綿密に計算され、無駄がない。だとしたら、あの制限も急拵えのものではなく、元々存在していたと考えられるんじゃないの?
たまたま私があんな質問をしたばっかりにその制約のために後から作られたと勝手に解釈したけど、よく考えたら質問時間は5分と決まっている。長く書くのを防止したからと言って、私のように時間一杯使われたら時間短縮にはならない。
この制限は私の長いコメントには関係なく、元からあった。
なくてはならなくて最初から設定されていた、と考えた方がいいんじゃない。
その方が主催者の行動としては一貫性が保たれている。
つまり、これが主催者のヒント!?
何故、質問は70文字以内でなければならないのか?
予選ではこの制限は必要なかったのに本戦で必要になったのは何故か?
予選と本戦の違いは……質問形態の違い。二者択一から回答が1単語となる質問への形式変更。
この質問範囲拡大のため、70文字の制限が設けられた可能性が高い。
「回答は1単語」と「70文字以内の制限」は同時に考えなければならないということだ。
……少し見えてきた。
ここで質問のリミットが来た。沙織は用意していたものを書き入れた。
《 玄 》 Bには3枚以上カードが入っていますか?
《サクラ》 いいえ。
主催者は、回答が1単語の場合、長い質問をされると困った。
何故困ったのか?
きっとここに奇策のヒントが隠されている。
ここになければ私に逆転の道はない。
絶対ここにある!
絶対それを見つけてみせる!
2つ目の質問リミットが迫ってきた。
《 玄 》 Bに黄は入っていますか?
《サクラ》 いいえ。
絶対、何かある!
ここまでの戦いで培われた直感が、そう告げている。
「回答が1単語……。単語、単語……」
呟くたびに何かが閃くような予感がする。
単語というのはもちろん英単語も含むよね。
英語で何かを表現!?
回答が英単語になるような質問を考えてみた。だけど日本語を英語に変換しただけでは、効果的な質問とはとても言えなかった。
他に単語と言えば……。
数字?
数字も1単語と言えば1単語よねぇ~。
沙織は右手を顎に当てて考える。
数字……。
数値……。
数値への置き換え……。
その瞬間、脳天に稲妻が直撃したような衝撃を感じた。
そうかっ!
無限にある数値を使えば、全ての投入パターンを数値に置き換えさせることができるじゃない!
例えば、Aに5色とも入っているなら「1」、
Aに赤以外の4色が入っていてBに赤が入っている場合は「2」、
Aに赤以外の4色が入っていてCに赤が入っている場合は「3」、
Aに赤以外の4色が入っていて赤がどこにも入っていない場合は「4」
……というように質問はかなり長くなってしまうけど、全てのパターンを数値化すれば、『親』がどこに何を投入しようと、その全てを把握することができる。
まさにウルトラCの質問。
私って、すごいじゃない!
見つけた自分に、沙織は拍手を送りたくなった。
でも次の瞬間、
……駄目じゃん!
現実を思い出し、沙織は急にテンションを下げた。
主催者はそれは許さんとして「質問は70文字以内」という制限を設けていたんだ。
やられた!
主催者はそこまで見透かしていたということか。
ちなみに質問が70文字を超えようとするとどうなるのか。
試しに適当な文章を書いてみた。
すると3行目に跨る時、ロックが掛かって改行ができなかった。
なるほど……。
沙織は主催者の抜け目のなさに感心した。
同時に落胆が全身を襲った。
せっかくウルトラCの質問を発見したのに、それはすでに主催者に防御されていた。
つまりそれは何も見つけてないのと同じこと。
悔しい~~~。
せっかく閃いたっていうのに……。
沙織は完全に手詰まり状態になり、意気消沈の中、3つ目の質問を書き入れた。
《 玄 》 Bに白は入っていますか?
《サクラ》 はい。
『親』サクラの投入結果が発表された。
A→黄
B→緑 白
続いて『子』沙織の投入結果。
B→白
C→赤 青 黄 緑
サクラに更に8P稼がれ、その差は絶望的な26Pと広がった。
ここでも『親』の投入リミット5分間を使って、泥沼脱出のための奇策を考えた。
もしそんなものが存在するとすれば、ヒントはどこにあるのか? これまでのこの主催者の法則から考えると、あるとしたら1つしかない。
ルール表の中……。
まだあそこに何かヒントが隠されているのではないか?
沙織は一縷の望みを求めてルール表に目を走らせた。
気になる箇所を2箇所発見した。
1つ目は「質問は回答が1単語となる形式で、70文字(パソコンのチャットスペース2行分)以内にまとめて行って下さい」というところ。
もう1つは「特許申請は1戦につき1つまで」というところ。
どちらも予選から本戦に変わった時わざわざ追加された文言で、何かが隠されているとしたらここしかない気がした。
でもそれらが書かれた理由は、すぐに沙織なりに答えが分かってしまった。
前者は沙織が予選で質問内に長いコメントを入れたのを見て他のプレイヤーも真似るようになり、ゲームが遅延気味になってしまったため、その行為を制限するための条件。
後者は先に『子』となった方がいきなり効果的な特許を2つも取得してしまうと、ゲームが一方的になって面白みを欠くため、それを阻止するための配慮。
書かれた理由が判明したということは、ここを怪しいと睨んだ私の勘は外れということになる。
沙織はがっくりと肩を落とした。
他にヒントはないの?
それとも本戦にはそんなお遊びめいたヒントなんて存在しないの?
投入のタイムリミットが迫ってくる。
サクラに2つの特許を握られ、Aへの投入はリスクが高すぎてまったくできない。
それでも何とかサクラを困らせてやろうとBに2枚だけの投入を試みた。それさえもサクラの想定内かもしれないけど、今は我慢しながらチャンスを待つしかない。
《サクラ》 Bには何枚のカードをお入れになりましたか?
Aを聞いてこなかった。Aに行く勇気がない沙織の心を見透かしているかのような、涙が出そうなほど冷静な質問だった。
「マジで……。ちょっとはサクラちゃん手を抜いてよ」
画面の向こうのサクラに文句を言うが、それほど腹が立っているわけではない。寧ろ相手にとって不足なし、といった感じに気持ちが高揚してきていた。
《 玄 》 2枚。
ゲーム展開がサクラの思い描く通りに進行しているのか、彼女は迷いなく間髪入れずに質問を飛ばしてくる。
《サクラ》 青はどこにお入れになりましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
《 玄 》 B
《サクラ》 緑はどこにお入れになりましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
《 玄 》 D
沙織の投入が発表された。
B→青 黄
サクラには青1枚しかバレていない。
無理して黄をブロックしにくるのかどうか?
サクラの投入結果。
B→青
当然よね。
沙織は自嘲気味に笑った。
無理してBのもう1枚をブロックしにいくと、そのために赤、黄、白の3枚を投入しなくてはならない。
その結果、黄はブロックできるけど、外れ2枚で-4Pとなる。
一方、黄をブロックに行かずそのままパスされても3P獲られるだけ。
どちらのマイナスが少ないかは明白。こんな簡単な計算、サクラが間違えるはずがない。
第3戦サクラの『親』。
こっちが時間を使って考えようとしているのを知っているのか、サクラの投入は瞬時にくる。
すぐに質問時間が始まる。
刑事ドラマでは行き詰ったら事件現場に戻れと言う、いわゆる「現場100回」というのがあるけど、クイック・リッチ・クラブの場合は「ルール表100回読め」よね。
その精神でずっとルール表とにらめっこしているけど、最初に怪しいと感じた2箇所以外はヒントになりそうなところは発見できなっかた。
もう一度あの2箇所に戻るしかない。
1つ目の疑問点「質問は回答が1単語となる形式で、70文字(パソコンのチャットスペース2行分)以内にまとめて行って下さい」という制限。
これは予選で私が長い質問をしたために作られた制約だと思ったけど、その理由だとこの制限には少し違和感がある。
それは、この制限によって私が予選で取得した「質問内で他のプレイヤーに投入を指示する」という特許が不可能となるからだ。
結果的にBブロックの本戦は2名の対決となったためこの特許は使う機会はないけれど、もし予選で2位タイが複数いて本戦が3名以上の戦になっていたら使う機会があったかもしれない。
せっかく取得した特許が使えず損したことになる。
もし「指示するという行為」自体が禁止事項なら、最初から、予選の段階で私の特許を『無効』とすべきだったと思う。
まあ、もし『無効』とされていれば私の代わりにWがこの場にいたんでしょうけど、一旦は認めておきながら後で使えなくするというのはこのゲームの主催者にしては、らしからぬ一貫性のない判断に思える。
らしからぬ判断……。
そこに沙織は引っ掛かりを感じ、首を捻った。
本当にそうなの?
このクイック・リッチ・クラブの主催者がそんな一貫性のないことをするの?
ここのゲームは全ての面において綿密に計算され、無駄がない。だとしたら、あの制限も急拵えのものではなく、元々存在していたと考えられるんじゃないの?
たまたま私があんな質問をしたばっかりにその制約のために後から作られたと勝手に解釈したけど、よく考えたら質問時間は5分と決まっている。長く書くのを防止したからと言って、私のように時間一杯使われたら時間短縮にはならない。
この制限は私の長いコメントには関係なく、元からあった。
なくてはならなくて最初から設定されていた、と考えた方がいいんじゃない。
その方が主催者の行動としては一貫性が保たれている。
つまり、これが主催者のヒント!?
何故、質問は70文字以内でなければならないのか?
予選ではこの制限は必要なかったのに本戦で必要になったのは何故か?
予選と本戦の違いは……質問形態の違い。二者択一から回答が1単語となる質問への形式変更。
この質問範囲拡大のため、70文字の制限が設けられた可能性が高い。
「回答は1単語」と「70文字以内の制限」は同時に考えなければならないということだ。
……少し見えてきた。
ここで質問のリミットが来た。沙織は用意していたものを書き入れた。
《 玄 》 Bには3枚以上カードが入っていますか?
《サクラ》 いいえ。
主催者は、回答が1単語の場合、長い質問をされると困った。
何故困ったのか?
きっとここに奇策のヒントが隠されている。
ここになければ私に逆転の道はない。
絶対ここにある!
絶対それを見つけてみせる!
2つ目の質問リミットが迫ってきた。
《 玄 》 Bに黄は入っていますか?
《サクラ》 いいえ。
絶対、何かある!
ここまでの戦いで培われた直感が、そう告げている。
「回答が1単語……。単語、単語……」
呟くたびに何かが閃くような予感がする。
単語というのはもちろん英単語も含むよね。
英語で何かを表現!?
回答が英単語になるような質問を考えてみた。だけど日本語を英語に変換しただけでは、効果的な質問とはとても言えなかった。
他に単語と言えば……。
数字?
数字も1単語と言えば1単語よねぇ~。
沙織は右手を顎に当てて考える。
数字……。
数値……。
数値への置き換え……。
その瞬間、脳天に稲妻が直撃したような衝撃を感じた。
そうかっ!
無限にある数値を使えば、全ての投入パターンを数値に置き換えさせることができるじゃない!
例えば、Aに5色とも入っているなら「1」、
Aに赤以外の4色が入っていてBに赤が入っている場合は「2」、
Aに赤以外の4色が入っていてCに赤が入っている場合は「3」、
Aに赤以外の4色が入っていて赤がどこにも入っていない場合は「4」
……というように質問はかなり長くなってしまうけど、全てのパターンを数値化すれば、『親』がどこに何を投入しようと、その全てを把握することができる。
まさにウルトラCの質問。
私って、すごいじゃない!
見つけた自分に、沙織は拍手を送りたくなった。
でも次の瞬間、
……駄目じゃん!
現実を思い出し、沙織は急にテンションを下げた。
主催者はそれは許さんとして「質問は70文字以内」という制限を設けていたんだ。
やられた!
主催者はそこまで見透かしていたということか。
ちなみに質問が70文字を超えようとするとどうなるのか。
試しに適当な文章を書いてみた。
すると3行目に跨る時、ロックが掛かって改行ができなかった。
なるほど……。
沙織は主催者の抜け目のなさに感心した。
同時に落胆が全身を襲った。
せっかくウルトラCの質問を発見したのに、それはすでに主催者に防御されていた。
つまりそれは何も見つけてないのと同じこと。
悔しい~~~。
せっかく閃いたっていうのに……。
沙織は完全に手詰まり状態になり、意気消沈の中、3つ目の質問を書き入れた。
《 玄 》 Bに白は入っていますか?
《サクラ》 はい。
『親』サクラの投入結果が発表された。
A→黄
B→緑 白
続いて『子』沙織の投入結果。
B→白
C→赤 青 黄 緑
サクラに更に8P稼がれ、その差は絶望的な26Pと広がった。