第3話 まるで戦場のよう 第5章

文字数 1,366文字

警察の発表によると
今回の犯行が行われた状況について、目撃者の証言などから、ある程度分かってきた。

ダンプカーは前日の午後9時から10時の間に盗まれている。
そして、午後10時半から翌日午前0時ごろまでの間、横断歩道付近でダンプカーが通過を繰り返したりしたり停車したりして何かを待っている様子を複数の人が目撃している。
この後、横断歩道上で歩行者がダンプカーに轢かれて死亡し、さらに近くでタクシーが襲われ運転手が死亡。
これをきっかけに他のタクシーなど2~3台がダンプカーを追いかけ、ダンプカーは逃走しながら
車6台に次々に激突。
午前0時50分ごろ、路地で停車中の乗用車にダンプカーが衝突して、乗用車が炎上し男女2人が死亡した。
さらに、ダンプカーは10台の車に次々と衝突し、その後逃走した。

警察の発表を聞いて浜田は信子に言った。
「ノブちゃん、この事件の流れを見てどう思う?」
「うーん、一言でいえば容疑者が狙ったのは最初の被害者の歩行者だけで、ほかの3人は容疑者の逃走中に巻き添えを食ったんじゃないかな」

「うん、僕もそう思う。今回の事件は現場がたくさんあって、犠牲者も多いんで、分かりにくいんだけど、妻を殺された光男が容疑者で、犠牲になったのが歩行者の井田敏明だったとしたら…」

「そうですね。意外と単純な事件なのかもしれませんね。でも、現場はまるで戦場のような状況で…。特に歩行者の遺体は今思い出しても、かなり異様でしたね」

浜田も現場の状況を思い出して
「現場を見た警察官に聞いたんだけど、歩行者はダンプカーにはねられて倒れた後、腹部から上の部分をタイヤで何度も轢かれてつぶれていたそうだ。その警察官は『よっぽど恨みを持った人間の犯行か、異常者の犯行ではないか』と話していたけど、僕もそう思ったね」

「それで今後の取材の進め方なんだけど、」と浜田は続けた
「光男が容疑者だとすると、4人も殺害しているだけに、我々も安易に近づくわけにいかない。へたしたら、我々も被害を受けるかもしれない。今回の取材は特に慎重に進めないと…。まずは、警察の捜査がどこまで進んでいるか探りを入れてみようか。ノブちゃんも馴染みの刑事などに聞いてみて。僕も心さんのことに少しは関心を持ってくれている警察幹部などに、それとなく話してみるから」

浜田はこれまでも捜査が難航している事件などで「不思議な能力」を持つ心が見た映像のことを、警察関係者に話してきた。ほとんどの警察関係者は
「事件のことを夢で見ましたと調書に書くのかい?」
「そんな変な情報を裁判官が、いや起訴する検察官が信じると思う?」
と一笑に付し相手にしてくれない。

しかし、警察の使命は事件を解決することである。そのためには、どんな変な情報でも一応は聞いて調べてみるという姿勢の警察幹部も少数ではあるがいて、これまで心の情報がもとになって解決した事件もいくつかあった。しかし、気を付けないと警察の捜査が暴走するきっかけを作りかねない危険性も合わせ持つ情報でもある。それだけに、その扱いはかなり慎重にしなければならない。それを、浜田は今回の事件で思い知らされることになった。

次の日、ある人物が信子たちの○○新聞のS支局を訪れた。

信子たちが今回の事件の容疑者とみている道岡光男である。

                (つづく)  
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