第5話 同級生を助けて! 第2章

文字数 1,665文字

S県の県警本部と記者クラブとの懇親会。

信子は、二次会が開かれた老舗のキャバレーで島崎正(しまざきただし)刑事部長の横に座った若いホステスと目が合った。

そのホステスは、大勢のホステスの中でも群を抜いた美人で、若いながらもすでにトップの風格を漂わせていた。信子と目が合ったが、すぐに目をそらした。信子もそのホステスを見て、小学校時代の同級生によく似ているとは思ったが、年齢がどう見ても信子より5歳から10歳ぐらい年上に見えるので、他人のそら似かなとも思った。

そのようなことをいろいろ考えていたら、信子の様子に気付いた先輩格のベテランのホステスが
「そちらのお嬢さんは警察の方? それとも…」と話を振ってきた。

すると島崎刑事部長が
「この女性はお父さんが我々と同じ警察官なんです。でも、お嬢さんはお父さんと同じ道は選ばず、○○新聞社の記者になられてS県の支局に今度来られたんです」

「じゃあ、お仲間みたいな感じなのかしら?」
ベテランホステスがそう言うと、島崎刑事部長は
「いやっ、仲間では決してないですね。我々警察のことをよく知っているだけに、我々にとっては手強い相手になるでしょうね。でも、悪を憎み正義を貫こうという姿勢は一緒ですけどね」
そう言って笑った。

ベテランホステスは
「お嬢さん、お仕事頑張ってくださいね。島崎さんは警察官だけど、本当に良い人だからお手柔らかにね」
「おいおい、それじゃまるで警察が悪いみたいじゃないか」
島崎刑事部長はそう言って再び高笑いした。

2人のやり取りで場が和んだところで、ベテランホステスがその若いホステスに指示した。

「みっちゃん、島崎さんとお嬢さんのお酒作ってあげて」

「みっちゃん!?」
信子は思わず声をあげた。
志村美知子(しむらみちこ)さん?」
「・・・そうよ、お久しぶりです。ノブちゃん」
微かに笑ってホステスは答えた。
そのホステスは小学校の6年3組で信子と隣同士の席だった仲良しの「みっちゃん」
だった。

小学生の時の美知子は、どちらかというと、あまり目立たない子で、いつもニコニコしている穏やかな性格の子どもだった。行動的な信子とは対象的だったが、かえって気が合い、6年生の1年間だけだったが一緒に遊ぶ良い友達だった。信子が父親の異動で転校したため、その後は全く会っていなかった。

10年ぶりの再会である。

美知子が小学校を卒業したあと、どのような人生を歩んで来たか分からないが、他人の何倍も苦労したのだろう、その苦労が美知子の顔を酸いも甘いも噛み分けたベテランの顔に変えていた。

信子は美知子から聞きたいこともあったが、二次会には県警、報道機関合わせて15人ほどが参加しており、そちらを無視するわけにいかない。

すると先ほどのベテランのホステスが
「女性の記者さんとうちの『みっちゃん』、小学校の同級生のようですね。お二人、積もる話がおありでしょうけど、ここは大人の社交場です。お二人の昔話は後でゆっくり、お二人だけでお願いしますね」

信子は客の接待という仕事をスムーズに進めようというベテランホステスのプロ意識の高さに、この時は感心した。

二次会でも県警側の出席者は飲ませ上手で、報道機関側の新人たちは、ほとんどが飲みすぎて酔いつぶれてしまった。信子もかなり酔っていたが、美知子といろいろ話したかったので二次会がお開きになるまで頑張った。

1時間半ほどで二次会はお開きとなり、信子が店の前で待っていると、島崎刑事部長が歩み寄り
「小田さん、同級生を待っているのかな? いろいろ話ができるといいね。頑張って」
と声をかけてくれた。ちょっぴり嬉しかった。 

しかし、いくら待っても美知子は出てこない。

そこにあのベテランホステスが出て来て信子の顔をみるなり
「あら、あなたまだいたの。みっちゃんならとっくの昔に帰ったわよ。私たちの話を全て信じてはだめよ。ごめんね」
それだけ言って帰っていった。

照明が消され真っ暗になったキャバレーの外に信子だけが残された。

美知子は「同級生」に会いたくなかったんだと、その時になってようやく分かった信子だった。

         (つづく)

















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