第一章 ファイブカード(2)
文字数 3,412文字
薄いグリーン色の背景が現れ、軽快なジャズ音楽が聞こえてきた。カジノの雰囲気が漂う。
画面左側にはルール表に書かれていた通りプレイヤーリストがあった。その上にBブロックとある。沙織はBブロックということだ。
リストの中の上から4段目、右から2列目の位置に自分のアカウント名「玄」を見つけた。女っぽい名前だと舐められると考えて、「玄人」から一文字とって玄とした。これなら少しは警戒してもらえるはずだ。
画面右側の上段には5枚のカードが並んでいる。左から赤、青、黄、緑、白。カードの強い順だ。
そのカードの下、画面右側の中央部分は何もないスペースが広がっていて、下段には【TALK】、【BATTL】、【REST】、【RETIRE】などのいくつかのボタンが並んでいる。
一通り画面を観察している間に、早くもリスト上のごんべぇとさっちんの名前が明るくなった。カード交換のトークが始まったのだ。それを皮切りに次々とリスト上の名前が明るくなっていく。
玄は出遅れてしまったように映る。
しかし沙織には焦りはまったくなかった。
頭の中には自分なりに考えた『ファイブカード』に対する戦略があった。
カードには色の優位性がある。だから誰でも赤のファイブカードを狙いたい。少し賢いプライヤーなら赤は揃えにくいと判断して青のファイブカードを揃えにいくでしょう。つまり赤ないし青は人気が集中するということだ。
となると赤を集め始めても5枚揃えるのは至難の業。3枚がいいところ。奇跡的に集められたとしても4枚が限界ではないか。つまり赤や青を揃えにいけばフォーカードが最高手役ということだ。
では反対に揃えやすい色は何か? 勿論一番弱い白であるのは明白。
沙織が辿り着いた戦略、それはみんなが敬遠する白でのファイブカード狙い。
赤や青を狙ったプレイヤーのカード交渉が難航している前半戦に白のファイブカードを集めきり、バトルをしかける。拒否されても5分後にまた同じ相手にバトルをしかける。拒否は4回までしかできないから、5回目は自動的にバトルをすることができる。
この戦略を沙織はルール表を見てすぐに思いついた。
そしてゲーム開始数分前に、さらにこの戦略に磨きをかける秘策を閃いた。
自分からトークを持ち掛けない。
これがこのゲーム攻略の秘策だ。
もし自分から話し掛けて「白下さい」と言えば、たとえ相手のいらない色でも警戒されてしまう。チャット形式のこのゲームはある意味では情報戦だと考える。どこでどんな形で白集めのプレイヤーがいるという情報が漏れてしまうか分からない。
だからできるだけさりげなく、白を5枚を集めきりたい。
相手からトークを持ち込まれ、相手の誘いに乗ってカード交換しているうちにいつの間にか白を掴まされた、と思わせるのが理想的だ。
だから自分からは話し掛けず、獲物が自ら罠に掛かってくるのを息を潜めてじっと待った。
おかしい、と感じ始めたのは、ゲームが開始して7,8分が経過してからだ。
プレイヤーリストを見れば至る所で明かりがつきトークが行われているというのに、玄には未だ誰もトークを持ち込んでこない。
何でよ!
沙織は腹を立てた。
何で私には誰も話し掛けてこないのよ! 誰でもいい、早く話し掛けて来てよ。
怒りは時間とともに少しずつ不安と焦りに変わっていった。
何故誰も話し掛けてこないの?
このままでは、まったくカード交換していない『ブタ』の状態でバトルを申し込まれかねないじゃない。
お願い、誰か早く話し掛けて来てよ。
ん?
プレイヤーリストを睨みつけているうちに、沙織は今行われているゲーム上にある特異な現象が発生していることに気が付いた。
いろいろ明るくなっている名前の中に、頻繁に明るくなり続けている名前があるということだ。
Sara7726、hitomiのひとみ、スミレsanなどがそうだ。
明るくなり、しばらくしてから明かりが消えても、また間髪を入れずに明るくなっている。
トークをし続けているからと言って、そうそうカード交換が成立しているとは思わないけど、少なくともスリーカード以上はできていると思った方がいいかもしれない。ここからバトルを申し込まれたら要注意だ。
でも、何でこの人たちは頻繁にトーク出来るの?
自分からどんどん動いてトークを申し込んでいるということ?
それが事実なら、自ら動かないほうがいいと考えた私の戦略は間違っているということじゃない。
でも何だかこのプレイヤーたちは自分からトークを申し込んでいるのではなく、相手から次々にトークを持ち掛けられているように見える。
つまり人気があるということだ。
なぜ人気差が出るの?
直感で、そこにこのゲームの突破口がある気がした。
だけど、いくら考えても人気差の理由は分からない。
時間だけが徒に経過していく。
何で玄には誰もトークを持ち掛けてこないのよ!
このままではいつバトルを申し込まれるか分からない。
ならば、バトルを申し込まれた時に備えて少しでもカード交換し手役をアップさせておく必要がある。
方針転換。
こちらからトークを申し込む。
沙織はリストの中からトーク相手を探し始めた。
できるならこっちが白が欲しいと言った時、深読みせずあっさり差し出してくれそうな相手。となるとオンラインゲームやギャンブルに精通していなくて騙しやすそうな相手……。
そこでハッとした。
リストから沙織が選び出した相手はまさにSara7726、hitomiのひとみ、スミレsanだった。
ギャンブルに慣れていなさそうね女性的な名前。それが彼女たちの人気の理由だ。
対して自分のアイコン名、玄はどうだ。
舐められないようにと“玄人”という言葉から文字をとったように、他のプレイヤーから見てもギャンブルが得意そうな玄人のイメージが思い浮かんでしまう。
これでは誰も話し掛けてこない。
Sara7726、hitomiのひとみ、スミレsanは名前のイメージ通り、本当に女性の可能性はある。だけど実際は男か女かも分からない。
寧ろバリバリのギャンブラー、勝負の世界を生き抜く猛者である可能性も十分にある。強さを見せて勝負を避けられるより弱さを見せて勝負に引きずり込むのはギャンブルの鉄則。
アカウント名を登録する時にすでに駆け引きは始まっていたということだ。
私は大甘だ!
沙織は自分の迂闊さを悔いた。
と同時に、背筋に寒気が走った。
もしこのプレイヤーだちが勝負の猛者ならば、まだカード交換をしていないカモを見逃す筈がない。
やばい! と思った瞬間、パソコンが「ピポン」と電子音を鳴らした。
続いて、画面中央にメッセージコマンドが現れた。
スミレsanさんからバトルが申し込まれました。
バトルを承諾しますか? 【YES】 【NO】 5:00
来た! 怖れが現実となった。
すぐにタイムが5分からカウントダウンを始める。
落ち着け。
意識してゆっくり深呼吸する。
落ち着いて。バトルは4回まで拒否でできるんだから慌てる必要はない。
ゆっくり息を吐きだしながら、NOのボタンをクリックした。
画面中央のメッセージは消えた。
ほっとするのもつかの間、再び電子音が鳴った。
今度はSara7726からのバトル申し込みだ。
狙われている! 私は完全に狙われている。
彼らはハンター。私は格好のカモなとなっている。
このバトルを拒否しても間違いなく次のハンターが襲ってくる。それを拒否すれば3回目の拒否。自動的にバトル突入するのも時間の問題。
何とかしてこのハンターたちの包囲網から脱出しなければ……。
沙織はルール表を思い出しながら懸命に考える。
脱出方法……。
バトルを申し込まれない方法は……。
そうだ、誰かとトークしていればいい。
NOのボタンを押した瞬間にバトルのがれのトークを誰かに持ち掛ける。
トーク相手を探すためプレイヤーリストに再び目を走らせた。
その時、玄のアカウント名の下に『R』という記号が2つ付いていることに気が付いた。
見ると、他のプレイヤーの中にも『R』マークがいくつか付いている者がいる。その数は1つから4つまでまちまちで、そのほとんどのプレイヤーが現在明るくなっている。
この『R』って何? ルール表にはこんなこと書かれてなかった。
画面左側にはルール表に書かれていた通りプレイヤーリストがあった。その上にBブロックとある。沙織はBブロックということだ。
リストの中の上から4段目、右から2列目の位置に自分のアカウント名「玄」を見つけた。女っぽい名前だと舐められると考えて、「玄人」から一文字とって玄とした。これなら少しは警戒してもらえるはずだ。
画面右側の上段には5枚のカードが並んでいる。左から赤、青、黄、緑、白。カードの強い順だ。
そのカードの下、画面右側の中央部分は何もないスペースが広がっていて、下段には【TALK】、【BATTL】、【REST】、【RETIRE】などのいくつかのボタンが並んでいる。
一通り画面を観察している間に、早くもリスト上のごんべぇとさっちんの名前が明るくなった。カード交換のトークが始まったのだ。それを皮切りに次々とリスト上の名前が明るくなっていく。
玄は出遅れてしまったように映る。
しかし沙織には焦りはまったくなかった。
頭の中には自分なりに考えた『ファイブカード』に対する戦略があった。
カードには色の優位性がある。だから誰でも赤のファイブカードを狙いたい。少し賢いプライヤーなら赤は揃えにくいと判断して青のファイブカードを揃えにいくでしょう。つまり赤ないし青は人気が集中するということだ。
となると赤を集め始めても5枚揃えるのは至難の業。3枚がいいところ。奇跡的に集められたとしても4枚が限界ではないか。つまり赤や青を揃えにいけばフォーカードが最高手役ということだ。
では反対に揃えやすい色は何か? 勿論一番弱い白であるのは明白。
沙織が辿り着いた戦略、それはみんなが敬遠する白でのファイブカード狙い。
赤や青を狙ったプレイヤーのカード交渉が難航している前半戦に白のファイブカードを集めきり、バトルをしかける。拒否されても5分後にまた同じ相手にバトルをしかける。拒否は4回までしかできないから、5回目は自動的にバトルをすることができる。
この戦略を沙織はルール表を見てすぐに思いついた。
そしてゲーム開始数分前に、さらにこの戦略に磨きをかける秘策を閃いた。
自分からトークを持ち掛けない。
これがこのゲーム攻略の秘策だ。
もし自分から話し掛けて「白下さい」と言えば、たとえ相手のいらない色でも警戒されてしまう。チャット形式のこのゲームはある意味では情報戦だと考える。どこでどんな形で白集めのプレイヤーがいるという情報が漏れてしまうか分からない。
だからできるだけさりげなく、白を5枚を集めきりたい。
相手からトークを持ち込まれ、相手の誘いに乗ってカード交換しているうちにいつの間にか白を掴まされた、と思わせるのが理想的だ。
だから自分からは話し掛けず、獲物が自ら罠に掛かってくるのを息を潜めてじっと待った。
おかしい、と感じ始めたのは、ゲームが開始して7,8分が経過してからだ。
プレイヤーリストを見れば至る所で明かりがつきトークが行われているというのに、玄には未だ誰もトークを持ち込んでこない。
何でよ!
沙織は腹を立てた。
何で私には誰も話し掛けてこないのよ! 誰でもいい、早く話し掛けて来てよ。
怒りは時間とともに少しずつ不安と焦りに変わっていった。
何故誰も話し掛けてこないの?
このままでは、まったくカード交換していない『ブタ』の状態でバトルを申し込まれかねないじゃない。
お願い、誰か早く話し掛けて来てよ。
ん?
プレイヤーリストを睨みつけているうちに、沙織は今行われているゲーム上にある特異な現象が発生していることに気が付いた。
いろいろ明るくなっている名前の中に、頻繁に明るくなり続けている名前があるということだ。
Sara7726、hitomiのひとみ、スミレsanなどがそうだ。
明るくなり、しばらくしてから明かりが消えても、また間髪を入れずに明るくなっている。
トークをし続けているからと言って、そうそうカード交換が成立しているとは思わないけど、少なくともスリーカード以上はできていると思った方がいいかもしれない。ここからバトルを申し込まれたら要注意だ。
でも、何でこの人たちは頻繁にトーク出来るの?
自分からどんどん動いてトークを申し込んでいるということ?
それが事実なら、自ら動かないほうがいいと考えた私の戦略は間違っているということじゃない。
でも何だかこのプレイヤーたちは自分からトークを申し込んでいるのではなく、相手から次々にトークを持ち掛けられているように見える。
つまり人気があるということだ。
なぜ人気差が出るの?
直感で、そこにこのゲームの突破口がある気がした。
だけど、いくら考えても人気差の理由は分からない。
時間だけが徒に経過していく。
何で玄には誰もトークを持ち掛けてこないのよ!
このままではいつバトルを申し込まれるか分からない。
ならば、バトルを申し込まれた時に備えて少しでもカード交換し手役をアップさせておく必要がある。
方針転換。
こちらからトークを申し込む。
沙織はリストの中からトーク相手を探し始めた。
できるならこっちが白が欲しいと言った時、深読みせずあっさり差し出してくれそうな相手。となるとオンラインゲームやギャンブルに精通していなくて騙しやすそうな相手……。
そこでハッとした。
リストから沙織が選び出した相手はまさにSara7726、hitomiのひとみ、スミレsanだった。
ギャンブルに慣れていなさそうね女性的な名前。それが彼女たちの人気の理由だ。
対して自分のアイコン名、玄はどうだ。
舐められないようにと“玄人”という言葉から文字をとったように、他のプレイヤーから見てもギャンブルが得意そうな玄人のイメージが思い浮かんでしまう。
これでは誰も話し掛けてこない。
Sara7726、hitomiのひとみ、スミレsanは名前のイメージ通り、本当に女性の可能性はある。だけど実際は男か女かも分からない。
寧ろバリバリのギャンブラー、勝負の世界を生き抜く猛者である可能性も十分にある。強さを見せて勝負を避けられるより弱さを見せて勝負に引きずり込むのはギャンブルの鉄則。
アカウント名を登録する時にすでに駆け引きは始まっていたということだ。
私は大甘だ!
沙織は自分の迂闊さを悔いた。
と同時に、背筋に寒気が走った。
もしこのプレイヤーだちが勝負の猛者ならば、まだカード交換をしていないカモを見逃す筈がない。
やばい! と思った瞬間、パソコンが「ピポン」と電子音を鳴らした。
続いて、画面中央にメッセージコマンドが現れた。
スミレsanさんからバトルが申し込まれました。
バトルを承諾しますか? 【YES】 【NO】 5:00
来た! 怖れが現実となった。
すぐにタイムが5分からカウントダウンを始める。
落ち着け。
意識してゆっくり深呼吸する。
落ち着いて。バトルは4回まで拒否でできるんだから慌てる必要はない。
ゆっくり息を吐きだしながら、NOのボタンをクリックした。
画面中央のメッセージは消えた。
ほっとするのもつかの間、再び電子音が鳴った。
今度はSara7726からのバトル申し込みだ。
狙われている! 私は完全に狙われている。
彼らはハンター。私は格好のカモなとなっている。
このバトルを拒否しても間違いなく次のハンターが襲ってくる。それを拒否すれば3回目の拒否。自動的にバトル突入するのも時間の問題。
何とかしてこのハンターたちの包囲網から脱出しなければ……。
沙織はルール表を思い出しながら懸命に考える。
脱出方法……。
バトルを申し込まれない方法は……。
そうだ、誰かとトークしていればいい。
NOのボタンを押した瞬間にバトルのがれのトークを誰かに持ち掛ける。
トーク相手を探すためプレイヤーリストに再び目を走らせた。
その時、玄のアカウント名の下に『R』という記号が2つ付いていることに気が付いた。
見ると、他のプレイヤーの中にも『R』マークがいくつか付いている者がいる。その数は1つから4つまでまちまちで、そのほとんどのプレイヤーが現在明るくなっている。
この『R』って何? ルール表にはこんなこと書かれてなかった。