第三章 IN THE BOX Ⅱ(8)
文字数 2,184文字
《 玄 》 ㊕Aは1、Bは2、Cは3、未投入は4とし、赤は万の位、青は千の位、黄は百の位、緑は十の位、白は一の位の1つの数字として投入を表記しろ。
主催者が求めていた”解”、それは「投入パターンの数値化」と「質問のコンパクト化」だった。
文章でダラダラ書くのはダサいでしょ。
もっとスマート且つ美しく表現してね、ってことらしい。
まったく手の込んだゲームを作ってくれたものだ。
サクラはなかなか回答を上げて来なかった。
でも沙織はまったく動じなかった。
絶対にこの質問からは逃れられない。そう確信をもって、じっと待った。
観念したサクラが漸く回答を上げてきた。
《サクラ》 44222
スマート且つ美しい回答に惚れ惚れする。
これでサクラの『親』番の投入は丸裸。
彼女はもう『親』でポイントを挙げることはできなくなった。
あとは、残り2回の自分の『親』で追いつくことができるかどうか。
沙織はサクラが教えてくれた通りに、Bの黄、緑、白をブロックし、14P差のまま第6戦に突入した。
第6戦 沙織の『親』。
『親』番で一気に大量ポイントを稼ぐような妙案を沙織はまだ持っていない。
でもこのゲームは元々心理的に『親』が有利になるように創られているゲーム。
その『親』番で、もうポイントを加えることができないと知ったサクラが冷静さを失ってくれれば勝機はある。
ゲームの流れは今、完全に自分の方に傾いている。
ならば、確率に賭けてみるのも悪くないと思った。
この流れで、もし薄い方の確率を引き当ててしまうようなら、それは神様が私にファイナリストになる資格はないと告げているということ。
沙織はAに2枚、Bに3枚の投入をした。
薄い方の確率とは、サクラがこれからしてくるであろう2つ目の特許質問「○○はどこに入れましたか?」で3色訊かれた時、その3色の中に沙織がAに投入したカードが2色とも入ってしまう確率30パーセントのこと。
1番高い確率は3色の中に1色だけが入ってしまう60パーセントで、今の流れなら間違いなくこっちを引くことができる、と沙織はこの確率に賭けた。
《サクラ》 青はどこに入れましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
まずは予定通りに2つ目の特許質問が来た。
《 玄 》 B
《サクラ》 黄はどこに入れましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
《 玄 》 A
テンポよく2つの質問を飛ばしてきたサクラがAという回答を見て、ここで止まった。
彼女にとっては想定外のAだったのでしょう。
ここで質問を変えてくるか? それとも同じパターンでもう1色訊いてくるか?
次の質問が2人にとっての運命の分かれ道。
大丈夫、流れは私にある。
沙織は信念を持ってそう思った。
《サクラ》 赤はどこに入れましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
サクラは質問パターンを変えてこなかった。
沙織は目を閉じて、ゆっくりと鼻腔から空気を吸い込んだ。
身体の隅々まで酸素を送り届けて、それからさらにゆっくりと吐き出した。
彼女が訊いてきた赤は沙織がAに投じた色ではなかった。
狙い通り、確率の60パーセントの方を引き当てることができた。
あとは3色のうち2色がB、1色がAという結果を見たサクラがどこまで強い気持ちで踏み込んで来くるか。
さあ、サクラちゃん。残り2色をどうするの?
沙織は挑発的にサクラに問い掛けた。
気持ちが怯めば外すと大きなマイナスとなるAには投入できないし、未だに強い気持ちを持ち続けているならばAをブロックしにくる。
沙織は今のサクラの心理状態が想像した。
おそらく彼女は質問していない残り2色のうち、少なくとも1色はBではないかと考えているに違いない。2色ともAであるはずがない、と。
ならばそのBを確実にブロックすれば、ポイントでリードしている自分の優位は変わらない。
無理にAをブロックしにいって、万が一の空振りでポイントを与えてしまうより、確実にポイントを削って残り2戦を逃げ切る方が得策だと考える。
でもそれは論理的に考えたのではなく、Aに向かわなくてもいい理由、自分を納得させる”心の拠り所”を探したに過ぎない。
少し前までの私がそうだったから分かる。
サクラも本能的にはAにも投入されていると感じているはず。
これまでの彼女ならその本能に忠実に従い、信念をもってAを潰しに来ていた。
悪い流れを揺るぎない勇気で断ち切る。それがサクラの強さ、だった。
だけど気持ちが怯み、信念が折れれば、「Aにもし1枚も投入されていなかったら」という恐怖がウィルスのように全身を蝕み、Aに行かなくてもいい”心の拠り所”に頼ろうとする。
サクラはどちらを選択するか?
「折れてっ!!」
沙織は念じるように画面に向かって呟いた。
サクラの投入が終わり、まず『親』沙織の投入結果から発表された。
A→黄 白
B→赤 青 緑
続いて運命のサクラの投入結果。
A→黄
B→赤 青 緑 白
ポキッ。
サクラの心の支柱が折れた音が、沙織の耳に轟いた。
続くサクラの『親』番は、全てのカードの居所が分かってしまう特許質問を警戒し、彼女は未投入だった。
ポイント変化はなく、10P差のまま最終第7戦に突入した。
主催者が求めていた”解”、それは「投入パターンの数値化」と「質問のコンパクト化」だった。
文章でダラダラ書くのはダサいでしょ。
もっとスマート且つ美しく表現してね、ってことらしい。
まったく手の込んだゲームを作ってくれたものだ。
サクラはなかなか回答を上げて来なかった。
でも沙織はまったく動じなかった。
絶対にこの質問からは逃れられない。そう確信をもって、じっと待った。
観念したサクラが漸く回答を上げてきた。
《サクラ》 44222
スマート且つ美しい回答に惚れ惚れする。
これでサクラの『親』番の投入は丸裸。
彼女はもう『親』でポイントを挙げることはできなくなった。
あとは、残り2回の自分の『親』で追いつくことができるかどうか。
沙織はサクラが教えてくれた通りに、Bの黄、緑、白をブロックし、14P差のまま第6戦に突入した。
第6戦 沙織の『親』。
『親』番で一気に大量ポイントを稼ぐような妙案を沙織はまだ持っていない。
でもこのゲームは元々心理的に『親』が有利になるように創られているゲーム。
その『親』番で、もうポイントを加えることができないと知ったサクラが冷静さを失ってくれれば勝機はある。
ゲームの流れは今、完全に自分の方に傾いている。
ならば、確率に賭けてみるのも悪くないと思った。
この流れで、もし薄い方の確率を引き当ててしまうようなら、それは神様が私にファイナリストになる資格はないと告げているということ。
沙織はAに2枚、Bに3枚の投入をした。
薄い方の確率とは、サクラがこれからしてくるであろう2つ目の特許質問「○○はどこに入れましたか?」で3色訊かれた時、その3色の中に沙織がAに投入したカードが2色とも入ってしまう確率30パーセントのこと。
1番高い確率は3色の中に1色だけが入ってしまう60パーセントで、今の流れなら間違いなくこっちを引くことができる、と沙織はこの確率に賭けた。
《サクラ》 青はどこに入れましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
まずは予定通りに2つ目の特許質問が来た。
《 玄 》 B
《サクラ》 黄はどこに入れましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
《 玄 》 A
テンポよく2つの質問を飛ばしてきたサクラがAという回答を見て、ここで止まった。
彼女にとっては想定外のAだったのでしょう。
ここで質問を変えてくるか? それとも同じパターンでもう1色訊いてくるか?
次の質問が2人にとっての運命の分かれ道。
大丈夫、流れは私にある。
沙織は信念を持ってそう思った。
《サクラ》 赤はどこに入れましたか? どこにも入れてない場合はDとお答え下さい。
サクラは質問パターンを変えてこなかった。
沙織は目を閉じて、ゆっくりと鼻腔から空気を吸い込んだ。
身体の隅々まで酸素を送り届けて、それからさらにゆっくりと吐き出した。
彼女が訊いてきた赤は沙織がAに投じた色ではなかった。
狙い通り、確率の60パーセントの方を引き当てることができた。
あとは3色のうち2色がB、1色がAという結果を見たサクラがどこまで強い気持ちで踏み込んで来くるか。
さあ、サクラちゃん。残り2色をどうするの?
沙織は挑発的にサクラに問い掛けた。
気持ちが怯めば外すと大きなマイナスとなるAには投入できないし、未だに強い気持ちを持ち続けているならばAをブロックしにくる。
沙織は今のサクラの心理状態が想像した。
おそらく彼女は質問していない残り2色のうち、少なくとも1色はBではないかと考えているに違いない。2色ともAであるはずがない、と。
ならばそのBを確実にブロックすれば、ポイントでリードしている自分の優位は変わらない。
無理にAをブロックしにいって、万が一の空振りでポイントを与えてしまうより、確実にポイントを削って残り2戦を逃げ切る方が得策だと考える。
でもそれは論理的に考えたのではなく、Aに向かわなくてもいい理由、自分を納得させる”心の拠り所”を探したに過ぎない。
少し前までの私がそうだったから分かる。
サクラも本能的にはAにも投入されていると感じているはず。
これまでの彼女ならその本能に忠実に従い、信念をもってAを潰しに来ていた。
悪い流れを揺るぎない勇気で断ち切る。それがサクラの強さ、だった。
だけど気持ちが怯み、信念が折れれば、「Aにもし1枚も投入されていなかったら」という恐怖がウィルスのように全身を蝕み、Aに行かなくてもいい”心の拠り所”に頼ろうとする。
サクラはどちらを選択するか?
「折れてっ!!」
沙織は念じるように画面に向かって呟いた。
サクラの投入が終わり、まず『親』沙織の投入結果から発表された。
A→黄 白
B→赤 青 緑
続いて運命のサクラの投入結果。
A→黄
B→赤 青 緑 白
ポキッ。
サクラの心の支柱が折れた音が、沙織の耳に轟いた。
続くサクラの『親』番は、全てのカードの居所が分かってしまう特許質問を警戒し、彼女は未投入だった。
ポイント変化はなく、10P差のまま最終第7戦に突入した。