第一章 ファイブカード(8)
文字数 3,274文字
休憩前、そのプレイヤーのカード交換のチャンスは2回。
その中で、もっとも手役がよくなる場合を考える。
『ブタ』の状態から1回目のカード交換で出来る役はワンペアかツーペアしかない。
仮に緑のワンペアができたと仮定する。
2回目の交換ではどうか?
相手が『ブタ』なら緑をもう1枚もらって緑のスリーカードを作れるけど、別の色をもらってツーペアというのもあり得る。相手がワンペアまたはスリーカードができている場合も、できているペアを崩すはずはないから『ブタ』の場合と同様に1枚もらってスリーカードまたはツーペアにしかなりえない。
だけど相手がツーペアだと違う可能性が出てくる。
普通はできているペアを差し出すなんて考えにくいけど、その相手が手役よりも赤の優位性を重んじるならば話が別。
仮にそのプレイヤーの持っているカードが赤と緑のツーペアであったとし、このプレイヤーは何を置いてよりも赤を集めることが重要だと考えていれば緑のペアを犠牲にしてでも赤を手に入れようとするかもしれない。
つまり偶然的にもこういった思考のプレイヤーに出会えば、2回のカード交換で緑のフォーカードを作ることも可能だということだ。
では1回目の交換でツーペアができていた場合はどうなるか?
仮に緑と白のツーペアができたとする。
こっちの方が推測は簡単。
2回目のカード交換で手役がよくなるのは、緑又は白を入手してフルハウスを完成させるぐらいしかない。1回目のカード交換で赤を温存することができていれば案外このフルハウスはすんなり出来るかもしれない。
可能性だけの話をすれば、相手にもツーペアが出来ていて2枚同士の大型トレードで一気にフォーカードという可能もなくはないけど、現実的には難しいと思う。
よって休憩前のそのプレイヤーの手役は最高でもフォーカードしかなく、それも偶然的に相手に恵まれた場合の話で、普通ならスリーカードかツーペア、または1回目にツーペアができた場合のフルハウスがいいところでしょう。
そして休憩後、バトルを逃れ続けただけで手役が上がってないとしたら、最高手役はフォーカードのまま。私の白のファイブカードで勝つことができる。
ついにターゲットを見つけた。
そのプレイヤーの名前はW。
沙織は沸き上がってくる興奮を噛みしめながらWの文字を見据えた。
最初はねずみ女に拒否されるか引き分けになった場合の押さえ候補だったけど、勝つ可能性が高いなら急遽バトル候補本命に格上げだ。
善は急げ。
他のプレイヤーが捕らえる前に、私がWを捕まえてみせる。
【EXIT】ボタンをクリックし休憩モードから通常モードに戻った。
【REST】ボタンはその瞬間に黒くなった。もう使えないということだ。いや、使うつもりなんてさらさらない。
私はこれからWを倒し、セカンドステージ進出を決めるんだから。
Wは明かりがついていて誰かとトーク中だけど、いつトークが終わってもいいようにの名前の上にカーソルを合わせクリック連打を開始した。
クリック連打を続けていると、自分の気持ちが少しずつ狂気に変わっていくのが分かる。
これがハンターの心境か。
さあ早く、早くトーク終わって!
私とバトルするのよっ!
心の中で沙織は叫んでいた。
Wの明かりが消えた。
「来たーーーーーーっ!!」
沙織は一心不乱に指先を超高速連打させた。
「うおぉぉぉぉーーーーーっ!!」
夜中ということもあり、これまでは声を抑えていたけど、もう抑えきれない。
絶叫が部屋中にこだまする
Wの明かりがついた。
すぐにリスト上の玄を見た。
だけど玄には明かりがついていなかった。
Wを捕えられなかった。トークに逃げられたか、他の誰かに捕まったかだ。
「なんでよっ!」
沙織は拳をデスクに叩きつけて憤った。
だけどWは誰かに捕まったと決まったわけではない。今回もバトル逃れのトークならセカンドチャンスがやってくる。
やってやろーじゃない。破産寸前元女子大生をなめんなよ!
両手をパソコンの前に出し、グーパーグーパーして緊張をほぐした。
さあいらっしゃい。私の本気を見せてやるわ。
マウスクリックではスピード負けする。キーボードの下方にあるタッチパッドを指タップする方が速いと考えた。
右手人差し指に意識を集中し、最初はリズムを刻むように軽快にタップを始めた。それから徐々にスピードをアップさせ、いつでもMAXの状態にもっているよう心の準備をする。
なかなかWの明かりが消えない。これまでよりトーク時間が長いように感じる。
まさか、今頃になってカード交渉がうまくいっているんじゃないでしょうね。
嫌な胸騒ぎはするけど、いまさら作戦の変更なんてできない。ここまできたら自分の悪運が残っているのを信じて突っ切るのみ。
神様、私にチャンスをください!
懇願しながら、沙織は連打のスピードをMAXにもっていた。
Wの明かりが消えた。
「行けぇーーーーーーーーー!!」
髪を振り乱し、電動ハブラシさながらに右手人差し指を振動させた。
お願い、Wを捕まえて!
息が切れるまで連打を続けた。
ハッと画面を見た。
Wに明かりがついている。
そして玄にも、煌々とまばゆいばかりに明かりがともっている。
「やった……」安堵のため息とともに呟いた。
漸くWを捕まえることができた。
沙織は肩で息をしながら、目にはうっすらと涙を浮かばせていた。
椅子の背に身体をあずけ、目を閉じてゆっくりと呼吸しながら気持ちを落ち着かせる。
ここまで本当に長かった。だけど勝負はこれから。このバトルに勝ち、優勝しなければこれまでの努力も苦労も水の泡となる。
よし、勝負!
目を開け、満を持して【BATTLE】ボタンをクリックした。
Wは『R』4つのため自動的にバトル突入となる。
画面が切り替わり下半分に玄の白のカードが5枚並んだ。上部には黒のカードが5枚並んでいる。Wのカードの裏面のようだ。
「バトルを開始しします」というメッセージが画面中央、カードとカードの間に現れた。
勝つと信じてはいるけど、沙織の鼓動は早鐘のように激しく波打っていた。
Wの左上のカード1枚が音をたててめくられた。
赤だった。
おそらくWには玄のカードが1枚めくられ、白が見えていることでしょう。
Wが赤を持っているということは計算上フォーカードもない。彼の手役は赤のスリーカードかツーペア。
2枚目がめくられた。予想通り赤。
次の1枚でスリーカードかツーペアかが分かる。
3枚目も赤だった。
やるわね。2回の交渉でちゃんと赤3枚をゲットしている。さすがはメッセージコマンドを移動するバトル逃れのトークを見つけたプレイヤーだ。
ここまでは計算通り。
今頃あなたははこちらの白3枚を見て、胸の前で手を組んで次が白でないことを祈っているのでしょうね。でもね、申し訳ないけど私のカードは次も白なのよ。そしてその次も白。
ごめんあそばせ、とばかりに沙織はふふふと笑った。
Wの4枚目がめくられた。赤だった。
えっ!?
思わぬ展開に、沙織は口をポカンと開けた。
どういうこと? 2回のカード交換で赤4枚を手に入れる方法なんて……。
動揺しながらも、その理由を考えた。
そうか! さっきの少し長く感じたトークの中でもう1枚の赤を手に入れたのね。
理由が見つかり少し安堵した。それでもフォーカードが限界だ。
今の段階で赤を2枚差し出すプレイーなんているはずないから、ファイブカードは事実上不可能。
もしそれができていたら、それは奇跡じゃなく、タネのあるマジックか超常現象の類だ。
勝ちを確信した沙織は画面上の赤のフォーカードを見て笑いかけた。
でもその笑いが何故か引き攣った。
論理的根拠は全くないけど、何か予想もつかないとんでもないことが起るような、そんな胸騒ぎを肌が感じていた。
Wの5枚目のカードがめくられた。赤。
胸騒ぎは、すぐに現実のものとなった。
画面中央に「YOU LOSE」の文字が現れた。
その中で、もっとも手役がよくなる場合を考える。
『ブタ』の状態から1回目のカード交換で出来る役はワンペアかツーペアしかない。
仮に緑のワンペアができたと仮定する。
2回目の交換ではどうか?
相手が『ブタ』なら緑をもう1枚もらって緑のスリーカードを作れるけど、別の色をもらってツーペアというのもあり得る。相手がワンペアまたはスリーカードができている場合も、できているペアを崩すはずはないから『ブタ』の場合と同様に1枚もらってスリーカードまたはツーペアにしかなりえない。
だけど相手がツーペアだと違う可能性が出てくる。
普通はできているペアを差し出すなんて考えにくいけど、その相手が手役よりも赤の優位性を重んじるならば話が別。
仮にそのプレイヤーの持っているカードが赤と緑のツーペアであったとし、このプレイヤーは何を置いてよりも赤を集めることが重要だと考えていれば緑のペアを犠牲にしてでも赤を手に入れようとするかもしれない。
つまり偶然的にもこういった思考のプレイヤーに出会えば、2回のカード交換で緑のフォーカードを作ることも可能だということだ。
では1回目の交換でツーペアができていた場合はどうなるか?
仮に緑と白のツーペアができたとする。
こっちの方が推測は簡単。
2回目のカード交換で手役がよくなるのは、緑又は白を入手してフルハウスを完成させるぐらいしかない。1回目のカード交換で赤を温存することができていれば案外このフルハウスはすんなり出来るかもしれない。
可能性だけの話をすれば、相手にもツーペアが出来ていて2枚同士の大型トレードで一気にフォーカードという可能もなくはないけど、現実的には難しいと思う。
よって休憩前のそのプレイヤーの手役は最高でもフォーカードしかなく、それも偶然的に相手に恵まれた場合の話で、普通ならスリーカードかツーペア、または1回目にツーペアができた場合のフルハウスがいいところでしょう。
そして休憩後、バトルを逃れ続けただけで手役が上がってないとしたら、最高手役はフォーカードのまま。私の白のファイブカードで勝つことができる。
ついにターゲットを見つけた。
そのプレイヤーの名前はW。
沙織は沸き上がってくる興奮を噛みしめながらWの文字を見据えた。
最初はねずみ女に拒否されるか引き分けになった場合の押さえ候補だったけど、勝つ可能性が高いなら急遽バトル候補本命に格上げだ。
善は急げ。
他のプレイヤーが捕らえる前に、私がWを捕まえてみせる。
【EXIT】ボタンをクリックし休憩モードから通常モードに戻った。
【REST】ボタンはその瞬間に黒くなった。もう使えないということだ。いや、使うつもりなんてさらさらない。
私はこれからWを倒し、セカンドステージ進出を決めるんだから。
Wは明かりがついていて誰かとトーク中だけど、いつトークが終わってもいいようにの名前の上にカーソルを合わせクリック連打を開始した。
クリック連打を続けていると、自分の気持ちが少しずつ狂気に変わっていくのが分かる。
これがハンターの心境か。
さあ早く、早くトーク終わって!
私とバトルするのよっ!
心の中で沙織は叫んでいた。
Wの明かりが消えた。
「来たーーーーーーっ!!」
沙織は一心不乱に指先を超高速連打させた。
「うおぉぉぉぉーーーーーっ!!」
夜中ということもあり、これまでは声を抑えていたけど、もう抑えきれない。
絶叫が部屋中にこだまする
Wの明かりがついた。
すぐにリスト上の玄を見た。
だけど玄には明かりがついていなかった。
Wを捕えられなかった。トークに逃げられたか、他の誰かに捕まったかだ。
「なんでよっ!」
沙織は拳をデスクに叩きつけて憤った。
だけどWは誰かに捕まったと決まったわけではない。今回もバトル逃れのトークならセカンドチャンスがやってくる。
やってやろーじゃない。破産寸前元女子大生をなめんなよ!
両手をパソコンの前に出し、グーパーグーパーして緊張をほぐした。
さあいらっしゃい。私の本気を見せてやるわ。
マウスクリックではスピード負けする。キーボードの下方にあるタッチパッドを指タップする方が速いと考えた。
右手人差し指に意識を集中し、最初はリズムを刻むように軽快にタップを始めた。それから徐々にスピードをアップさせ、いつでもMAXの状態にもっているよう心の準備をする。
なかなかWの明かりが消えない。これまでよりトーク時間が長いように感じる。
まさか、今頃になってカード交渉がうまくいっているんじゃないでしょうね。
嫌な胸騒ぎはするけど、いまさら作戦の変更なんてできない。ここまできたら自分の悪運が残っているのを信じて突っ切るのみ。
神様、私にチャンスをください!
懇願しながら、沙織は連打のスピードをMAXにもっていた。
Wの明かりが消えた。
「行けぇーーーーーーーーー!!」
髪を振り乱し、電動ハブラシさながらに右手人差し指を振動させた。
お願い、Wを捕まえて!
息が切れるまで連打を続けた。
ハッと画面を見た。
Wに明かりがついている。
そして玄にも、煌々とまばゆいばかりに明かりがともっている。
「やった……」安堵のため息とともに呟いた。
漸くWを捕まえることができた。
沙織は肩で息をしながら、目にはうっすらと涙を浮かばせていた。
椅子の背に身体をあずけ、目を閉じてゆっくりと呼吸しながら気持ちを落ち着かせる。
ここまで本当に長かった。だけど勝負はこれから。このバトルに勝ち、優勝しなければこれまでの努力も苦労も水の泡となる。
よし、勝負!
目を開け、満を持して【BATTLE】ボタンをクリックした。
Wは『R』4つのため自動的にバトル突入となる。
画面が切り替わり下半分に玄の白のカードが5枚並んだ。上部には黒のカードが5枚並んでいる。Wのカードの裏面のようだ。
「バトルを開始しします」というメッセージが画面中央、カードとカードの間に現れた。
勝つと信じてはいるけど、沙織の鼓動は早鐘のように激しく波打っていた。
Wの左上のカード1枚が音をたててめくられた。
赤だった。
おそらくWには玄のカードが1枚めくられ、白が見えていることでしょう。
Wが赤を持っているということは計算上フォーカードもない。彼の手役は赤のスリーカードかツーペア。
2枚目がめくられた。予想通り赤。
次の1枚でスリーカードかツーペアかが分かる。
3枚目も赤だった。
やるわね。2回の交渉でちゃんと赤3枚をゲットしている。さすがはメッセージコマンドを移動するバトル逃れのトークを見つけたプレイヤーだ。
ここまでは計算通り。
今頃あなたははこちらの白3枚を見て、胸の前で手を組んで次が白でないことを祈っているのでしょうね。でもね、申し訳ないけど私のカードは次も白なのよ。そしてその次も白。
ごめんあそばせ、とばかりに沙織はふふふと笑った。
Wの4枚目がめくられた。赤だった。
えっ!?
思わぬ展開に、沙織は口をポカンと開けた。
どういうこと? 2回のカード交換で赤4枚を手に入れる方法なんて……。
動揺しながらも、その理由を考えた。
そうか! さっきの少し長く感じたトークの中でもう1枚の赤を手に入れたのね。
理由が見つかり少し安堵した。それでもフォーカードが限界だ。
今の段階で赤を2枚差し出すプレイーなんているはずないから、ファイブカードは事実上不可能。
もしそれができていたら、それは奇跡じゃなく、タネのあるマジックか超常現象の類だ。
勝ちを確信した沙織は画面上の赤のフォーカードを見て笑いかけた。
でもその笑いが何故か引き攣った。
論理的根拠は全くないけど、何か予想もつかないとんでもないことが起るような、そんな胸騒ぎを肌が感じていた。
Wの5枚目のカードがめくられた。赤。
胸騒ぎは、すぐに現実のものとなった。
画面中央に「YOU LOSE」の文字が現れた。