第3話 まるで戦場のよう 第3章

文字数 1,692文字

「ガシャーン!」

大きな音とともに白い乗用車が支局の入り口付近に激突した後、
そのまま走り去った。

「何だ今のは?」
支局から浜田や山元支局長が飛び出してきた。
「信子、心、大丈夫か?」

信子と心は支局のドア付近に倒れていた。
「大丈夫です」
心が返事した。
幸い2人とも膝を擦りむいた程度で大きなけがはなかった。
心がとっさに信子の体を引き寄せたため助かったが、はねられていたら死んでいたところだ。

突然の出来事にショックを受け、信子は泣き出していたが、心は気丈に信子の肩を抱きしめ
「もう大丈夫。信子さん大丈夫」と慰めていた。

明らかに支局を狙った事件のため、警察に連絡し、警察の事情聴取と見分が行われた。
すべてが終わった後、心が口を開いた。

「けさ4人が亡くなった事件で僕が見た映像の中に、さっきの白い乗用車の運転手の顔が
ありました。一瞬見えただけですけど。警察に言ってもいつものように信じてもらえないので黙っていましたが」

すると浜田が
「ひょっとすると、その男、俺と信子も会っているかもしれない」と言い出した。
「さっきまで事件には関係ないと思っていたんだが、心さんが映像で見た男と同じなら、関係があるかもしれない。ノブちゃん、その男の写真あったよな」
「はい、この男です」

信子が指し示した男の顔を見た心は即座に
「この男だ」と答えた。

この男は、タクシー運転手と歩行者が殺された現場で、信子が写真を撮っていると
「おい!いま、俺の写真を撮っただろう!断りもなしに人の顔を撮っていいのか。フィルムをよこせ」と言ってきた男だ。
男が力づくでカメラを取り上げようとしたところに、ちょうど浜田が到着したため
男は
「くそ!」と捨て台詞を言いながら姿を消した。

取材現場で写真撮影に伴うトラブルはたまにあ
るので、その時は気にも留めなかったが、どうやら事件に深く関係する男のようだ。

「なぜ支局を狙ったの?」
信子が質問した。
浜田はちょっと考えた後
「これはあくまでも推測の域を出ないけど、あの男が容疑者だとすると、自分が捕まるような証拠はすべて消そうとするだろう。ノブちゃんに犯行を目撃されたとか思い込んで殺そうとした可能性もあると思うんだ。だから、ノブちゃんは安全なところにしばらく避難したほうがいいと僕は思う」
「じゃあ、うちに来たらどうかな?」
心が提案した。
「そうだな、心さんのところが一番安全そうだな。でも本当にお願いしていいかな」
母親の了解も得られ、信子はしばらく取材から外れ、心の家に避難することになった。

浜田は
「ノブちゃん、君の安全が第一なんだから、取材に加わりたいだろうが、しばらくは外に出ないで避難しているんだよ。俺はその男に関してちょっと気になるところがあるんで調べてみる」と言って取材に出かけた。

心の母親、岬はシングルマザーで、一人息子の心を大事に育ててきた。信子はこれまで何度か、岬と話したことがあるが、岬の心に対する姿勢からは、母親の強い愛と厳しさが感じられ、教えられることがたくさんあった。
夕食の後、くつろいでいると、岬から話し始めた。心はほかの部屋にいて2人だけだった。

「信子さん、以前もあなたに言ったと思うけど、心はあなたがいることで、本当に助けられています。改めて感謝します」
「いえ、私こそ心さんにはいろいろ助けてもらっていますし、今回は命まで助けてもらいました。本当にありがとうございました」
「心は父親が死んでから、それも異様な死に方だったんで、精神的に不安定になり、不思議な体験もするようになりました。母親として頑張ってきましたが、やはり1人では限界があります。信頼できる友人が必要だと思っていました」

「立ち入るようで申し訳ありませんが、心さんのお父さんはどのような方だったんですか」
「そうですね…」

岬は遠くを見つめるような目をして辛かった当時のことを思い出しているようだった。

「心の父親は代議士の秘書でした。優しくて子煩悩あな父親だったんですが、心が10歳の時に自殺してしまいました」
「自殺ですか?」
「警察では自殺と言われましたが、私も心も殺されたと思っています」
「えっ!」

        (つづく)







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