第1話 あなたに逢いたくて 第4章【挿絵有】
文字数 2,295文字
女性変死事案については、次の日の報道発表でかなり分かってきた。
警察発表によると、吉岡は勤めていたK県のK銀行を無断欠勤した日にK県からおよそ300キロ離れたM県に行きレンタカーを借りている。そして、その翌日、M県の県庁所在地、M市のⅯ銀行本店に勤務するA氏と会っている。実は吉岡はK県の銀行の前にⅯ銀行に勤めており、A氏と一時恋仲だったが、その後破局して、吉岡はⅯ銀行を辞めて故郷のK県のK銀行に再就職していた。
A氏によると、吉岡はA氏が結婚すること聞き、2年ぶりに突然訪れ、A氏に結婚をやめるように迫ったという。A氏が断ったところ吉岡は激高し「あなたを殺して私も死ぬ!」などと叫び刃物を取り出したので、それを取り上げ別れたということだ。
警察発表では、「これ以上はプライバシーなので」という理由で、A氏の名前を含めて明らかにされなかった。
結局「男女間のもつれはあったが、それが吉岡さんの死亡に関係しているかどうかは分からない」とし、警察としては「引き続き、事故、自殺、事件の可能性も含めて捜査をける」との発表にとどまった。
関係者のアリバイもしっかりしており、警察では事件性は薄いとの見方が強くなっているようで、今後さらに詳しい発表が行われるかどうか雲行きが怪しくなってきた。それに伴い他の報道機関のほうも興味を失っているようだった。
翌日の朝早く、S支局に電話があった。心 の母親からだった。まだ、携帯電話が普及する前なので固定電話である。時間外の電話は支局の山元大樹 支局長の家に転送されるシステムとなっていた。心 のことは支局長には報告していなかったので、電話を受けた支局長は当然チンプンカンプン。すぐさま浜田に電話した。
「おい、なんか変な電話がかかってきたぞ。K県の児玉とかいう女性からなんだが、内容が全然わからないんだ。息子が新たな映像を見たとかなんとか。一体何のことか説明しろ」
不確かな情報なので報告しなかったことを謝って、浜田は「不思議な」少年のことを説明した。すると山元の反応は意外なものだった。
「ほー、それは奇妙な話だね。まあ今回の変死との関係はよく分らんが、その少年、面白そうじゃないか。社会風俗の観点から取材を続けたら面白いかもね」
あとで聞いた話だが、山元は「オカルトもの」が大好きだったそうだ。
「オカルト大好き」の支局長のバックアップもあって、この取材は新人の信子が継続して担当して取材することになり、早速一人でK県とM県への取材が決まった。通常、支局の守備範囲外の取材は現地の支局にお願いするのだが、今回は変死事案以外の心 の取材も兼ねているため県境を越えた取材を行うことになった。ただし、支局の人員は限られているので一人での出張となったのだ。
警察キャップの浜田は取材経験の乏しい信子のことを心配して
「ちょっとでも分からないことがあったら、どんなことでもいいから電話して。それから心さんのいうことを100パーセント信じちゃダメだぞ。何しろ突拍子もない話なんだから、冷静になって判断するんだよ。」
浜田は年齢が40歳前で私と15歳ぐらい年齢が離れているが、なんともはや心配性のお父さんみたいだ。
まずK県の県庁所在地、K市の心 の家を訪ねた。心 とは4日ほど前に僕会ったばかりだが、とてもうれしそうな表情で私を迎えてくれた。
「またすぐに会えましたね」信子が言うと、心 は
「だって僕の話をちゃんと聞いてくれた初めての人だったんです。小田さんが。だから何かのお役に立てたらと思っているんです」
「それで新たな映像としてはどのような映像が出てきたんですか?」
「今朝の新聞を見たら『男性との交際のもつれが原因か』なんて書かれていたんですが、僕が昨日見た映像では初めて女性の姿がはっきり出てきたんです。」
「誰だかはっきり分かるんですね。どんな女性でした?」
すると心 は「それがそのう・・・」と言ったっきり口ごもり、顔が真っ赤になった。
母親が「ほら、心 。はっきり言いなさい」
母親に促されて心 は下をうつむきながら説明を続けた。
「全裸の女性の映像が繰り返し出るようになったんです。」
「全裸の?」
信子が聞き返すと
「はい、全裸です。でも映像から受ける感情としては懐かしさの感情が強く、それに驚きや怒りなどが混じった感情も感じられるんです。亡くなった吉岡さんかとも思ったんですが、どうも違うらしいんで、小田さんに相談したら分かるかもと思って連絡したんです」
「そうですか」
吉岡の写真は入手していたので、それを見せたが心 は即座に否定した。
心 が見た映像から判断すると、映像に出てくる女性は吉岡の職場の関係者か、住まいの周辺の住民と思われる。
そこで信子は支局に相談することもなく自分の考えだけで親子に依頼した。
「お母さん。心さんは今、高校には行っていないということですので、もし了解していただけるのであれば、あすまで2日間私の取材に同行してもらえませんでしょうか。映像に出てきた女性が分かるかもしれないんで。」
「そうですね。はっきりさせられるのであればそれが心のためにもいいかもしれませんね。ただし、私はどうしても仕事が休めないので心ひとりになりますけど。心 、どうですか?」
「お役に立てると思うので、頑張ります」
「じゃあ、心。1泊の旅行の準備をしなさい。私は小田さんともう少し話がありますから」
そして母親は息子に対しての思いを私に語った。
(つづく)
警察発表によると、吉岡は勤めていたK県のK銀行を無断欠勤した日にK県からおよそ300キロ離れたM県に行きレンタカーを借りている。そして、その翌日、M県の県庁所在地、M市のⅯ銀行本店に勤務するA氏と会っている。実は吉岡はK県の銀行の前にⅯ銀行に勤めており、A氏と一時恋仲だったが、その後破局して、吉岡はⅯ銀行を辞めて故郷のK県のK銀行に再就職していた。
A氏によると、吉岡はA氏が結婚すること聞き、2年ぶりに突然訪れ、A氏に結婚をやめるように迫ったという。A氏が断ったところ吉岡は激高し「あなたを殺して私も死ぬ!」などと叫び刃物を取り出したので、それを取り上げ別れたということだ。
警察発表では、「これ以上はプライバシーなので」という理由で、A氏の名前を含めて明らかにされなかった。
結局「男女間のもつれはあったが、それが吉岡さんの死亡に関係しているかどうかは分からない」とし、警察としては「引き続き、事故、自殺、事件の可能性も含めて捜査をける」との発表にとどまった。
関係者のアリバイもしっかりしており、警察では事件性は薄いとの見方が強くなっているようで、今後さらに詳しい発表が行われるかどうか雲行きが怪しくなってきた。それに伴い他の報道機関のほうも興味を失っているようだった。
翌日の朝早く、S支局に電話があった。
「おい、なんか変な電話がかかってきたぞ。K県の児玉とかいう女性からなんだが、内容が全然わからないんだ。息子が新たな映像を見たとかなんとか。一体何のことか説明しろ」
不確かな情報なので報告しなかったことを謝って、浜田は「不思議な」少年のことを説明した。すると山元の反応は意外なものだった。
「ほー、それは奇妙な話だね。まあ今回の変死との関係はよく分らんが、その少年、面白そうじゃないか。社会風俗の観点から取材を続けたら面白いかもね」
あとで聞いた話だが、山元は「オカルトもの」が大好きだったそうだ。
「オカルト大好き」の支局長のバックアップもあって、この取材は新人の信子が継続して担当して取材することになり、早速一人でK県とM県への取材が決まった。通常、支局の守備範囲外の取材は現地の支局にお願いするのだが、今回は変死事案以外の
警察キャップの浜田は取材経験の乏しい信子のことを心配して
「ちょっとでも分からないことがあったら、どんなことでもいいから電話して。それから心さんのいうことを100パーセント信じちゃダメだぞ。何しろ突拍子もない話なんだから、冷静になって判断するんだよ。」
浜田は年齢が40歳前で私と15歳ぐらい年齢が離れているが、なんともはや心配性のお父さんみたいだ。
まずK県の県庁所在地、K市の
「またすぐに会えましたね」信子が言うと、
「だって僕の話をちゃんと聞いてくれた初めての人だったんです。小田さんが。だから何かのお役に立てたらと思っているんです」
「それで新たな映像としてはどのような映像が出てきたんですか?」
「今朝の新聞を見たら『男性との交際のもつれが原因か』なんて書かれていたんですが、僕が昨日見た映像では初めて女性の姿がはっきり出てきたんです。」
「誰だかはっきり分かるんですね。どんな女性でした?」
すると
母親が「ほら、
母親に促されて
「全裸の女性の映像が繰り返し出るようになったんです。」
「全裸の?」
信子が聞き返すと
「はい、全裸です。でも映像から受ける感情としては懐かしさの感情が強く、それに驚きや怒りなどが混じった感情も感じられるんです。亡くなった吉岡さんかとも思ったんですが、どうも違うらしいんで、小田さんに相談したら分かるかもと思って連絡したんです」
「そうですか」
吉岡の写真は入手していたので、それを見せたが
そこで信子は支局に相談することもなく自分の考えだけで親子に依頼した。
「お母さん。心さんは今、高校には行っていないということですので、もし了解していただけるのであれば、あすまで2日間私の取材に同行してもらえませんでしょうか。映像に出てきた女性が分かるかもしれないんで。」
「そうですね。はっきりさせられるのであればそれが心のためにもいいかもしれませんね。ただし、私はどうしても仕事が休めないので心ひとりになりますけど。
「お役に立てると思うので、頑張ります」
「じゃあ、心。1泊の旅行の準備をしなさい。私は小田さんともう少し話がありますから」
そして母親は息子に対しての思いを私に語った。
(つづく)