第6話 廃校に幽霊が出た 第2章

文字数 1,721文字

5年前に廃校になったS県M町のM小学校柿之木分校跡で「幽霊が出る」という話を最初に言い出した住民の男性を訪ねて話を聞いた。

この住民は妻と二人暮らしで、80代半ばの人の良さそうな男性だった。分校跡から一番近いところに住んでいることから、住民代表として校舎の合鍵を預かっているほか、施設に異常がないか定期的に点検することもボランティアで行っている。ただ、一番近いといっても100メートルほど離れており、自宅から教室の中の状況が詳しく確認出来るわけではない。

「3週間ぐらい前だったんだけど、夜中の2時ごろにトイレに行くために目が覚めて、ふと外を見ると分校跡のほうが明るかったんだ。こりゃあ最後に使った人が電灯を消し忘れたなと思って分校跡に向ったんだが、途中で消えちまったんだ」

住民によると、分校跡まで行って確かめたが灯りは消えており、窓や出入り口にはカギが掛けられていて、だれかが侵入した痕跡は無かった。誰もいないはずの分校跡で灯りがついたり消えたりするのは不思議だとは思ったが、その日はそのまま帰った。次の日に調べたが、その日は分校跡は誰も使っていなかった。

次の日の夜もほとんど 同じ時刻に起きて分校跡の方角を見ると、前の晩と同じように明るかった。今度は妻と2人で確認に行ったが、やはり到着する前に灯は消えてしまった。人気は全くなく何者かが侵入した痕跡も無かった。
地域の住民に聞いても、心当たりのあるものはおらず、気持ち悪いので町役場に連絡したとのことだった。

「えっ!?それじゃ幽霊を見たと言う訳では無いんですか?」
信子が聞いた。

「ええ、今お話ししたのが私が見た全てです。役場にもそう伝えました。それがどう言うわけか『私が幽霊を見た』」となり、『廃校に幽霊が出た』となってしまったんです。まるで私が幽霊話を言いふらしているように思われていて、私も困っているんです」

「なんでそのように伝わったんでしょうか・・・心当たりありませんか?」
浜田が聞いた。


「そうですね・・・しいて言えば・・・ウチの婆さんが私と一緒に分校跡の点検をしていたときに『白い光の球が2つ山の上を飛んでいるのが見えた』と話していたので、それも役場に話したのですが・・・それが幽霊話に・・・」

「奥さん・・・なにが見えたの?」
信子が聞いた。
「まあ・・・はっきり見えた訳ではなかったので言わなくてもよかったんだけど・・・近くの山の上のほうに、ほんの一瞬だったんだけど白い光の球のような物が2つ見えたんだよ」
「山の上というと、山の上の空ですか?それとも、山の斜面の上のほうのことですか?」
「真暗だったからね。ひょっとしたら山の斜面のほうだったかも・・・ごめんね、よく覚えていなくて、お嬢ちゃん」

「いえ、そんなことないですよ。お話ありがとうございました」


話を聞き終えて住民の家を出た時、信子が一言つぶやいた。

「ああ・・・おばあちゃんっていいな・・・優しくて・・・」


さん、どうしたんですか?ニコニコして」
心が聞いた。
「いや、大したことないの。今お話を聞いたおばあちゃんを見て、去年亡くなった祖母を思い出したの。とても優しいおばあちゃんで、初孫の私を可愛がってくれたんだけど、最後は認知症がひどくなって、私のことを『お嬢ちゃん』って呼んでたり・・・だから、さっき久しぶりに『お嬢ちゃん』と呼ばれて懐かしくなっちゃった」


夜まで時間があるので、心の提案で墓地に行ってみることにした。「墓地に行けば何か幽霊話の手掛かりになるものを心が感じ取れるのではないか」と思ったからだ。

墓地は分校跡の近くにあった。

歩いていくと、心が突然立ち止まり首を傾げた。

「この墓地、なんか変です。
普通、墓地に行くと僕にはほとんど何も感じられないんです。墓地に納骨されている死者は良い人生でも悪い人生であっても、自分の人生を受け入れて『悟りを開いた』ような状態で眠っているんです。でもここは違います。なんか『騒がしい』んです。そして、何か声と・・・」

「それは気味悪いです
ね・・・」
信子がそういうと、」浜田も、
「これは大変な取材になりそうだ」と呟いた。

「果たして廃校に幽霊が出るかかどうか」
深夜の張り込みがスタートした。

(つづく)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み