第5話 同級生を助けて! 第8章
文字数 1,475文字
電話は心からだった。
普段は穏やかな性格の心だが、この日の朝の心はかなり興奮していた。
「信子さん! 信子さん! 大丈夫ですか!」
「心くん、どうしたの? 私は大丈夫だよ」
「あっ、信子さん。良かった、無事なんですね」
「心くん、何を興奮しているの? 何かあったの?」
信子の声を聴いて、心はようやく落ち着きを取り戻した。
「信子さん、今朝、久しぶりに『死者』の声を『受信』したんです」
「今朝は、最初誰かが泣いている声がしばらく続いたあと、映像がだんだん見えてきて・・・泣いているのが女性だと分かったんです。誰かなと思っていると、突然、信子さんの顔が見えたんです。それで、これは信子さんに何かあったんじゃないかと思って電話したんです」
心の説明を聞いていて、信子はそれが何を示すのか・・・すぐに分かった。
実は、美知子が入院したときに主治医から「思ったより体の状態が悪いので、場合によっては、そんなに持たないかもしれないので覚悟してほしい」と言われたと、母親から信子は聞いていた。
「分かった。それが何なのか私の方で調べてみる。分かったら連絡するね・・・心くん・・・ありがとう・・・私は大丈夫だからね」
心の特殊な能力については、信子もかなり信頼を寄せているが、今回だけは外れてほしいと心の中で願った。
空が白みかけころ美知子の母親から電話がかかってきた。
美知子が病院で亡くなったという連絡だった。
「ノブちゃん・・・美知子はダメだったよ・・・奇跡は起きなかったね」
母親は電話先でさめざめと泣いた。
受話器を置いて信子は窓のところに行き、外を眺めた.
間もなく夜も明け、新しい一日が始まる。
でも、きのうまで確かに存在していた美知子は、
きょうはもういない。
新しい一日を迎えることは出来なかった・・・。
葬儀は翌日、身内だけでささやかに行われた。
信子が支局に戻ると、信子のことが心配だったのか、心が来ていた。
心の顔を見るなり信子が叫んだ。
「ゴメン!心くん。誰のことか分かったら連絡すると言っていたのに忘れていた」
「いいんですよ。気にしないでください。詳しいことは浜田さんから聞いていたんで・・・。でも信子さん、本当に大変でしたね」
「うん・・・大変だった」
信子が素直に答えた。
すると、自分のデスクで原稿を書いていた先輩記者の浜田公平 も話しに加わってきた。
「そうだよ・・・大切な友達を亡くすってことは、23歳の若さであれば、なおさら辛いよね」
支局長の山元大輝 も近くの椅子に座り、修子の話を聞いていたが
「僕たちの仕事は人間の不幸に向き合うことの多い仕事でもあるからね・・・こういう経験はこれからも出て来ると想うよ・・・苦しいけれどね」
信子は、みんなが自分のことを気にかけて、慰めてくれるのが嬉しかった。
「でも」と信子は話を続けた。
「私は人を助け、社会が少しでもよくなるために役立つ仕事をしたいと、この仕事を選んだんです。しかし、私は大切な友人一人すら助けることが出来なかった。ああすればよかったのか、こうすれば助けられたのか。いろいろ考えても分からないんです・・・」
「信子さん、そんなに思い詰めないで」
心がたまらずに声をかけた。
「心くん、ありがとう。でも、みっちゃんのために何も出来なかった私って、何て非力なんだろうと思うと、悔しくて、悔しくて、仕方がないの…」
信子は当面2日間ほど休みをもらって、体と心を休めることにした。自分のアパートに帰ると、郵便箱はここ数日分が溜まっていた。
その中の一つの封書の差出人を見て、信子は息が止まるほど驚いた。
美知子からの手紙だった。
(つづく)
普段は穏やかな性格の心だが、この日の朝の心はかなり興奮していた。
「信子さん! 信子さん! 大丈夫ですか!」
「心くん、どうしたの? 私は大丈夫だよ」
「あっ、信子さん。良かった、無事なんですね」
「心くん、何を興奮しているの? 何かあったの?」
信子の声を聴いて、心はようやく落ち着きを取り戻した。
「信子さん、今朝、久しぶりに『死者』の声を『受信』したんです」
「今朝は、最初誰かが泣いている声がしばらく続いたあと、映像がだんだん見えてきて・・・泣いているのが女性だと分かったんです。誰かなと思っていると、突然、信子さんの顔が見えたんです。それで、これは信子さんに何かあったんじゃないかと思って電話したんです」
心の説明を聞いていて、信子はそれが何を示すのか・・・すぐに分かった。
実は、美知子が入院したときに主治医から「思ったより体の状態が悪いので、場合によっては、そんなに持たないかもしれないので覚悟してほしい」と言われたと、母親から信子は聞いていた。
「分かった。それが何なのか私の方で調べてみる。分かったら連絡するね・・・心くん・・・ありがとう・・・私は大丈夫だからね」
心の特殊な能力については、信子もかなり信頼を寄せているが、今回だけは外れてほしいと心の中で願った。
空が白みかけころ美知子の母親から電話がかかってきた。
美知子が病院で亡くなったという連絡だった。
「ノブちゃん・・・美知子はダメだったよ・・・奇跡は起きなかったね」
母親は電話先でさめざめと泣いた。
受話器を置いて信子は窓のところに行き、外を眺めた.
間もなく夜も明け、新しい一日が始まる。
でも、きのうまで確かに存在していた美知子は、
きょうはもういない。
新しい一日を迎えることは出来なかった・・・。
葬儀は翌日、身内だけでささやかに行われた。
信子が支局に戻ると、信子のことが心配だったのか、心が来ていた。
心の顔を見るなり信子が叫んだ。
「ゴメン!心くん。誰のことか分かったら連絡すると言っていたのに忘れていた」
「いいんですよ。気にしないでください。詳しいことは浜田さんから聞いていたんで・・・。でも信子さん、本当に大変でしたね」
「うん・・・大変だった」
信子が素直に答えた。
すると、自分のデスクで原稿を書いていた先輩記者の
「そうだよ・・・大切な友達を亡くすってことは、23歳の若さであれば、なおさら辛いよね」
支局長の
「僕たちの仕事は人間の不幸に向き合うことの多い仕事でもあるからね・・・こういう経験はこれからも出て来ると想うよ・・・苦しいけれどね」
信子は、みんなが自分のことを気にかけて、慰めてくれるのが嬉しかった。
「でも」と信子は話を続けた。
「私は人を助け、社会が少しでもよくなるために役立つ仕事をしたいと、この仕事を選んだんです。しかし、私は大切な友人一人すら助けることが出来なかった。ああすればよかったのか、こうすれば助けられたのか。いろいろ考えても分からないんです・・・」
「信子さん、そんなに思い詰めないで」
心がたまらずに声をかけた。
「心くん、ありがとう。でも、みっちゃんのために何も出来なかった私って、何て非力なんだろうと思うと、悔しくて、悔しくて、仕方がないの…」
信子は当面2日間ほど休みをもらって、体と心を休めることにした。自分のアパートに帰ると、郵便箱はここ数日分が溜まっていた。
その中の一つの封書の差出人を見て、信子は息が止まるほど驚いた。
美知子からの手紙だった。
(つづく)