第7話 海から来た悪魔 第5章
文字数 1,515文字
山下泰三の妻、律子は心が言った
「夫のメッセージ」という言葉に興味を持ったのか、再び家に上げてくれた。
信子はまず、心の不思議な能力について説明したが、これをすぐに信じてくれる人は皆無と言っていい。
信子は何としても聴いて欲しいという気持ちを込めて訴えた。
「そんな話はとても信じられないと思っていらっしゃるでしょう・・・私も最初はそうだったんですが、心くんはその能力で、難しい事件の真相をいくつも解き明かしてきているんです。心くんが受け止めたご主人の思いを何としても奥さんに伝えなければならないというので、また来ました。どうか聞いてやってください」
律子はとても信じられないといった表情だったが、うなづいて了承した。
心はまるで泰三が話しているかのように気持ちを込めて死者の思いを伝えた。
「泰三さんはこういってらっしゃいました。
『律子、せっかくの結婚記念日にこんなことになって済まなかった。何が起きたのか自分自身よく分からないんだが、もう君とは会えないようだ』」
その一言を聞いて律子は夫の言葉と確信したのか表情が変わった。
「続けていいですか?」
信子が気遣ったが、律子は
「・・・大丈夫です。続けてください」
と答えた。
心は泰三からのメッセージを続けた。
『プレゼントも用意していたんだが、多分ダメになっただろうな。残念だ・・・あの時、助手席に乗っていた女性も亡くなっただろうな・・・あっ・・・女性と2人で車に乗っていたんだ。人は色々言うかもしれないが、私はお前を裏切ってはいないよ。それは誓って言える』
そこまで聞いたところで律子はほっとしたのか微かに微笑んだ。
『あの女性は我が社の海外ブランチの幹部と名乗って私に近づいてきたんだけど、それは真っ赤なウソで私から国防に関する情報を得たいというスパイだったんだ』
「えっ!スパイ!?」
律子は驚いて思わず声をあげた。そして遠くを眺めてポツリと言った。
「泰三さん・・・あなた・・・大変な相手と戦っていたのね」
「女性がスパイだ」ということについては信子とみなみが心から事前に聞いていた話の中には入っておらず、2人にとっても初めて聞く話なので「大変なことになった」と驚いた。
心の説明はいよいよ、ちょうど1年前のあの事故のことに入ってきた。
その女性は年齢は30歳ぐらいで、かなりの美人だそうだ。
『女性は私から情報を手に入れようと誘惑してきたが、私はその誘惑には乗らなかった。だからあの日、女性は私をナイフで脅して無理矢理、情報を聞き出そうとしていたんだ。そこに大きな車が飛び込んできて・・・本当に残念だよ・・・」
「以上です」
心の説明が終わった。
それまで目を閉じて説明を聞いていた律子が目を開いて話し始めた。
「主人は毎年、結婚記念日は忘れずに祝ってくれました。海外の駐在の経験も長かったので、そのあたりは他の日本の男性よりちゃんとやってくれました。亡くなったあの日が24回目の結婚記念日でした・・・ですから伝えていただいたメッセージは主人のものだと思います・・・児玉心さんでしたっけ、本当にありがとうございました。これでモヤモヤしていたものが晴れてスッキリしました」
心が答えた。
「こちらこそ私の話を信じてくれて、ありがとうございます。とても素晴らしいご主人だったんですね」
「ええ、生きていれば、今日が銀婚式でしたのに・・・大切な人を亡くすって悲しい・・・」
それまで気丈に振る舞っていた律子が堪えられなくなり泣き伏してしまった。
心はこれまでも同じように死者の声を残された近親者に伝えて感謝されたことが何度もあった。
でも、心が一番聞きたい相手・・・10歳の時に亡くなった父親の声はまだ聞こえてこない。
(つづく)
「夫のメッセージ」という言葉に興味を持ったのか、再び家に上げてくれた。
信子はまず、心の不思議な能力について説明したが、これをすぐに信じてくれる人は皆無と言っていい。
信子は何としても聴いて欲しいという気持ちを込めて訴えた。
「そんな話はとても信じられないと思っていらっしゃるでしょう・・・私も最初はそうだったんですが、心くんはその能力で、難しい事件の真相をいくつも解き明かしてきているんです。心くんが受け止めたご主人の思いを何としても奥さんに伝えなければならないというので、また来ました。どうか聞いてやってください」
律子はとても信じられないといった表情だったが、うなづいて了承した。
心はまるで泰三が話しているかのように気持ちを込めて死者の思いを伝えた。
「泰三さんはこういってらっしゃいました。
『律子、せっかくの結婚記念日にこんなことになって済まなかった。何が起きたのか自分自身よく分からないんだが、もう君とは会えないようだ』」
その一言を聞いて律子は夫の言葉と確信したのか表情が変わった。
「続けていいですか?」
信子が気遣ったが、律子は
「・・・大丈夫です。続けてください」
と答えた。
心は泰三からのメッセージを続けた。
『プレゼントも用意していたんだが、多分ダメになっただろうな。残念だ・・・あの時、助手席に乗っていた女性も亡くなっただろうな・・・あっ・・・女性と2人で車に乗っていたんだ。人は色々言うかもしれないが、私はお前を裏切ってはいないよ。それは誓って言える』
そこまで聞いたところで律子はほっとしたのか微かに微笑んだ。
『あの女性は我が社の海外ブランチの幹部と名乗って私に近づいてきたんだけど、それは真っ赤なウソで私から国防に関する情報を得たいというスパイだったんだ』
「えっ!スパイ!?」
律子は驚いて思わず声をあげた。そして遠くを眺めてポツリと言った。
「泰三さん・・・あなた・・・大変な相手と戦っていたのね」
「女性がスパイだ」ということについては信子とみなみが心から事前に聞いていた話の中には入っておらず、2人にとっても初めて聞く話なので「大変なことになった」と驚いた。
心の説明はいよいよ、ちょうど1年前のあの事故のことに入ってきた。
その女性は年齢は30歳ぐらいで、かなりの美人だそうだ。
『女性は私から情報を手に入れようと誘惑してきたが、私はその誘惑には乗らなかった。だからあの日、女性は私をナイフで脅して無理矢理、情報を聞き出そうとしていたんだ。そこに大きな車が飛び込んできて・・・本当に残念だよ・・・」
「以上です」
心の説明が終わった。
それまで目を閉じて説明を聞いていた律子が目を開いて話し始めた。
「主人は毎年、結婚記念日は忘れずに祝ってくれました。海外の駐在の経験も長かったので、そのあたりは他の日本の男性よりちゃんとやってくれました。亡くなったあの日が24回目の結婚記念日でした・・・ですから伝えていただいたメッセージは主人のものだと思います・・・児玉心さんでしたっけ、本当にありがとうございました。これでモヤモヤしていたものが晴れてスッキリしました」
心が答えた。
「こちらこそ私の話を信じてくれて、ありがとうございます。とても素晴らしいご主人だったんですね」
「ええ、生きていれば、今日が銀婚式でしたのに・・・大切な人を亡くすって悲しい・・・」
それまで気丈に振る舞っていた律子が堪えられなくなり泣き伏してしまった。
心はこれまでも同じように死者の声を残された近親者に伝えて感謝されたことが何度もあった。
でも、心が一番聞きたい相手・・・10歳の時に亡くなった父親の声はまだ聞こえてこない。
(つづく)