46. 旅芸人として

文字数 1,410文字

「ええっと・・・ち、ちょっと待った!」 リューイはうろたえてそう言うと、レッドのそばまで駆け戻り、「おい、芸ってどんなのが芸なんだ。何をすればいいんだ。」
「いつも通りでいいんだよ。ほら得意のやつ、砂漠やイオの村で、盗賊相手にやったような動きを見せてやれ。それで立派な芸になるから。」
「あれは武術だ!」
 リューイが腹を立てると、エミリオが穏やかな声でこう言った。
「リューイ、技を披露してあげればいいんだよ。」
「技を・・・。」
「ああ。君がその体に得たものを、ほんの少し見せてあげればいい。イオの祭りの時も、君の強さを知ってみんな喜んでいたろう。」
「みんな、強い者を見るのが好きなんだ。」と、ギルも続けた。

 そして、ほかの仲間たちも笑顔でうなずきかけた。
 リューイは、いとも簡単に機嫌を直したようだった。

「分かった。」

 そうして再びステージに出たリューイは、なんの前触れもなく、いきなりバク転の連続技から、伸身宙返りで決めるという動きをしてみせた。人々はどよめき、それからまだ何かしてくれるものと思っていたので、息を呑んで待った・・・が、リューイはきょとんとしているだけである。

 やり()げたつもりのリューイは、戻っていいものかどうかと迷い、仲間たちの顔をうかがった。すると、レッドやギルが〝続けろ。〟という仕草(しぐさ)をしてみせている。それが分からず、リューイがきき返すような素振りをした時。再演の声が上がったのだ。それでやっと二人の身振りの意味を理解したリューイは、思い出したというように、遠吠(とおぼ)えのような声を上げてキースを呼んだ。

 村人たちをぞっとさせながら、リューイの隣へとやってきたキースは、そのあと、リューイに何やら指示されて、少し離れた。

 何を始めるつもりなのか・・・それは、仲間たちにも分からない。

 ただ、腰を落として身構え、キースと向かい合ったリューイの面上には、不敵な笑みが浮かんでいる。

 キースが飛びかかった!

 会場からは一瞬悲鳴も上がったが、落ち着いてよく見てみると、キースは牙を()くことはなく、(つか)みかかろうともしない。ただ素早く体を(ひるがえ)しては、リューイの体めがけて突進していくだけである。それをリューイも、体勢を柔軟に変化させて、くるくると()け続けた。技を披露してあげればいい・・・そう言われて思いついたのが、実際に友獣たちを相手にしていたこの訓練。こうして反射神経に磨きをかけ、自分なりに回避パターンを研究してきたのである。めまぐるしい動きでありながら、まるで息を合わせているようにさえ見える両者のそれは、格闘技であると同時に、一種のダンスのようでもあった。

 人々は興奮した。

「これは使える。」
 ギルが呟いた。
「今、本気で大道芸やらせようと思ったろ。」と、レッド。
「あら、いいじゃない。あと私の踊りと、エミリオの楽と、ギルの弓と、カイルの占いで旅費が作れるわ。ならやっぱり、あなたはファイヤーダンスね。」

 レッドはとうとう、言い返すことができなくなった。

 どっと歓声が上がった。村人たちは喜んでさかんに手を叩き、甲高(かんだか)指笛(ゆびぶえ)があちこちに鳴り響いた。

 その盛大な拍手と喝采(かっさい)の中で、カイルは一人誓いを立てていた。
 次の祭りの日には、フィアラもここに・・・。

 それからも、夜通しで陽気な(うたげ)は続いた。

 いつの間にか、村長や女性、それに子供たちも母親に抱かれて眠りながら帰って行ったが、男たちは構わず延々と(さかずき)を交わし合った。



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