第2話 7人の白骨遺体 最終話

文字数 1,830文字

馬場浩一郎は生きていた。

赤城美知の家の前で信子らに取り囲まれた馬場は、髭を長く伸ばし髪もボサボサ、顔や手足は日焼けで真っ黒でかなり風貌が変わっていた。着ていた服もヨレヨレで、これまでの8年間の生活の苦しさを物語っていた。

外では逃走される恐れもあるので、信子らは馬場を赤城美知の家の中に案内した。
張り込みの記者も集まり、万が一の場合に備えた。

馬場が落ち着いたところで、信子が質問した。
「馬場さん、あなたはなぜここにいるんですか。
赤城静香さんと心中したのではありませんか」
「すみません」
馬場はか細い声で謝罪した。
「私が悪いんです。私が『死にたい』と言ったら、静香さんも『あなたについていく』と言ってくれて、『子どもたちも連れて行こう』ということになって…あの山の斜面までいったんです。そのあとの記憶が全くないんですが気が付いたら静香さんと子ども2人が死んでいたんです」
「お母さんを殺したのはアンタでしょう!」
美知が叫んだ。
「ああ、あなたが静香さんの長女の・・・そうです、私がやりました。なんであんなことをしてしまったのか・・・自首しようと思ったんですが、その勇気もなくて。それで、遺体が見つかったと聞いたんで、今度こそ警察に出頭しようと…その前に一人残されたあなたに直接、謝罪しようと思っていたんですが・・・申し訳ありません」
「どうして死ななければならなかったんですか!子どもまで道連れにして!」
心中した静香の妹で美知の叔母の仁美も馬場を責めた。
「いろんなことがあって妻の沙耶が子どもと一緒に自殺してしまって、もう生きる希望もなくなって・・・。静香さんに電話したら静香さんも責任を強く感じていて『こんなひどいことになるなんて思ってもみなかった・・・私たちが悪かったんでしょうね。死んでお詫びをするしかない』と言っていました」
「なぜ、そうなるの。私には分からない」
美知はそう言うと両手で顔を覆った。

「馬場さん」
信子が聞いた。
「あの山中にあった男性の白骨遺体は誰なんですか。教えてください」
馬場は声を震わせながら答えた。
「誰・・・誰だったか・・・名前は聞いていなかったので知りません。私は金融業者から多額の借金をして払えないので、厳しい取り立てから逃げ回る生活が続いていました。家に取り立てが押しかけて帰れないときもあって、そんな時に出会ったのが川岸に掘っ立て小屋を建てて住んでいた彼です」
「その男性をあなたが殺したんですか」
「はい、そうです。申し訳ありません。私が殺しました」
「なぜ殺したんですか」
「静香さんと子ども2人が死んだあと、私も死のうとしましたが死に切れませんでした。しばらくぼーっとして座り込んでいたんですが、あることを思いつきました。悪魔がささやいたんです。『身代わりの男さえいれば自分が死んだことにして、借金取り立てからも逃れられると・・・・それで全く関係ないその男性を殺して、あの場所まで運んだんです。そして、私の自宅で死んでいた妻と子ども2人も運んで、7人が同じ場所で死んだように見せかけたんです。

そこまで話したところで、警察官数名が素早く部屋の中に入ってきた。馬場は観念していたのか、抵抗もせず殺人などの容疑で緊急逮捕された。 
なお、浩一郎の実父も遺体の搬送を手伝っていたことが
後日分かったがすでに病死していた。。

張り込みに参加していた心は信子のところに駆け寄り
「信子さん、無事終わりましたね。鋭い追及素晴らしかった」と
安心したように言った。

「心さん、君のおかげでうまくいったよ」と
信子は心の中でつぶやいた。

すべてが終わって警察が帰ったあと
美知がポツリと言った言葉が信子は忘れられない。

「子どもは親の宝、子宝と言いますよね。
その宝の命を親が奪う親子心中ってなんだろう、私には分からない。
でも、私は叔母に大事に育てられ感謝しています。だから、これからも頑張って生きていきたいと思っています」

信子が心を自宅に送り届けた時、時計は午前0時を過ぎていたが、母親の岬は起きて待っていた。息子の無事にほっとした岬は
「子どもの将来を奪ってしまう行為は絶対にいけないと思うけれど、苦しくて死にたくなった美知さんのお母さんの気持ち・・・私も夫が死んで厳しい世間の目もあって死にたくなった時もあったので少しは分かる・・・でも、やはりどんなに苦しくても生きて欲しかったと思う」
そう言って、心の顔を見つめた。

(第2話 おわり)
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