第三章 IN THE BOX Ⅱ(6)
文字数 2,776文字
第4戦、沙織の『親』番。
圧倒的なポイント差を前に沙織は笑った。
こうなったら意地でも「回答は1単語」と「質問は70文字以内」にこだわってやるわ。
立ち上がって腕をぐるぐる回し、屈伸をしてもう一度考え直すための臨戦態勢を整えた。
「質問は70文字以内」という制限の理由は、パターンを数値化する質問を防ぐため、という一応の理由は見つかった。
だけど腑に落ちない。
そこまでするくらいなら予選と同じ二者択一のままで良かったじゃない、と思うからである。
確かに質問の幅をもたせることでゲームの面白みは深まった。
だけど幅を持たせたことで、質問によっては序盤で勝負が決まってしまうような決定的な特許が出てしまう怖れも出た。
そのリスクの軽減のため「特許は1戦につき1つまで」という制限を設けたのでしょうけど、見方を変えると、主催者はそこまでしてでも本戦は回答が1単語となる形式にしたかった。
理由は、「ここに主催者が求める何かがあるから」と考えるのは私の勘繰り過ぎ?
《サクラ》 Bに何枚お入れになりましたか?
《 玄 》 3枚
《サクラ》 青はどこにお入れになりましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
《 玄 》 D
《サクラ》 緑はどこにお入れになりましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
《 玄 》 B
サクラは相変わらず、時間を置かずに質問をしてくる。早く回答しろ、とせっついているようにも取れる。
でも沙織はその誘いには乗らず、回答までの制限時間を目一杯使って、起死回生の奇策を探しを続けた。
私はただヤケになって、ないものを探しているだけなのだろうか?
不安になり、気持ちが沈んでくる。
——もう諦めたら? 心の中の誰かがそう誘ってくる。
諦めたら楽になるよ、と。
そうかもしれない。一瞬、そんな気になる。
でもその度ごとに顔を振って、まだまだと反発する。
私、しつこさには自信があるんだよね。
——他の可能性も探してみたら?
もっともらしい甘い誘惑も投げかけてくる。
そんな手には乗らないわよ。
あるとしたらここ、「回答は1単語」か「質問は70文字以内」しかないじゃない。
強い意思で悪魔の囁きを突き返す。
第4戦の沙織『親』番の結果発表がやってきた。
A→白
B→赤 黄 緑
『子』サクラの投入結果。
B→赤 黄 緑 白
サクラを真似てAに1枚だけ投入してみた。
2つ目の特許質問があるので清水の舞台から飛び降りるような心境だったけど、運よくAに投げ入れた白を質問されずに済んだ。
今後の展開を考えると、ここら辺でAにも行けるところを見せておかないとサクラにプレッシャーをかけられないと考えた上での強行策だった。
見つかったら見つかった時、との開き直ったことが好結果を招いた。
何度も使える手でないのは百も承知。
だけど、初めて『親』でポイントらしいポイントを挙げることができた。
とにかく今は喰らいついていくしかない。
起死回生のヒント探しは、出口の見えない洞窟の中を彷徨っているような感じだった。
もう少し時間を掛けて考えれば何かが出てきそうな予感はあるけど、その間にサクラにポイントを加算されていては、たとえ奇策が見つかったとしても残りゲームでの挽回は不可能となる。
何とか、今回のサクラの『親』番だけでも失点を抑えることができないか?
このところのサクラの投入パターンは決まっている。
Aに1枚、Bに2枚のパターンだ。
分かっていてもこれを防ぐ有効な手立てがないから、サクラもこの投入を続けている。
特に、たった1枚のAが曲者だ。
「Aに赤は入っているか?」の質問パターンでうまく5分の1の確率を言い当てることできればいいけど、言い当てることができず、質問3つ使ってもまだ分らなかった場合、Aに絶対1枚は入っているという保証がない以上、Aのブロックには行きにくい。
その上、Bの情報も何も得られていないためBにも投入できず、これまで通りにサクラにいいようにカードをパスされてしまう。
「Aに入っているたった1枚のカードを見つける劇的な方法なんて……」
沙織は空を仰いで考える。
「……あるわけないよね」
自分で描いた夢物語に、自分で苦笑した。
その時、何かが引っ掛かった。
1枚?
指をこめかみに当て考える。
1枚……、1単語……、1色……。
えっ!?
驚きというより戸惑いを感じた。
こんな単純な質問がまだ残いていたの?
ただし使えるのは1回きりだ。次の回にはすぐに防御策をとられてしまう。
でも今回の大量失点が防げればそれで充分。うまくいけばサクラの『親』番でこちらがポイントを加算できるかもしれない。
浮つく気持ちを静めながら、沙織はサクラに同じ質問を使われないように特許申請のボタンをクリックしてから質問を始めた。
《 玄 》 ㊕Aに入っているカードは何色ですか? 複数なら黒、1枚も入っていないなら紫とお答え下さい。
テニスのラリーのように質問すればすぐに打ち返してきていたサクラの回答が、初めて止まった。
彼女は間違いなく動揺している。
サクラの鉄壁の要塞に、ほんの一筋亀裂が入った。
《サクラ》 白
よっしっ!!
沙織はサービスエースを決めたかのようにガッツポーズをした。
Aを見つけた。
いつも5P獲られるところを、反対に3P奪い取ることができる。
次からはAへの投入が1枚ということはないでしょうけど、1回凌げれば十分。時間稼ぎとしては上出来だ。
あとはこうやって粘っている間に一発逆転の奇策を見つけられればいいんだけど、そっちの方はまだ取っ掛かりすら見つからないのよね。
《 玄 》 Bに青は入っていますか?
《サクラ》 はい。
《 玄 》 Bに緑は入っていますか?
《サクラ》 いいえ。
『親』サクラの投入結果が発表された。
A→『白』
B→『赤』 『青』
続いて『子』沙織の投入結果。
A→『白』
B→『赤』 『青』 『黄』
わずか1Pではあるけど、初めてサクラの『親』でポイントを縮めることができた。
Bにもいつも通り2枚投入してあることに賭け、そこに果敢に挑んだ勇気が好結果をもたらした。
それでもあと18P差ある。あと3戦で追いつくことができるのか?
数字だけを見ればサクラのリードは圧倒的で、実力からしてもセーフティリードと言ってもいいかもしれない。
でももし、彼女が『親』での初失点という予想外の結果に動揺し、少しでも焦りを感じているのであれば、つけ入るチャンスはある。
まだまだ逆転は可能よ!
その逆転の足掛かりとなる伏線が、先程の第4戦、自分が『親』の時に偶然現れていたのを沙織は見逃さなかった。
まだツキは残っている。
「待っててね、サクラちゃん。今に追いついてあげるから」
圧倒的なポイント差を前に沙織は笑った。
こうなったら意地でも「回答は1単語」と「質問は70文字以内」にこだわってやるわ。
立ち上がって腕をぐるぐる回し、屈伸をしてもう一度考え直すための臨戦態勢を整えた。
「質問は70文字以内」という制限の理由は、パターンを数値化する質問を防ぐため、という一応の理由は見つかった。
だけど腑に落ちない。
そこまでするくらいなら予選と同じ二者択一のままで良かったじゃない、と思うからである。
確かに質問の幅をもたせることでゲームの面白みは深まった。
だけど幅を持たせたことで、質問によっては序盤で勝負が決まってしまうような決定的な特許が出てしまう怖れも出た。
そのリスクの軽減のため「特許は1戦につき1つまで」という制限を設けたのでしょうけど、見方を変えると、主催者はそこまでしてでも本戦は回答が1単語となる形式にしたかった。
理由は、「ここに主催者が求める何かがあるから」と考えるのは私の勘繰り過ぎ?
《サクラ》 Bに何枚お入れになりましたか?
《 玄 》 3枚
《サクラ》 青はどこにお入れになりましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
《 玄 》 D
《サクラ》 緑はどこにお入れになりましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
《 玄 》 B
サクラは相変わらず、時間を置かずに質問をしてくる。早く回答しろ、とせっついているようにも取れる。
でも沙織はその誘いには乗らず、回答までの制限時間を目一杯使って、起死回生の奇策を探しを続けた。
私はただヤケになって、ないものを探しているだけなのだろうか?
不安になり、気持ちが沈んでくる。
——もう諦めたら? 心の中の誰かがそう誘ってくる。
諦めたら楽になるよ、と。
そうかもしれない。一瞬、そんな気になる。
でもその度ごとに顔を振って、まだまだと反発する。
私、しつこさには自信があるんだよね。
——他の可能性も探してみたら?
もっともらしい甘い誘惑も投げかけてくる。
そんな手には乗らないわよ。
あるとしたらここ、「回答は1単語」か「質問は70文字以内」しかないじゃない。
強い意思で悪魔の囁きを突き返す。
第4戦の沙織『親』番の結果発表がやってきた。
A→白
B→赤 黄 緑
『子』サクラの投入結果。
B→赤 黄 緑 白
サクラを真似てAに1枚だけ投入してみた。
2つ目の特許質問があるので清水の舞台から飛び降りるような心境だったけど、運よくAに投げ入れた白を質問されずに済んだ。
今後の展開を考えると、ここら辺でAにも行けるところを見せておかないとサクラにプレッシャーをかけられないと考えた上での強行策だった。
見つかったら見つかった時、との開き直ったことが好結果を招いた。
何度も使える手でないのは百も承知。
だけど、初めて『親』でポイントらしいポイントを挙げることができた。
とにかく今は喰らいついていくしかない。
起死回生のヒント探しは、出口の見えない洞窟の中を彷徨っているような感じだった。
もう少し時間を掛けて考えれば何かが出てきそうな予感はあるけど、その間にサクラにポイントを加算されていては、たとえ奇策が見つかったとしても残りゲームでの挽回は不可能となる。
何とか、今回のサクラの『親』番だけでも失点を抑えることができないか?
このところのサクラの投入パターンは決まっている。
Aに1枚、Bに2枚のパターンだ。
分かっていてもこれを防ぐ有効な手立てがないから、サクラもこの投入を続けている。
特に、たった1枚のAが曲者だ。
「Aに赤は入っているか?」の質問パターンでうまく5分の1の確率を言い当てることできればいいけど、言い当てることができず、質問3つ使ってもまだ分らなかった場合、Aに絶対1枚は入っているという保証がない以上、Aのブロックには行きにくい。
その上、Bの情報も何も得られていないためBにも投入できず、これまで通りにサクラにいいようにカードをパスされてしまう。
「Aに入っているたった1枚のカードを見つける劇的な方法なんて……」
沙織は空を仰いで考える。
「……あるわけないよね」
自分で描いた夢物語に、自分で苦笑した。
その時、何かが引っ掛かった。
1枚?
指をこめかみに当て考える。
1枚……、1単語……、1色……。
えっ!?
驚きというより戸惑いを感じた。
こんな単純な質問がまだ残いていたの?
ただし使えるのは1回きりだ。次の回にはすぐに防御策をとられてしまう。
でも今回の大量失点が防げればそれで充分。うまくいけばサクラの『親』番でこちらがポイントを加算できるかもしれない。
浮つく気持ちを静めながら、沙織はサクラに同じ質問を使われないように特許申請のボタンをクリックしてから質問を始めた。
《 玄 》 ㊕Aに入っているカードは何色ですか? 複数なら黒、1枚も入っていないなら紫とお答え下さい。
テニスのラリーのように質問すればすぐに打ち返してきていたサクラの回答が、初めて止まった。
彼女は間違いなく動揺している。
サクラの鉄壁の要塞に、ほんの一筋亀裂が入った。
《サクラ》 白
よっしっ!!
沙織はサービスエースを決めたかのようにガッツポーズをした。
Aを見つけた。
いつも5P獲られるところを、反対に3P奪い取ることができる。
次からはAへの投入が1枚ということはないでしょうけど、1回凌げれば十分。時間稼ぎとしては上出来だ。
あとはこうやって粘っている間に一発逆転の奇策を見つけられればいいんだけど、そっちの方はまだ取っ掛かりすら見つからないのよね。
《 玄 》 Bに青は入っていますか?
《サクラ》 はい。
《 玄 》 Bに緑は入っていますか?
《サクラ》 いいえ。
『親』サクラの投入結果が発表された。
A→『白』
B→『赤』 『青』
続いて『子』沙織の投入結果。
A→『白』
B→『赤』 『青』 『黄』
わずか1Pではあるけど、初めてサクラの『親』でポイントを縮めることができた。
Bにもいつも通り2枚投入してあることに賭け、そこに果敢に挑んだ勇気が好結果をもたらした。
それでもあと18P差ある。あと3戦で追いつくことができるのか?
数字だけを見ればサクラのリードは圧倒的で、実力からしてもセーフティリードと言ってもいいかもしれない。
でももし、彼女が『親』での初失点という予想外の結果に動揺し、少しでも焦りを感じているのであれば、つけ入るチャンスはある。
まだまだ逆転は可能よ!
その逆転の足掛かりとなる伏線が、先程の第4戦、自分が『親』の時に偶然現れていたのを沙織は見逃さなかった。
まだツキは残っている。
「待っててね、サクラちゃん。今に追いついてあげるから」