第3話 まるで戦場のよう 第4章

文字数 1,387文字

2日後、浜田は大きな成果を引っ提げて支局に戻ってきた。
写真の男が分かったのだ。

「この事件は4年前に起きた、ある事件がそもそもの出発点だったんだ」
支局の記者と心を前に浜田が説明を始めた。

「今回も心さんの不思議な能力が一連の事件の謎を解く鍵となった。この能力のことは前面に出せないけど、これまで何度も助けられてきたのは、みんなも知っていると思う。心さんが見た、5~6人が倒れているという今回の事件と関係なさそうな映像に注目して調べてみたんだ。こんなに大勢が一度に亡くなる事件というのは、たくさんあるもんじゃない。そうしたら…」

その事件は4年前の12月30日にS県O町の農村で発生した。

農業の井田昭三郎(いだしょうざぶろう)さん95歳の家を近くに住む妹が訪れたところ、居間や台所、廊下などで男女6人が血を流して死亡していた。

死亡したのは昭三郎さんと妻、長男夫婦、それに長男夫婦の長男で孫の井田正明(いだまさあき)さんの家族5人と乳酸飲料販売の道岡寛子(みちおかひろこ)さん39歳の合わせて6人。

現場の居間では、井田正明の弟で孫の、井田敏明(いだとしあき)容疑者29歳が血の付いた包丁など刃物3丁を持って座り込んでおり、殺人の疑いで逮捕された。

井田家では以前から相続問題でもめており、12月30日の昼過ぎ、激高した敏明容疑者が家族を次々に刺した。乳酸菌飲料販売の道岡さんは、たまたま居合わせて被害に遭ったもので、家族のトラブルとは全く関係なかった。

敏明容疑者は20歳ごろから精神病院に入院歴があり、逮捕後も言動におかしいところがあることから精神鑑定が行われた。その結果、心神喪失と判定され、刑事責任は問われなかった。措置入院となったが3年半後に退院した。

「ここ10年ぐらいの新聞スクラップで調べたら、この事件がピッタリ一致するんだ」
浜田は得意そうに説明した。
「それで、今回の暴走ダンプ事件の容疑者は誰なの」
信子が聞いた。

「そこで、一昨日の夜ノブちゃんが現場で撮った不審な男の写真が役に立ったんだ。4年前の事件の関係者に写真を見せたところ、すぐに分かった。犠牲者の中で巻き添えとなった道岡さんの夫の光男(みつお)だった」

浜田の口から出てきた意外な名前に全員が驚いた。

「夫の光男は事件の後、犠牲の者の夫として何度か新聞にも記事が出ていて、最愛の妻を理不尽に殺された怒りや無念さを訴えていた。そして井田敏明が心神喪失により無罪となったときには怒りは頂点に達し『もしできるものならばこの手で殺したい』と悔しい胸の内を吐露している。その光男が一昨日の現場にいたんだから…。」

「ということは、妻を殺された夫の復讐ってこと? で、2つの遺体の内、敏明はどっち?」
「それは、乗用車で焼死した男性が車の所有者だとすれば、歩行者のほうが敏明だということになる」

「ノブちゃんが襲われたのは何故?」
山元支局長が聞いた。
「よく分からないが、事件を目撃されたと思い込んだんじゃないかな。それとこれも推測だが、タクシーの運転手も事件を目撃したため殺害された可能性もあるね。真相は光男本人に聞いてみないとわからないけど…
「そうだな、このままじゃ、ノブちゃんも安心して外に出かけられないし、早く光男を見つけて捕まえないと…」
山元支局長がそう言うと、浜田はさらに意外なことを言った。

「みんな光男は逃げていると思うだろう。ところが、光男は今でも家にいるようなんだ」

             (つづく)




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