第6話 廃校に幽霊が出た 第3章

文字数 1,560文字

「こんな取材をしようと言ったのはどこの誰だ?周りに誰もいない山の中で幽霊を待つなんて!こ・・・怖すぎる!」

信子と浜田、それに心の3人は住民の男性から分校跡の全ての合鍵を預かり、校舎を見渡せる校門近くの茂みに車を置いて車の中から張り込みを開始した。

山中の分校跡は一番近い人家まで100メートルはある。次に近い人家まではさらに500メートルもあり、周囲にはほとんど人家はないと言ってもいい。
そんな寂しいところにある分校跡で深夜に「幽霊」が出るのを待つなんて、考えただけでも怖い話だ。
ましてや今夜は新月で真っ暗なので、怖さも倍増する。

静寂の中で恐さをまぎらせようと誰からともなく小声で話を始めた。なるべく楽しい話をと思っていても、話題は次第に「幽霊」の話になっていった。
「実は・・・」と話し始めたのは浜田だった。
「田舎のトイレは家の外にあってね、子どもの頃は幽霊が出るんじゃないかと怖くて夜は行けなかったな」
すると、信子も
「そうそう、私も幽霊が怖くて小学校中学年までおばあちゃんと一緒にトイレに行ってたの思い出した」

そこまで話して3人は真っ暗闇の中に佇む分校のトイレの方に目をやった。

そう、夜のトイレは怖いのである。

「今、何か動かなかった?トイレのところ!」
信子は悲鳴をあげそうになり両手で口を塞いだ。
浜田も震えた声で
「ト、トイレの前に白いものが!!」
2人とも意外と怖がりのようだ。
「大丈夫です。あれは銅像で〜す。全く動きませんよ」
心が落ち着いた声で説明した。
「本当に銅像?・・・あ、本当だ」
「ほらね」
そう言って心はニコリと微笑んだ。


「自分も子どもの頃は幽霊が怖かったです。でも死者の声を聞く様になってからは恐怖は次第になくなりました。だって、死者と幽霊って同じようなことでしょう。必要以上に怖がることはないと・・・」

心は話題を変えようと浜田に質問した。

「そういえば、昼間のお話に出てきたお子さんは今・・・」
「あっ、心くん それは・・・」
信子が心の質問を遮ろうとしたが、
浜田は
「いいよ、ノブちゃん・・・息子はその1年後に亡くなった。病気でね・・・そのことについては、ぼくも少し話したかったところだったんだ」
そういって話し始めた。

浜田は普通のサラリーマン家庭の一人っ子として育った。学校の成績も良く、常に学年1〜2位を争う両親自慢の息子だった。

大学を卒業し大手新聞社に入社してからも、記者として1番になろうと何事にも全力で取り組み、他社からも一目置かれるスクープ記者となった。

しかし、それだけに取材に入ると何日も家庭に帰らないような性格だった。

4年前に長男が高熱を出して危険な状態となった時にも連絡がつかず、浜田が自宅に帰った時には、長男は死亡していた。

浜田の妻は浜田に怒りをぶつけた。『夫がほとんど家に帰らない状態は、いくら仕事とはいえおかしい。これでは結婚している意味がない』として、小学生の長女を連れて家を出た。
浜田も妻の怒りはもっともだと反省し、離婚に応じたそうだ。

ここまで話して浜田は苦しかった4年間を振り返りポツリと言った。

「以前は仕事だから仕方がないという気持ちもあったが、家庭を顧みなかったのは確かで、夫としても父親としても失格だったと思っている」

「修復の可能性はないんですか?」
信子が聞いた。
「一旦壊れた物はなかなかね・・・難しいよね。でも最近、中学生になった長女から『話したいことがある』と連絡がが・・・まだ詳しいことは聞いていないけどね」
「いい知らせだといいですね」
信子と心が励ました。

深夜の分校跡、
11時、12時、午前1時になっても変化はなかった。

そして午前2時過ぎ・・


「信子さん、信子さん」心が小声で信子を起こした。

信子はいつの間にか寝ていたようだ。

「教室に灯りがつきました!」

      (つづく)


 
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