第二章 IN THE BOX(1)

文字数 3,657文字

 パソコン画面上にメッセージが現れた。

「セカンドステージ進出おめでとうございます。
 Bブロックのセカンドステージ進出者は9名です。
 セカンドステージは予選と本戦に分かれています。
 予選で上位2位タイまでに入れば本戦に出場することができます。
 セカンドステージ予選の開始時間は午前3時です。

 セカンドステージ予選で行うゲームは、
 『IN THE BOX』です。

 ルールを説明します。
 このゲームではみなさまがファーストステージで獲得したファイブカードを使用します。
 ただし、今回は色の優位性はありません。赤も白も同じ価値です。
 ゲームが始まると画面の左側上部にプレイヤーの順番表が表示されます。
 順番は【IN THE BOX バトルへ】のボタンがクリックされた順となります。

 最初は1番目のプレイヤーの名前が明るくなっています。明るくなっているプレイヤーが『親』で、残りのプレイヤーが『子』となります。
 『親』は順番に回っていき、2巡した時点でゲーム終了です。
 このゲームは『親』の時、いかに『子』にブロック(指摘)されずにカードをパス(通過)させるかを得点で競うゲームです。
 
 画面左側の下部に3つのBOXが表示されています。
 左からA、B、Cです。
 プレイヤーは『親』の時、手持ちのカードを制限時間3分以内に3つのBOXの中に入れることができます。カードはドラッグで移動できます。どこに何枚入れてもかまいません。
 BOXには得点がついています。
 Aは3点、Bは2点、Cは1点です。
 例えばAのBOXで2枚パスさせると、3点×2=6点が『親』に入ります。
 
 『子』はプレイヤー1人につき1つの質問を『親』にすることができます。チャットの要領で質問して下さい。画面右側に表示されます。
 質問の順番は順番表の通りで、『親』の次のプレイヤーから開始されます。ご自分の質問の順番になりましたら5分以内に質問して下さい。
 質問は、答えが二者択一となる形式のみとします。
 『親』は『子』の質問に対して1分以内に正直かつ簡潔に答を書いてください。
 答えが二択にならないと主催者側が判断した場合は、主催者側より質問の『無効』を表示します。主催者側が気付かなかった場合でも、『親』が二者択一になっていないと判断した場合はチャット内に『無効』と書き入れることにより『無効』を訴えることができます。主催者が認めれば『無効』となります。『無効』となった質問は取り消されますので、『子』は質問をやり直して下さい。
 『子』の質問に対して『親』が虚偽の回答をした場合は、強制的にリタイアとなり、ペナルティとしてこれまでのカード購入代金の倍額を支払って頂きます。
 質問は最後に【送信】ボタンをクリックした時点で他のプレイヤーの画面にアップされます。それまでは他のプレイヤーに質問内容は見られませんので、何度書き直してもかまいません。
 
 プレイヤーはこのゲーム中、1度だけ自分の質問に対して『特許申請』をすることができます。質問をする前に【特許申請】ボタンをクリックしてから質問をして下さい。質問の最初に㊕マークが付きます。
 特許申請されたものと同内容の質問は、他のプレイヤーはすることができません。
 特許侵害と主催者が判断した場合は、質問の『無効』を表示します。
 予選で獲得した特許権は本戦でも継続します。

 全員の質問が終了すると、『子』の画面左下にA、B、C3つのBOXと5色のカードが出現します。
 5分以内に『親』の入れたカードを予想し、1人につき1枚だけカードをBOXに投入して下さい。
 他のプレイヤーがどこに投入したかは分かりません。
 全てのプレイヤーの投入が終了するか、または5分経った時点でチェックとなります。

 『親』は『子』にブロックされていないカードがパスとなり得点が表示されます。

 プレイヤーが『親』の順番となっても、手持ちのカードがない場合は自動的に次のプレイヤーに『親』が移ります。
 最終的に、得点の高い方から上位2位タイまでが本戦進出となります。
 以上で『IN THE BOX』の説明を終ります。
 プレイヤーはゲーム開始となる午前3時までに【IN THE BOX バトルへ】のボタンをクリックしてください。
                     【IN THE BOX バトルへ】  」

 9人か……。
 沙織はその数字に暫く感慨にふけった。
 75人いたBブロックがたった9人になった。
 自分がこの場に残れたの本当に奇跡と言ってもいいかもしれない。
 そしてこのセカンドステージ予選終了後にはたった二人に絞られてしまう。
 
 このブロックには絶対的な実力者、王のような存在、Wがいる。
 彼がひとつのシートを獲得するとすれば残るシートはひとつしかない。
 果たして私はそれを勝ち取ることができるのだろうか?

 沙織は時計を見て、ゲーム開始まであと52分であることを確認した。
 それまでにこのゲームを理解し、戦い方を考えなければならない。

 『親』の投入パターンは、カードの色が5種類でBOXは3種類だからは5×3で15パターン。
 それに対して『子』は各々勝手に高得点を阻止しようと動くと得点の高いAにばかりブロックが集中してしまい、結果B、Cでの得点を許しかねない。
 となるとこのゲームの鍵は『親』の投入方法ではなく『子』の質問にあると考えるのが妥当だ。
 どう効率よく質問し、『親』の投入箇所を特定していくか。

 いくつか『子』の質問を想定してみた。
 すると、答えが二者択一という条件では、『親』の投入を全てカバーする質問はないことが分かった。
 例えば「Aには赤のカードが入っていますか?」というような投入箇所と色を限定した質問は「Aの赤」1パターンしかカバーしていないため、答えが『いいえ』の場合は14パターンが残ってしまう。
 となるともっとカバー率を上げるために抽象的な質問、例えば「赤はどこかのBOXには入っていますか?」というようなBOXを限定しない質問が一見有効そうに見えるけど、それは誤りだとすぐに気が付いた。
 何故なら答えが『いいえ』であってくれれば、赤はどこにも入ってないことが分かるけれど、もし『はい』になった場合は、赤はどこかのBOXには入っているという情報は得ることができるものの、どこに入っているかは特定できないため、結局15パターンがそのまま残ってしまうからだ。
 これではまったく『親』を追い込むことができない。

 どうやったら効率よく『親』を追い込むことができるか?
 そのための重要ポイントは、プレイヤーは『子』である時、他の『子』のプレイヤーと仲間であるということだと沙織は考えた。
 敵ではなく仲間として協力して質問すれば『親』を囲い込むように追い込むことができる。
 問題はそういった協力がこのサバイバル頭脳バトルの場で得られるかどうか? 
 反対に自分が『親』になった時、『子』が協力して攻めて来くると想定した場合、どういう投入をしていればよいか?

 次に考えるべきことは、『親』の投入が2巡ということについて。
 予想していた通り、このステージではファーストステージで獲得したカード枚数が重要となってきた。
 現時点でWが私よりカード枚数が上回っているのは間違いない。
 あとは、他のプレイヤーがどれぐらいのカードを持っているか?
 自分のカード枚数12枚はどれくらいの位置にいるか? 
 それによって作戦も違ってくる。

 1巡目は投入数量を減らして様子を見ていくのが無難そうだ、と沙織は考えた。
 私よりカード枚数が多いプレイヤーが多ければ彼らに潰し合いをしてもらいたいし、私のカード枚数が多い方だったら、Wに目立ってもらってその隙にこっそり2位突破するのが理想的。
 だから1巡目は様子を見るべき。
 沙織は最初そういう作戦を立てたが、すぐに考えを改めた。

 クイック・リッチ・クラブはそんな安易に考えて突破できるゲームじゃない。
 それはファーストステージで十分学んだはずだ。
 この場はプレイヤー同士の、はたまた主催者とプレイヤーとの究極の頭脳ゲームバトル。
 1巡目は様子見、なんて言っている余裕があるはずがない。
 考えてみれば仮にWに次ぐ2位で予選を突破したって、本戦では間違いなくそのWと対峙しなければならない。

 Wと1対1の対戦となった時、私は彼を討ち倒せるの? 

 漆黒の巨人が沙織の脳裏に浮かんだ。
 今にも踏みつぶされそうなほど巨大な体躯は、他を圧倒的な威圧感で凌駕する覇王に見えた。
 沙織はごくりと生唾を呑み込んだ。
 こんな化け物とまともに戦って、勝てるはずがない。
 でもどこかで倒さなければいけないのなら、他のプレイヤーと力を結束してこのセカンドステージ予選で倒すしかない。
 今ならWといえどもファーストステージで得たアドバンテージがあるために、多少なりとも油断が生じているかもしれない。

 Wはこの予選で打ち倒す!
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