第4話 パラダイス島のヤクザ 第6章

文字数 1,480文字

「ドンドンドン!」

「ドンドンドン!」

「誰だ!? こんな時間に!」
山口が怒鳴った。

「事務所の中にいる人、ドアのカギを開けなさい‼」
「信子さん、大丈夫?」

心と母親の声だ。
信子は「私の知り合いです。ドアを開けてください」と山口に頼んだ。
山口は「仕方がないな」という表情をしたが、すぐにドアを開けた。

心と母親の岬、それにみどりの3人が飛び込んできた。
先に事務所を脱出したみどりが助けを呼びに行ったらしい。

心は真っ先に信子のところに駆け寄った。
「信子さん、無事でよかった…」

山口はソファから立ち上がり
「俺はなにもしていないからね。お話をしていただけだ」と弁明した。

岬は山口を睨みつけながら
「ノブちゃんを返してもらうからね。ノブちゃん、こいつからひどいことされなかった?」
「いいえ山口さんは特に何もしていません」

「えっ! 山口⁉」
その名前を聞いた岬はまじまじと山口の顔を見ていた。そして

「山口(まもる)くん?」

山口も岬の顔が分かったらしく
「ああ、岬のおばさん…ですね。お久しぶりです」

山口と岬は知り合いだった。

「護くん、あなたお父さんと同じでヤクザをやっているのね。まだやめないの? ところでお父さん、最近連絡を取っていなかったんだけど、お元気?」

「親父はですね…2カ月ほど前に他界しました」

「えっ!そうだったの。実は私、あなたのお父さんに会えると思って、ツアーに参加したのに…」

そのやり取りを聞いて、信子は岬が『Y島には古い友人がいる』と言っていたのを思い出した。

「それは大変だったわね。お母様も早くに亡くなって…あなたは一人っ子だったから、いま、ご家族はいらっしゃるの?」
「いやーまだ独り者です。ヤクザですからね」
そう言って山口は寂しそうに笑った。

心はS県で育ったが、両親はいずれもY島の出身だ。一方、山口の父、修二もY島出身で心の母、岬とは幼馴染だった。

修二は戦後まもなくからY島でヤクザをしていたが、息子の護にいつも「幼馴染の岬さんは自分の命の恩人だ」と話していたそうだ。

生前、修二に聞いた話によると、修二がヤクザになる前の不良グループにいたとき、他の不良グループと喧嘩になり、修二は相手グループのリーダーにナイフで腕や腹部を刺され重傷を負ったそうだ。その場は何とか逃げることが出来たが、その時、修二をかくまってくれたのが岬である。相手のリーダーは残酷な性格で、修二を殺そうと探し回った。結局、リーダーが諦めて島を出るまでの1週間、岬は修二を守り切った。

修二は酒を飲むとよくこの話をして
「岬さんが助けてくれなかったら、護、お前は生まれていなかったんだよ」と言っていたそうだ。

「私がもう少し早く会いに来ていれば…」
岬は残念そうに唇を噛みしめた。
「いえ、父のことを気にかけてくださり、ありがとうございます」
そう言った山口の顔からヤクザの顔がすっかり消えているように信子は感じた。

せっかくなので、あす、みんなで墓参りをすることになった。


翌日、信子にとっては、初めてのY島の朝を迎えた。
ホテルの窓から見える空は晴れ。昨夜が遅かったので目が覚めたら午前9時だった。

「いけない!世界が回っている!」

昨夜は、気が張り詰めていて酔いが吹っ飛んでいた信子だったが、今朝はひどい「二日酔い」だった。

今日は午前10時に現地集合で墓参りをしたあと、取材は午後からの予定だが、借りていたレンタカーはとても運転できない。急いで身支度をして、タクシーを呼んでもらおうとフロントに行ったら…
「えっ!何で?」

そこに山口が立っていた。

「何で彼がいるのー?」

                     (つづく)









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