第四章 ゴールデン・リボン(17)
文字数 2,131文字
何が起こったのか、一瞬分からなかった。
勝敗に関係のない商社が今更『パス』をしたところで何も変わらない。
何を遊んでいるのよ、と鼻で笑った。
しかし自分の引き番になり、リボンをクリックしようとしたところで、事の重大性を認識した。
リボンが2本残っている。
1本を私が選んでも、もう1本がよしえに回る。
急速に血の気が失せ、思考が混濁してきた。
え……っと。
え……っと。
え……っと。
どうなるんだっけ?
しっかりしなきゃ。
朦朧となりながらも、何とか計算を始めた。
私が「15P」を引けば私の最終ポイントは30Pとなり、現在10Pのよしえが「5P」を加えても追いつかれる心配はない。
でも、私の引いたポイントが「5P」だったら私の最終ポイントは20Pで、よしえの方は「15P」を加算できるから最終ポイントは、25P……。
25P!!
私を上回る……。
パリンッ!
頭の上で硝子の割れるような音が聞こえた。
見上げると、そこには硝子の階段があり、それがはらはらと砂塵のように破片を風に棚引かせながら、ゆっくりと崩れ落ちている。
優勝への硝子の階段が……消えていく。
商社にとってこれはほんの悪戯心なのかもしれない。
でも私にとっては天国か地獄か、億万長者か自己破産かを分かつ死活問題。
何てことしてくれたのよっ!
怒りが瞬間湯沸かし器のごとく噴きあがった。
これで私はもう一度確率50パーセントの壁を乗り越えなければならない。
「何でそんなことするのよ!」
「私に恨みでもあるの!!」
目に涙が滲んだ。
何でよ……。
やり場のない悔しさに、拳をデスクに叩きつけた。
その時、低音でしゃがれた、纏わりつくような声が耳に聴こえて来た。
—— 玄! てめえだけは絶対許さない。 どんなことをしてでもお前が勝ち残ることを阻止してやるからな。覚えてろよ!
そのおぞましい声に、沙織の背筋は反射的にピクンと伸びた。。
誰、この声?
でも、どこかで聞いたことがあるような言葉……。
—— 玄! てめえもいい気になるなよ! お前みたいな他人のふんどしで相撲とっているような奴が生き残る筈ねえんだよ。断言してやる。お前は絶対優勝できない。足を引っ張ってでも地獄へ道連れにしてやるから覚えてろよ!
また聴こえた。
やはり聞いたことのある言葉だ。
どこで?
誰の声?
沙織は怯えながらも懸命に記憶の糸を手繰り寄せようとした。
そんなに昔ではないはず……。
最近聞いた、いや見た記憶があるこのセリフは確か……。
ひゃっ。
言葉にならない声が漏れた。
沙織は辿り着いてしまった。その言葉が発せられた源に。
その恐怖に、全身が凍りついた。
その言葉が発せられた源は…………。
W!!
Wが写楽に嵌められ、セカンドステージ予選敗退となった時のチャットのセリフと、私が必勝法破りの裏技を決めた時の恨みの言葉だ。
何で!?
何で、Wの言葉が今聴こえてくるの!?
訳が分からない現象に、沙織の顔は引き攣った。
Wの恨みが商社に乗り移って、復讐を果たそうとしているとでもいうの?
何で商社に……。
商社…………。
勝者……?
沙織はハッとした。
まさか……。
W……、そして商社……。
カチッ!
パズルの最後のピースがはまる音が聞こえた。
沙織の頭の中に1つの仮説が思い浮かんだ。
それは根拠のない仮説だった。
だけどそう考えれば、全てがすっきりした。
ファイナルゲームの4回戦で沙織ではなく強豪のよしえを勝たせた訳も。
商社→「勝者」→「WINER」→W
単純な文字の変換だ。
Wと商社は同一人物。
おそらくは2重登録。
Wほど用意周到なプレイヤーなら、クイック・リッチ・クラブ優勝のため、それぐらいの準備はしていてもおかしくはない。
Wは優勝の確率を高くするため、2つの名前でエントリーすることを思いついた。
参加募集要項には複数のエントリーは禁止、とは謳われていないし、もし禁止を警戒するなら名前・住所などを変えてエントリーしているかもしれない。
商社というおかしなハンドルネームも、「勝者」を文字ったと考えれば説明がつく。
Wは2台のパソコンを駆使し、BブロックとCブロックのゲームを同時に行っていた。
もしセカンドステージで写楽のあの奇策がなければ、ファイナルステージ3名の中に商社とWの両方が入っていた可能性も十分にあった。そうなれば優勝は決まったようなものだった。
そんな手間も金も掛けた用意周到な深謀を、私と写楽が阻止した。
その恨みは深い。
Wの纏わりつくような怨念を沙織は感じた。
どこかから射るような眼光で見られているような気がして、身を隠したくなるような衝動に駆られた。
怖い……。
私はすべて見透かされている。
どう足掻いても、Wの呪縛から逃れることはできない。
—— てめえだけは絶対許さない……。
—— 地獄へ道連れにしてやる……。
Wの言葉が沙織の頭脳を虚無と化していった。
熱に浮かされた子供のように、譫言 が沙織の口から衝いて出た。
「私は優勝できない……」
「私はWに取り込まれた……」
「私はWの逆鱗に触れてしまった……」
「私は……」
「私は……………」
勝敗に関係のない商社が今更『パス』をしたところで何も変わらない。
何を遊んでいるのよ、と鼻で笑った。
しかし自分の引き番になり、リボンをクリックしようとしたところで、事の重大性を認識した。
リボンが2本残っている。
1本を私が選んでも、もう1本がよしえに回る。
急速に血の気が失せ、思考が混濁してきた。
え……っと。
え……っと。
え……っと。
どうなるんだっけ?
しっかりしなきゃ。
朦朧となりながらも、何とか計算を始めた。
私が「15P」を引けば私の最終ポイントは30Pとなり、現在10Pのよしえが「5P」を加えても追いつかれる心配はない。
でも、私の引いたポイントが「5P」だったら私の最終ポイントは20Pで、よしえの方は「15P」を加算できるから最終ポイントは、25P……。
25P!!
私を上回る……。
パリンッ!
頭の上で硝子の割れるような音が聞こえた。
見上げると、そこには硝子の階段があり、それがはらはらと砂塵のように破片を風に棚引かせながら、ゆっくりと崩れ落ちている。
優勝への硝子の階段が……消えていく。
商社にとってこれはほんの悪戯心なのかもしれない。
でも私にとっては天国か地獄か、億万長者か自己破産かを分かつ死活問題。
何てことしてくれたのよっ!
怒りが瞬間湯沸かし器のごとく噴きあがった。
これで私はもう一度確率50パーセントの壁を乗り越えなければならない。
「何でそんなことするのよ!」
「私に恨みでもあるの!!」
目に涙が滲んだ。
何でよ……。
やり場のない悔しさに、拳をデスクに叩きつけた。
その時、低音でしゃがれた、纏わりつくような声が耳に聴こえて来た。
—— 玄! てめえだけは絶対許さない。 どんなことをしてでもお前が勝ち残ることを阻止してやるからな。覚えてろよ!
そのおぞましい声に、沙織の背筋は反射的にピクンと伸びた。。
誰、この声?
でも、どこかで聞いたことがあるような言葉……。
—— 玄! てめえもいい気になるなよ! お前みたいな他人のふんどしで相撲とっているような奴が生き残る筈ねえんだよ。断言してやる。お前は絶対優勝できない。足を引っ張ってでも地獄へ道連れにしてやるから覚えてろよ!
また聴こえた。
やはり聞いたことのある言葉だ。
どこで?
誰の声?
沙織は怯えながらも懸命に記憶の糸を手繰り寄せようとした。
そんなに昔ではないはず……。
最近聞いた、いや見た記憶があるこのセリフは確か……。
ひゃっ。
言葉にならない声が漏れた。
沙織は辿り着いてしまった。その言葉が発せられた源に。
その恐怖に、全身が凍りついた。
その言葉が発せられた源は…………。
W!!
Wが写楽に嵌められ、セカンドステージ予選敗退となった時のチャットのセリフと、私が必勝法破りの裏技を決めた時の恨みの言葉だ。
何で!?
何で、Wの言葉が今聴こえてくるの!?
訳が分からない現象に、沙織の顔は引き攣った。
Wの恨みが商社に乗り移って、復讐を果たそうとしているとでもいうの?
何で商社に……。
商社…………。
勝者……?
沙織はハッとした。
まさか……。
W……、そして商社……。
カチッ!
パズルの最後のピースがはまる音が聞こえた。
沙織の頭の中に1つの仮説が思い浮かんだ。
それは根拠のない仮説だった。
だけどそう考えれば、全てがすっきりした。
ファイナルゲームの4回戦で沙織ではなく強豪のよしえを勝たせた訳も。
商社→「勝者」→「WINER」→W
単純な文字の変換だ。
Wと商社は同一人物。
おそらくは2重登録。
Wほど用意周到なプレイヤーなら、クイック・リッチ・クラブ優勝のため、それぐらいの準備はしていてもおかしくはない。
Wは優勝の確率を高くするため、2つの名前でエントリーすることを思いついた。
参加募集要項には複数のエントリーは禁止、とは謳われていないし、もし禁止を警戒するなら名前・住所などを変えてエントリーしているかもしれない。
商社というおかしなハンドルネームも、「勝者」を文字ったと考えれば説明がつく。
Wは2台のパソコンを駆使し、BブロックとCブロックのゲームを同時に行っていた。
もしセカンドステージで写楽のあの奇策がなければ、ファイナルステージ3名の中に商社とWの両方が入っていた可能性も十分にあった。そうなれば優勝は決まったようなものだった。
そんな手間も金も掛けた用意周到な深謀を、私と写楽が阻止した。
その恨みは深い。
Wの纏わりつくような怨念を沙織は感じた。
どこかから射るような眼光で見られているような気がして、身を隠したくなるような衝動に駆られた。
怖い……。
私はすべて見透かされている。
どう足掻いても、Wの呪縛から逃れることはできない。
—— てめえだけは絶対許さない……。
—— 地獄へ道連れにしてやる……。
Wの言葉が沙織の頭脳を虚無と化していった。
熱に浮かされた子供のように、
「私は優勝できない……」
「私はWに取り込まれた……」
「私はWの逆鱗に触れてしまった……」
「私は……」
「私は……………」