第5話 同級生を助けて 第4章

文字数 1,951文字

ドライバー「超」初心者の心が運転してきた乗用車は意外にも足回りやエンジンに適度なチューニングを加えたスポーツタイプのクルマだった。

聞くと、この車は母親の岬の車で、岬は運転が大好きで、車もスポーツタイプを乗り継いできたとのこと。

実は信子も運転は大好きで大学に入ってすぐに免許を取り、運転歴はまだ4年だが、周りの男性からは
「思い切りのいい運転で、並の男性より運転はうまい」との評価を受けるぐらいの腕前である。

その信子からみると心の運転はまだまだのレベルだが、信子はすぐにも運転を代わりたい気持ちをグッと抑えて助手席に座っていた。

「心くん、ごめんね。せっかくの初ドライブ・・・こんなことに使って・・・」
「いいですよ、信子さんと一緒なら、どこにでも行きますよ」
心は嬉しそうに答えた。

信子は、これまでの経緯を心に説明し、先日、小学校の時の同級生のみっちゃん・・・美知子が、S市のキヤバレーでホステスをしているところに偶然出くわしたこと、そして、その時、ほとんど話すことが出来なかったので、後日、再度、美知子に会うため、もう一度キャバレーに行ったが、「体調を崩して休んでいて、S市からおよそ70キロ離れたY市にある実家に戻っていいるらしい」と告げられたことなどを話した。

このため、休日を利用してY市の美知子を訪ねようと考えているところに、心がドライブに行こうと誘ったので、利用させてもらったことも、包み隠さず伝えた。

信子と心の間には、隠し事が全く無い、そんな信頼関係が出来上がっていた。


2時間ほどドライブしたらY市に着いた。

Y市は人口2万人余りの地方都市で、信子は小学5年生と6年生の2年間、Y駅の近くの「Y小学校」に通っていて、6年生のときには
同じクラスになったことから、美知子の家には2〜3度遊びに行ったことがあった。

記憶をたどって車を走らせると、実家はすぐに見つかった。玄関の表札を見ると「西村」と出ている。美知子は「志村」だから、引っ越したのかと思ったが、信子は玄関の呼び鈴を3回ならしてみた。

反応がなかったので諦めて帰ろうとしたところ、中から
「どちら様でしょうか?」
という声が聞こえた。

信子は
「あ・・・私、小田と申しますが、こちらは志村さんのお宅ではありませんか?」
「えっ・・・すみませんがお名前をもう一度・・・」
「小田信子と申します」
「ノブちゃん!、ノブちゃんなの?」」

開いた玄関に立っていたのは、美知子の母だった。
美知子はいなかった。.

母親はこの10年間のことをいろいろ信子に話した。それによると・・・。

美知子の父親は美知子が小学校を卒業した年の春、家族を置いて家を出た。父親は以前から他の女性と不倫関係にあり、美知子の母親との関係はかなり前から崩壊していたのだそうだ。

信子はひょっとしたら、美知子が相談したかったのは、このことだったんじゃなかったのかなと思った。

表札の「西村」は母親の旧姓だった。

離婚しシングルマザーとなった母親は、いろんな仕事をして、美知子と妹2人の合わせて3人の子供を育ててきた。元々身体が弱かったのに一生懸命働く母親の大変さをみかねた美知子は高校を辞めて、ホステスとして働き始めた。17歳で未成年だったが年齢を20歳と偽って働いていた。

「でもねえ、それ以上のことは私、何にも知らないのよ。どこに住んでいて、どこでどのような仕事をしているのか・・・」

母親は美知子がS市の老舗のキャバレーで働いていることも、体調を崩して店を休んでいることも知らなかった。当然、実家には帰っていなかった。

美知子は母親が電話をかけても、ほとんど出ないということだったが、信子は母親に連絡を取ってもらい、信子が会いたがっていることを伝えてもらうよう頼んだ。


帰りの車の中で、心が口を開いた。
「ねえ、信子さん・・・美知子さんって、どんな小学生だったんですか?」
「そうねー・・・物静かでとても優しい女の子だった。自分の性格が、その真逆だったんで、みっちゃんの性格がとても羨ましかったなー」
「でも、今の美知子さんは過去のすべてと決別したいように見えますけど・・・」
「そうね、どうしたんだろう、みっちゃん。やっぱり私に会いたくないんだろうか・・・」


1カ月たっても、美知子から返事はなかった。
母親に確認すると、信子の気持ちは伝えてあるということだった。

「やっぱりダメか」と信子が諦めかけた頃、突然、美知子から信子に電話があった。

「ノブちゃん! 今晩は! 返事が遅くなって御免! もっと早くお返事したかったんだけど、いろいろあったもんだから、今になっちゃいました。今、S市にいるんだ。どこで会おうか?」

酔っているのだろうか。美知子の声は異様に明るかった。

                      (つづく)    
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