第5話  同級生を助けて!最終章【挿絵有】

文字数 2,363文字

美知子からの手紙が、自分のアパートの郵便受けに届いていたのを見つけたとき、信子は手紙を持った手が震えた。病院のベッドで書いた、美知子の最後の手紙だろうとおもうと、信子は胸が詰まって、とても一人で読む勇気は出なかった。

手紙は翌日、支局で開けることにした。

翌日の午前9時、支局に集まったのは、信子と心、ベテラン記者の浜田と支局長の山元の4人。信子が封筒を開けて中の手紙を取りだそうとしたとき、支局に来客があった。

「おはようございます」

そう言って、支局に入ってきたのは、県警本部の島崎正(しまざきただし)刑事部長の長女、島崎泰代(しまざきやすよ)だった。

泰代は信子がいわゆる「夜討ち朝駆け」取材で島崎刑事部長の自宅を訪問したことがきっかけになって、個人的に友達になった女性で、美知子についても相談していた。

「すみません。信子さん直接接来てしまいました」
「泰代さん、どうしたの?」
「実は父に聞いたんだけど、信子さんが大事な友達を亡くして、ショックを受けているって・・・。それで支局に来てみたの・・・」
「じゃあ、私のことが心配で来てくれたの? ありがとう」

そうして、泰代も一緒に美知子の手紙を見ることになった。


手紙は信子が読んだ。
「皆さんにも手紙の内容が分かるように、私が声を出して読みますが、途中で感情が高ぶって、読めなくなるかもしれません。その時はごめんなさい」
信子は、そう最初に断って手紙を読み始めた。

「ノブちゃん、まだしばらくは入院しなければならないし、面会謝絶も当面続きそうなので、手紙を書きました。

私はノブちゃんに謝らなければなりませんね。(たち)の悪い男と付き合っていたこと、そして覚せい剤のこと、ノブちゃんに隠していました。
どちらも早く止めたいと思っていたんですが、とてもノブちゃんに相談できる話じゃないと思っていました。今考えるとノブちゃんに相談していれば、もっといい方向に向かったかもしれないと思います。

あの男は、ダメな男だとは分かっていたのですが、『私が立ち直らせる』と思って頑張りました。しかし、ダメでした。私を含め付き合った女性たちに覚せい剤を強制した上に、覚せい剤の副作用で幻覚も出始め、殺人事件を引き起こしてしまいました。私も覚せい剤を使っていたので逮捕されて警察署でノブちゃんにその姿を見られた時に『私はどこま堕ちてしまったんだろうか』と本当に情けなくなりました。

せっかくノブちゃんから『今でも親友だよ』といってもらったのに、ノブちゃんの気持ちを裏切ることをして、ごめんなさい。覚せい剤の禁断症状はとてもきついけど、元の体に戻すために頑張ります。ノブちゃん・・・」

そこまで読んだところで信子の目から大粒の涙がこぼれだし、あとは読めなくなった。聞いていた4人も涙ぐんでいた。



「信子さん・・・もういいよ・・・あとはそれぞれで・・・」
心が言った。
しかし、信子は
「ごめんなさい・・・やっぱり泣いてしまった・・・でも最後まで読ませて・・・」

「ノブちゃん・・・身勝手で厚かましいお願いですが、元気になって退院したら元通り、親友でいてくれる? ノブちゃんと一緒に遊び、学んだ小学生時代に戻って、もう一度、人生をやり直したい気持ちで一杯です。
  私の大事なお友達 ノブちゃんへ
                西村 美知子 」

信子は読み終えると手紙をデスクの上に置き、静かに目を閉じた。

しばらくして、泰代が信子を励ますように言った。
「信子さん、あなたは美知子さんを助けられなかったと思って、自分を責めているかもしれないけれど・・・。私は、この手紙、信子さんへの思いが詰まっている優しい手紙だと思ったわ。美知子さんの『命』を救えなかったのは残念だったけど、決して美知子さんは絶望して亡くなったんじゃない。信子さんとの未来の姿を『希望』として描いていた。そう考えれば、信子さんは美知子さんの救いになったと思えないかな・・・」

その言葉を聞いて、信子は黙ってうなづいた。



その日を境に心は支局や信子の自宅を毎日1回は訪れて、信子とコンタクトを取る努力を始めた。美知子の死は信子にとって大きなストレスとなったはずで、それが最悪の場合、うつ病や自殺の原因になりかねないと考えたからだ。

心には10歳のときに亡くした父親に対する苦い経験がある。死の原因は自殺か他殺か分からなかったが、悩んでいた父親に対して家族としてもっと関与できなかっただろうかとの思いは今でも残っている。

それだけに今、心は信子のことが心配で仕方がなかった。 

信子は一見、以前の状態に戻ったよう見えるが、行動的で活発な信子は姿を消して、時折、物思いにふける様子が見られ、信子はまだ完全に美知子の死を受け入れることが出来ないのではと思っていた。

美知子の死から10日ほど経って、信子が心に
「みっちゃんにお線香をあげたい。一緒に行ってくれる?」と聞いてきた。
「もちろん、また僕が運転しますよ」

2人の2度目のドライブも1回目と同じ美知子の実家があるY市となった。

美知子の実家を訪れて、母親に改めてお悔やみを述べた後、信子は心と2人で近くの墓地に行った。そして、美知子の遺骨が納められた墓に線香を供え、2人で手を合わせた。

信子が終って心のほうを見ると、心は手を合わせたままで静かに泣き始めた。

「心くん、どうしたの?」
「これは・・・この声はもしかして・・・」

「え?まさか・・・!?」
信子が叫んだ。
心は言った。
「そうです! 信子さん。・・・美知子さんの声が聞こえます!」

「みっちゃんは何て・・・?」

「・・・ノブちゃん・・・ありがとう・・・さようなら・・・と」

その時、信子の頬を優しく風が撫でた。
信子はそれが美知子からの別れの挨拶のように感じた。

「・・・うん。さようなら・・・みっちゃん・・・」

          (第5話おわり)



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