第2話 7人の白骨遺体 第5章

文字数 1,778文字

遺体で見つかった7人の身元確認は難航するとみられていたが、該当する失踪者、行方不明者が出てきた。
警察はまだ断定ではないので氏名を明らかにしなかったが、ベテラン記者の浜田が頑張って該当者の名前を取ってきた。

警察の調べによると
S市内で8年ほど前に、ほぼ同じ時期に行方不明となった家族が2家族あった。

一つの家族は、母親が赤城静香(あかぎしずか)・失踪当時40歳、次女6歳、長男2歳。
もう一つの家族は。夫が馬場浩一郎(ばばこういちろう)35歳、妻が馬場沙耶(ばばさや)35歳、長女5歳、次女2歳。
2家族で丁度7人になる。
身元が分かったのは、やはり子どもの下着についていた名前で、鑑定の結果赤城静香の次女の名前と同じだと分かった。調べてみると、ほぼ同じ時期に行方不明になった馬場浩一郎の家族が4人で人数も2家族合わせて7人となり、白骨遺体と人数、家族構成が類似している。
そして、何よりもこの2家族には接点があった。
それは赤城静香と馬場浩一郎が同じ職場で働いていたといううことである。

この2人に関連して8年前に殺人事件が発生している。
事件のあらましはこうだ。
昭和5〇年7月13日、
心中した7人のうちの一人、赤城静香の夫、赤城研二(あかぎけんじ)は自分の妻・静香が、同じ会社で働く馬場浩一郎と不倫関係にあるとして立腹し、S県S市にある馬場の自宅に刃物を持って押しかけた。その時、馬場の自宅には浩一郎は不在で妻の馬場沙耶と子ども3人がいた。目的の浩一郎がいないことで赤城静香の夫・赤城研二は大声をあげてどなり始めた。これをやめさせようとした沙耶と近くにいた5歳の長男が刃物で刺され、沙耶は軽傷だったが、長男が死亡した。赤城研二は警察に逮捕され、懲役12年の判決を受けて服役中である。

警察によると、それから1か月ほどして2つの家族が相次いで失踪した。当時の新聞に2家族の失踪の記事は全く見当たらない。しいて警察が発表すべき事実でもないから。

赤城静香と馬場浩一郎は世間の好奇の目と批判に晒され、追い詰められていったことは想像に難くない。今回、7人の遺体が発見された現場の状況に不審なものはなく、子どもの着衣のネームが一致したことから、警察としては2家族による無理心中事件との見方が強まっていた。

日本の場合、無理心中は加害者も被害者も同じ家族内の事件のことが多く、殺人事件ではあるが裁判の判決も被告の心理状態などを考慮して情状が認められ、一般の殺人事件より軽くなる場合も多い。従って報道機関の扱いも特別世間の注目を集めるような事件でなければ、軽い扱いになるきらいがある。今回の7人の白骨遺体も人数が多いという特異な事案であるが、無理心中であるという可能性が高いため、報道機関の興味は薄れかけていた。

信子は今後どのように取材を進めるか支局で思案していた。
そこにやってきた浜田が声をかけた。
「どうした? 難しい顔をして」
「白骨遺体の件については、いろいろ情報を取っていただいてありがとうございました。どうやら無理心中ということに落ち着きそうですが、心さんの取材を含めて、今後どうすればいいか考えていたんです」
「そうだな、心さんの件は支局長が興味を持っているから、まずは支局長に相談すべきだろうが、もともと新聞では扱いにくいネタだからな。難しいだろうけれど、いまは支局長のバックアップもあるので、焦らずに時間をかけてじっくり取材していけばいいんじゃないかな」
「そうですね」
「それから、これは刑事さんなんかがよく言うセリフなんだけど、『捜査に行き詰まったら現場に戻れ』というんだ。これは警察の捜査だけではなく、我々報道機関の取材についても言えることだと思うよ。幸い今日は特に取材予定も無いようだから、現場に行ってみたらいいよ。現場といっても遺体発見現場じゃないよ、無理心中した2つの家族の周辺の人々の話を聞きに行くんだ。聞き込みだよ。現場には今後の取材のヒントが転がっているかもしれないよ」

信子は早速、「聞き込み」取材に行った。

最初に行ったのは、赤城研二の家の家だ。
研二は馬場浩一郎の長男を殺害して現在服役中で、妻と子2人の合わせて3人は数日前、白骨遺体となってS市の山中で発見されている。信子は家には誰もいないだろうと思っていたが、人が住んでいるようだ。
玄関のチャイムを鳴らすと、若い女性が出てきた。

「誰?」
               (つづく)
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