第8話 亡霊の片腕 第4章

文字数 1,390文字

「前屋敷さんじゃないですか!」

信子の声で顔をあげた男性は、さきほど挨拶したばかりの前屋敷県議だった。

「あっ・・・!小田さん、まだいらっしゃったんですね」

信子の姿を見て「しまった」というような表情をした前屋敷県議に信子が聞いた。

「前屋敷さん。もしかして・・・ここで亡くなった、もう一人の方をご存知なんですか?」
「い、いや・・・知りません。ここで亡くなった山岡さんのご夫婦とは親しくして貰っていただけで・・・」

前屋敷県議は口籠もりながら答えた。

信子はさらに質問した。

「でも・・・少し前からご様子を見させていただきましたが、とても年上の方に話しかけるような言い方じゃなかったですよ・・・私達は今・・・」
「いえ、それは小田さんの思い過ごしではありませんか?」

信子の言葉を遮り、前屋敷県議はあくまでも「知らない」と言い張ってその場から逃げるようにして立ち去った。

「いつもは温厚な前屋敷県議にしては様子がおかしい。どうしようか」
信子が思案していると、そこに、みなみがやってきた」
「あれっ?・・・今の、父じゃなかった?」
「うん、そうなんだけど・・・」
「何かあったの?」

信子は先ほどのことを話し
「みなみちゃんのお父さんは片腕しか見つかっていな犠牲者について知っていたのかも・・・」

「そんな話、私も聞いてないわよ」
「だから、みなみちゃん、お父さんにもう1回会って詳しい話を聞かせてほしいと頼んでくれないかな?」
「分かった!」

前屋敷県議については、ひとまず娘のみなみに任せて、心と信子は先ほど出来なかった心の能力を使ったナゾの犠牲者の調査に再チャレンジすることにした。

心は災害現場に向かって目をつむり精神を集中させていたが、しばらくすると


「不思議だ・・・さっきまで沈黙していたナゾの犠牲者の声が、今は良く聞こえるようになった」
と言った。

そして
「誰かに伝えたい事が出来たので、その橋渡しをして欲しくなったのかな・・・」と呟いた。

心はナゾの犠牲者から送られてくるイメージや声を信子に伝えた。

「災害が起きる前の一軒家のようですね・・・雨が激しく降っているのが見えます。雨の中、老夫婦が何か叫んでいる。多分、この2人が亡くなった山岡さんご夫婦でしょうね・・・・あっ!突然、真っ黒になって何も見えなくなった、どうやら今回の土石流の時の光景のようです・・・う・・」

心の表情が曇る。
土石流に巻き込まれた感覚が、リアルに伝わってきたのだろう。

「心くん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。災害は人の生命や財産を一瞬にして奪う恐ろしいものなんですね・・・」

土石流によって家が流され、現在は泥の斜面しか見えない場所に向かって、心はまるでいろんなものが目の前に見えているかのように説明していく。

「違う風景が見えてきました・・・飛行場のようですね。」
「え?飛行場?急に・・・どういうこと?」

「よく分かりませんが、戦争中の基地のようです。戦闘機の出撃ですね・・・特攻隊の隊員かな。見送った人たちはみんな厳しい表情をしています。あっ、本人も飛行機に乗り込んで出撃しました・・・でも、すぐに着陸して・・・本人は激しく泣いているようです。同僚の操縦士たちも慰めています。・・・あれっ?・・・あの操縦士は・・・似ているな・・・」

「どうしたの、心くん」

「僕のよく知っている人にとても似ているんです」

「えっ!誰!?」
    

      (続く)
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